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すぐに救急箱の入っている戸棚から慣れた手つきで絆創膏を取り出すと、傷ついた僕の指を優しく包むように手当してくれた。
(しゅん……)
心の中で何度も彼の名前を呼んでも、それは言葉になって口から出てはくれなかった。
手当てをしてくれてありがとうなのか、部屋を汚して皿を割ってごめんなさいなのか
言いたいことや申し訳なさで頭の中が溢れ返っていて
何からどう言えばいいのか全く分からなくなっていたからだ。
すると、手当てを終えた敦は玄関から余っている新聞紙を持ってきて
「危ないから離れててね」と優しく言うと
僕の代わりにテキパキと割れた皿の破片を片付け始めた。
その間、僕はただ部屋の隅で呆然と突っ立っていることしか出来なくて
そんな自分が不甲斐なくて仕方がなかった。
敦は今日も仕事をして、疲れて帰ってきているというのに
帰宅早々、更に余計な仕事を増やしてしまうなんて、愚の骨頂だ。
(…僕、なにしてるんだろ……っ)
自分に対する激しい嫌悪感に苛まれていると
いつの間にか床に散らばっていた危険な皿の破片は綺麗に片付けられていた。
「…はい、終わり。ねぇひろ、皿落としちゃったの?」
破片を新聞紙に包み終え、立ち上がった敦に直球で理由を聞かれたことで
僕は罪人のように何故か強く身構えてしまう。
「……え、あ…う、うん」
しかし、敦はなにかを咎めたり責めるようなことは一切なく、ただ事実を確認するように静かに尋ねてきた。
「ひろ……大丈夫?顔色悪いよ。さっき、俺が帰ってくるまでに何かあったの?」
相変わらず、敦の観察眼と洞察力は鋭かった。
僕の隠したい変化を逃さない。
「そ……それ、は…っ」
敦の真っ直ぐな問いかけに、僕は言葉を詰まらせた。
大丈夫かと問われれば、心も身体も全く大丈夫ではない。
だが、その理由を話してと言われても
自分の中で複雑に絡まり合った恐怖をうまく説明できる自信がなかった。
それでも、何かを言わないと、敦を余計に困らせて心配させる気がした。
「……ちょっと、トラウマのこと、思い出しちゃって…」
結局僕の口から出てきた言葉は、それだけだった。
敦の前で、浜崎くんという忌まわしい名前をあまり口にしたくなかったのだ。
あの名前でこの空間を汚したくなかった。
「トラウマって…なんの拍子に思い出しちゃったか…聞いても大丈夫?」
「……ぅ、うん。その…お皿拭きながらテレビ見てたら、思い出すような……暴言が聞こえてきて……それで、怖くなっちゃって…」
床を見つめ、俯いたまま絞り出すように告げると、敦は黙って僕の肩に大きな手を置いた。
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莉乃ちゃん
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