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ーーーこの世界には様々な特徴を持った人がいる。全員が特徴を持っている訳では無く、むしろ特徴を持った人は少ない。今回の物語は、ある特定の行動をすると、相手を従わせることが出来る能力を持つ″ドル″の物語。
カフェで働く土岐奏人(とき かなと)とドルでサラリーマンの矢野偉二(やの えいじ)このふたりがどうやって結ばれることができたのか、その様子をお届けしますーーー
俺の名前は土岐奏人(とき かなと)。高校で進路を決める時、特に夢もなく、勉強が嫌いだった俺は、大学には行かずに就職することを決めた。
就職先は就職すると決めた時からもう決まっていた。俺の両親の二人で経営しているカフェを手伝って欲しいと言われていたからだ。
2人の経営するカフェ【きらくに】はとある街の商店街に建っている。昔から客の入り数は少なくもなく、多くもなくだったが、とある有名YouTuberが父の入れるコーヒーと母の作る料理がとても美味しいと発信してくれ、評判になってきている。
その影響で客の入り数が増え始めたため、手伝って欲しいとの事だった。
やりたい仕事もなかったので、俺は快く引き受けた。高校を卒業した俺は4月から手伝うことになった。
俺の仕事は接客とレジ打ち。高校でコンビニでバイトしていたため、接客とレジ打ちは難なくできた。ここで働くのにも慣れてきたある日。
ーチリンチリン
扉に付いている鈴の音を聞き、俺は入口に向かう。
「いらっしゃいませ」
入ってきたのは1人の男性だった。その人はとてもスタイルがよく、顔も俳優のようにかっこよかった。ただ、目は少し鋭く、少し怖い印象もあった。
かっこいいなぁ、この人。素直にそう思った。
「あの」
彼のその一言で我に返り、慌てて口を開く。
「あ、失礼いたしました!お好きな席へどうぞ〜」
それを聞いた彼は、奥の席に座る。俺はそこへ水とおしぼりを持っていく。
「ご注文決まりましたらそちらのボタンでお呼びください」
俺はその場を離れる。しばらくすると、呼び鈴がなった。さっきの男性の席だ。俺は席へ向かう。
「ご注文お伺いします」
「あの、なにかおすすめとかってありますか?」
「そうですね…」
おすすめなんてはじめて聞かれて戸惑った俺は
素直に自分の好きなものをおすすめする。
「ランチセットAですかね。シンプルなサンドイッチですけど、だからこそ美味しいです!」
「じゃあ、それでお願いします」
「はい、ランチセットAですね。他にご注文は?」
「いえ、大丈夫です」
「かしこまりました。少々お待ちください」
伝票に注文を書き、厨房に渡す。
「お、ナイスタイミング。これ、8番テーブルね」
「はーい」
しばらくしてさっきの男性の分も出来上がった。
「はい、これ3番テーブルね」
「はーい」
父から取り、3番テーブルへ持っていく。
「お待たせいたしました。ランチセットのAになります。ごゆっくりどうぞ〜」
「ありがとうございます」
そしてそのままその場を離れる。しばらく忙しかったがだんだん客も減り、特にやることもなく仕事がないか周りを見渡していると、ふとさっきの男性がコーヒーを飲んでいるのが見え、つい見てしまう。
彼はランチを済ませた後、コーヒーをおかわりしてまだカフェに残っていた。仕事の資料だろうか。何か紙をみながらコーヒーを飲む彼の姿は、とても絵になった。
まるでドラマのワンシーンのようだ。にしてもかっこいい。俺にもそのイケメンさを分けて欲しい。
そんな事を考えていると、俺からの視線を感じたのか、男性がこちらを見る。目が合ってしまい、俺は咄嗟に目をそらす。
それからそんなに時間も経たないうちに、男性は立ち上がる。カバンと会計札を持っている。もう帰るようだ。俺はレジに向かう。男性は会計を済ませると、ニコッとしながら口を開く。
「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
「ありがとうございます!父と母に伝えておきますね」
「父と母?もしかしてご家族で経営されてるんですか?」
「はい!そうなんです。元々父と母の二人で経営してたんですけど、私も今年高校を卒業して手伝うことになりまして」
「そうなんですね。親孝行されていて、偉いですね」
「いえ、そんなんじゃないです。ただ特にやりたい事もなかっただけので」
「それでも、お店を手伝うっていうのはすごいことだと思います」
「ありがとうございます」
「長話してしまってすみません。また来ますね」
「いえいえ!ありがとうございます」
そして男性は店から出ていった。怖い人かと思ったけど、案外いい人のようだ。ニコッと笑った笑顔も、怖そうな彼の印象を和らげた。
その後、彼の言っていたことを両親に伝えると、とてもよろこんでいた。
次の日。俺はいつも通り店を手伝う。
ーチリンチリン
「いらっしゃいませ」
扉の方を見ると昨日の男性が立っていた。″また来ますね″と言っていたが、本当に、しかもこんなに早く来るなんて思ってもみなかった。
「お好きな席へどうぞ」
彼は奥の方へ進むと、昨日と同じ席に座った。俺はそこへ水とおしぼりを持っていく。
「ご注文決まりましたらお呼びください」
そう言って立ち去ろうとすると、男性は「すみません」という。
「はい」
「注文、今してもいいですか?」
「はい!お伺いします」
「ランチセットBでお願いします。」
「ランチセットBですね。他にご注文は?」
「大丈夫です」
「かしこまりました。少々お待ちください」
俺は厨房へ伝票を渡しにいった。
「昨日言ってた人、また来てくれたよ」
「おぉ、本当か?」
「うん、ほら、あそこに座ってる人」
「まぁ!かっこいい人ね!」
「でしょ?俺も俳優かと思った」
そんな会話を終え、俺は業務に戻った。男性は、今日もランチを終えた後、コーヒーを追加で注文し、仕事の資料であろうものを確認していた。
お会計の時にもまた、「ご馳走様でした。また来ますね」と言って店を後にした。
そしてその後も彼は定休日以外毎日同じ時間に来てくれた。毎日違うメニューを頼んで。カフェなので、そんなに数も多くなく、全メニュー制覇した彼は、ランチセットAが気に入ったのか、それを頼むのに定着していた。
そんなある日、とある2人組のYouTuberが来店した。撮影許可を求めて来たので両親に確認したところ、他のお客様の迷惑にならないなら大丈夫との事だった。俺はその事を伝え、席に案内する。
彼らはランチセットを一つだけ頼んだ。2人中1人はカメラ担当らしい。俺はランチセットを持っていく。
「お!来ましたね〜!みなさん、見て下さい!」
どうやら生配信をしているようだ。
「ごゆっくりどうぞ」
俺はそう言い残してその場を去る。その後俺は仕事をしながらもYouTuberの方へ耳を傾けた。
「まずはコチラのサンドイッチを食べてみましょう」
彼はパクッと1口食べる。
「おっ、これは、ハムカツサンドなんですけど、まさにハムカツサンドって感じですね!まぁ、普通ですかね〜」
その言葉に俺は少しイラッとする。
「それではこちらのコーヒーも頂きたいと思います!」
彼はひとくち飲んで、険しい顔をする。
「ん〜、そうですねぇ…これもまさにコーヒーって感じ?まぁ、コンビニとそんなに変わらないかな〜」
それを聞いて更にイラっとした俺は文句を言おうとYouTuberの所へ行こうとするが、幸いYouTuberの言った事は両親のいる厨房には声が届いておらず、ここでトラブルになったら逆にお店や両親に迷惑がかかるかもしれないと思いとどまる。
「はい、ということでね、あの有名YouTuberも来ていたお店なんですけど、そんな大したことなかったですね!まぁ、有名人が来たからみんな来てる、みたいな感じでしょうね!」
それを聞いてイライラしながらYouTuberを見ていると、YouTuberと目が合う。
「おっと、店員さんが怖い顔で見てます!」
しまった。イラついているのが顔に出てしまっていた様だ。
「ちょっとまだ食べきれずに残ってるんですけど、これは早く出てった方がいいみたいですね!さぁ、出ましょう出ましょう!」
ゲラゲラ笑いながら俺の方を見て言う。
「店員さ〜ん、お会計、お願いしま〜す」
そう言われて俺はYouTuberの方へ向かう。
すると、ふと後ろから肩にぽんと手が置かれる。後ろを振り向くと、いつもの男性が立っていた。彼は僕を見てニコッとした。
「ここは僕に任せて」