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6等分

1 - 第1話

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2025年07月28日

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画面越しに映るりうらは、いつも通りふわりとした笑顔を浮かべていた。だけど、目は笑っていなかった。


「……うん、コメントありがと」


ひとつひとつコメントを拾っていく彼の声が、少しだけ間延びしていた。

画面の端では、リスナー同士の言い合いが静かに続いていた。


「ちょっとだけ、話してもいい?」


彼はふと、口元から笑みを消して、まっすぐに画面を見た。

優しいけど、芯のある声だった。


「俺ね、アンチがくるのは……まぁ、仕方ないことだと思ってるんです。活動してる以上、そういうのってついて回るから。もちろん、傷つかないって言ったら嘘になるけど」


少しだけ視線を落とした。マイクの横に置かれた手が、ぎゅっと握られている。


「でも……それでも、俺に来るぶんには全然いいんですよ。俺ポジティブだし笑」


そう言いながらも、その声はほんの少しだけ震えていた。


「だけど、リスナーさん同士が喧嘩してるのは……見たくないな」


そっとマイクに近づきながら、今にも消えそうな声で続ける。


「俺が配信するのって、みんなと楽しい時間を過ごしたいからで。コメント欄が温かい場所であってほしくて……。なんか、俺のせいで空気が悪くなっちゃったなら、ごめんね」


画面の向こうには彼を責める人はいないのに、自然と謝ってしまうりうら。

それが、彼のやさしさだった。


「お願いがあります。アンチの言葉も、メンバーに向かうよりは、りうらにしてください。」


笑ってみせたその表情は、どこか痛々しくて。

だけど、最後の一言だけはしっかりと力を込めていた。


「でもね。リスナーさん同士では、言い合わないでほしいです。

俺の本望は、そうじゃないので」


コメント欄は一瞬、静まりかえった。


「……ごめんなさい、ちょっと、重たかったかも。こういうこと、あんまり配信で言うのもよくないかもしれないけど」


りうらの声が少しだけかすれていた。手元のマイクを握る力が、ほんの少しだけ強くなっている。


「でもね、りうら、配信って……“帰ってきたくなる場所”であってほしいんです。俺にとっても、みんなにとっても」


静かな言葉に込められた、真っ直ぐな願い。


「喧嘩とか、言い合いとか、そういうのって、やっぱ見てて苦しいじゃん。俺、コメントちゃんと見てるし、みんなのこと、覚えてる。名前もアイコンも、口調だって」


少し笑いながら、でもその笑顔はどこか切なげだった。


「だから、俺のことで怒ったりしてくれるのも、たぶん、俺のこと好きでいてくれるからなんだろうなって思うし……ありがとうって思う。でも、それでリスナーさん同士が傷つけあうのは、悲しいよ」


手元のパソコンを見ながら、少し視線を落とした。


「もし俺に何か言いたいことがあったら、俺に言って。誰かにじゃなくて、りうらに」


ほんの少し黙ってから、画面に向かって、ふわっとした笑みを浮かべた。


「りうらは……自分がどう言われても、正直、慣れてる部分もあるから。」


口元だけは笑っているのに、目がどこか寂しげだった。


「だから、他のメンバーのこと、あんまり悪く言わないであげてください。ほとけっちも、初兎ちゃんも、ないくんも、まろも、アニキも……みんな、ほんと頑張ってるから。俺にだったら、してもいいから。……それで、バランスが取れるなら、ね」


そんなふうに、笑ってしまう彼の優しさが、画面越しでも痛いくらい伝わってくる。


コメント欄は、だんだんと温かい言葉に染まっていった。


「ごめんね、真面目な話になっちゃって。でも、ちゃんと伝えたかった。ありがとう、聞いてくれて」


そして少し間を置いて、りうらは微笑む。


「……じゃあ、おつりうらで終わりましょうか!せーのおつりうらでしたー!」


いつもの、やさしいりうらの声が戻ってくる。


けれど、その笑顔の裏側に、誰にも見せない心の痛みがほんの少しだけ残っていた。


配信を切ったあと、静寂が部屋に落ちた。

モニターには、もう誰の言葉も映っていない。

けれど、りうらの胸には、残ったままだった。あの言葉たちが。


「……りうらにはしてもいいから、って……言ったけど……」

ぽつりと、自分で言った言葉を繰り返す。

小さな声が震えている。


涙が、頬を伝って落ちていった。

強がって笑ってた。気丈に配信を締めくくった。

けど、ほんとは怖かった。悲しかった。悔しかった。


スマホが、控えめに震える。

画面には「ないこ」の名前。


少し躊躇してから、通話に出る。

「……もしもし」


『……りうら。』

ないこの声は、優しくて、だけど真剣で。

まるで、全部を見透かしてるみたいだった。


『お前、泣いとるやろ』

「……泣いてないもん」

強がりを返しても、声が詰まる。


『配信、見てた。お前があんなふうに言うって、よっぽどやなって思った』


しばらく、沈黙。

そのまま切れてしまいそうな空気を破ったのは、ないこの静かな言葉だった。


『りうらはな、俺たちにばっか気遣いすぎやって』


「……あたりまえじゃん……みんなは大事だから」


『お前も、大事な仲間やろ』

ふいに、涙腺が緩む。

『りうら一人に抱え込ませるわけないやん。なんで、そうなるんよ?』


「……りうらにくるのは、いいの」

「でも、みんなには……」


『ちゃうやろ。りうらにだけ来るのが、一番あかん。なんでお前が全部受け止めなあかんの』

『俺たちは、6人で1つや。誰か一人にだけ辛さ背負わせるようなチームなんかじゃない』


りうらは、何も言い返せなかった。

ただ、声を殺して泣いた。

そんな自分を責めるように、また涙があふれる。


『しんどい時は、ちゃんと頼れ。な?』


「……ありがとう、ないくん……」

『全然。辛さは6等分な。りうらだけ抱えんな』


そして、少し間があって。


『あと、りうらがそう言うなら……今度の配信、俺も一緒に出るわ』


「……ほんと?」

『うん。俺らは一緒や。ずっとね』


 


その夜、りうらは少しだけ眠れた。

泣き疲れたあと、心のどこかがふっと軽くなっていた。

まだ怖さはある。けれど、それでも、ちゃんと繋がってる――

そんな確かな温度が、胸に残っていた。


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