テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
-–
第1話 鉄格子の月
分厚い鉄扉の閉まる音が、廊下に重く響いた。
夜勤の巡回は、看守にとってもっとも孤独な時間だ。
冷えた空気と湿った石壁の匂い。足音だけが延々と続く。
その夜も、大森元貴――omrは淡々と歩を進めていた。
若くしてこの刑務所に勤め始め、まだ経験は浅い。
それでも彼の眼差しの鋭さと規律を重んじる態度は、囚人にも同僚にも一目置かれていた。
彼が立ち止まったのは、東棟の奥。
鉄格子の向こうに座る囚人が、冷たい笑みを浮かべていた。
若井滉斗――wki。
彼は手錠の痕が残る手首を弄びながら、挑発するように言った。
「おい看守。俺のことは番号で呼べよ。名前なんか必要ないだろ?」
omrは一瞬だけ視線を落とした。
次の瞬間には、冷たい声で返していた。
「……俺は、人を番号では呼ばない。」
静寂。
数秒後、wkiは鼻で笑った。
「フン……変わった奴だな。」
そのやりとりは、ほんの短い時間だった。
だが、二人の物語はすでにそこで始まっていた。
夜空に雲が流れ、窓の隙間から月明かりが差し込む。
鉄格子を越えて床に落ちた光は、檻に閉ざされた空間を淡く照らしていた。
それは、誰にも許されない関係の、最初のしるしだった。