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ほしのはな
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佐野:…ちょっとお家お邪魔するよ
吉田君は聞こえてるのか聞こえてないのか分からないけど、微かに頷いたように俺には見えたから、靴を脱いで家にあがった。ここで寝かせる訳にはいかないしな…吉田君の肩に手を回してなんとか立ち上がらせるが歩く気配が全くない
佐野:吉田君?歩ける?
吉田:、っ、、
目瞑ったままだし、こりゃ無理だな。膝裏に手を回しそのままヒョイっと持ち上げる。 吉田君は俺に完全に身を委ねているというか、多分持ち上げられているのにも気付いてないのでは、?と思うくらい無防備だ。密着する体から熱気をヒシヒシと感じる
佐野:えっと、寝室……ここか?
布団の脇には空のペットボトルが転がっている。綺麗好きの吉田君がペットボトルそのまま放置するくらい動くのも辛かったのかな。吉田君をそっと降ろして布団に寝かせると、先程よりは均等な呼吸音が聞こえる。うわ、寝てる吉田君、俺の理性にぶっ刺さる……って、俺ほんと良くないよ?!
佐野:ふぅ……落ち着け俺……あ、やべ、忘れてた
買ってきた物が玄関に置きっぱなしなことを思い出し立ち上がろうとすると、吉田君は薄く目を開けて心配そうな顔でじっと俺を見ている。だから、少しでも安心してほしくて出来るだけ優しく語りかける
佐野:大丈夫。今買ってきたもの持ってくるだけだから。すぐ戻ってくる
吉田:…わぁ、った…
佐野:水ここに置いておくからね。あと2本は冷蔵庫に入れてるから、遠慮せずとにかく飲みまくって。なんか、食べれそう?
吉田君に尋ねるが力なく首を横に振る。そうだよな。動くのも辛いのに食べるなんて無理か
佐野:分かった。とりあえず一旦寝てから何か食べよう。じゃないと薬も飲めないしね。ちょっと汗拭きたいから、タオル借りたいんだけど…使っていい?
吉田:……ぁせ、?
佐野:そう、拭かないと冷えピタ貼っても気持ち悪いかなって
吉田:…ん、、
ちょっと会話のドッジボールが出来ているか不安だが、とりあえず許可をもらえたことにしよう。探索すると、洗面所にあった無地のタオルが目に付いた
佐野:これ使うよ?
って言っても聞こえてないか。蛇口をひねり水で濡らす。あぁ、なんか不思議だな。俺、今吉田君の部屋の、洗面所とか寝室にいるなんて。正面を向くと鏡には俺の顔に映し出されていたが、無意識に口角が上がっていることに気付く。自分の不謹慎な締まりのない顔に呆れ、頭を振って意識を切り替える。今は何より看病が最優先だ。俺は急いで寝室へと引き返した
佐野:おまたせ。じゃあ拭いていくね
そっと前髪を分けておでこにタオルを当てる
吉田:っ、、ん、、
佐野:大丈夫?
吉田:、うん、、
その声はアウトだろ…という気持ちを抑えておでこ、首、腕…とりあえず露出しているところは満遍なくタオルで拭いた。冷たかったタオルも吉田君の熱を吸収して徐々に温くなっていく
佐野:とりあえずはいいかな。じゃ、冷えピタおでこに貼るから前髪あーげて?
吉田君は指示通り前髪をあげて俺が貼るのを待っている。子供みたいで可愛いなぁ、なんて雑念を払うように俺はゆっくりと貼り付けた。相当冷たかったのか、吉田君は体を震わせて、目をぐっと瞑る
佐野:…よし、大丈夫かな……ん?どした?
貼り終わってどけようとした俺の手首を、吉田君は前髪を押さえていた手で弱々しく握りしめた。そして、ゆっくりと、白くてもちもちしている頬に俺の手の甲を当てる。さっき拭いた冷たさの余韻はもう無くて、俺の手にじわっと熱が伝わってくる
吉田:…て、、きもちいい
佐野:!?
目尻を下げて、ふにゃりと笑う。そして、俺の手を下に移動させて首にピタッと密着させると、「つめたい、きもちいい」なんて言って笑うのだった。対照的に俺はこの無自覚ボーイからの攻撃に唇を噛み締めて耐え続けた。だって、塩﨑君、いや太智から言われただろ……
塩﨑:じゃ、仁人のことよろしくお願いします!
佐野:任せろ!塩﨑!
塩﨑:塩﨑って笑、俺、下の名前太智なんで、それでいいっすよ
佐野:あ、ほんと?じゃあ太智任せろ!
塩﨑:任せた!!…でも1個だけ
太智は俺に近づくと、耳元でハッキリと言われた
塩﨑:仁人の許可無く手出したら、許さんよ
固まる俺の肩に手をおいて、「じゃあね!」と言う太智の表情はいつもの通りの笑顔だったが、目の奥には強い意志を感じた。あれは、確実に俺に対する忠告だろう
佐野:…たく、病人に手出すほどえぐい人間じゃねぇよ
吉田君はかなり心地よかったらしく、だんだん目が閉じていき、俺の手を握っていた力も弱くなってきた
佐野:…もう寝な?
吉田:、と
佐野:と?
目閉じてるし、完全に夢と現実の狭間にいそうなんだけど、なんかぼそぼそ言ってんだよな。もしや何か俺に伝えたいのか?そう思い、口元に耳を近付ける
佐野:ごめん、もう1回言える?
吉田:は、ゃと、
佐野:はやと……勇斗っ!?
ええええええええええええ
勇斗!?勇斗って言いましたよね!?聞き間違いだと思いたくないんだけど!?
佐野:吉田君?吉田君!!もう1回!!
吉田:んぅ、、いや、、
佐野:…嫌ですよねぇ
そりゃそうだ。てか病人に無理させてまで俺の名前を呼んで欲しいわけではない。悔しいけどまたの機会があることを信じよう
吉田:、なまぇ
佐野:……ん?名前?
吉田:なまえ、吉田君、、、ぃや、
佐野:……え、もしかして、苗字で呼ぶのが、嫌だった?
吉田:、、、ん、
吉田君は俺の質問に対してこくりと頷いた。はぁぁ、もう十分幸せだよ?だからさ、本当に頼むから寝てくれ!!怒涛の幸せの供給に耐えながら、心の中で懇願する。油断すれば一瞬で理性が吹き飛んでしまいそうな状況の中、俺はただ、大破しそうな理性を必死に死守することしかできなかった
佐野:分かった…仁人、おやすみ
吉田:、ゃすみ、
うわぁ、すげぇ満足げな顔するじゃん。んで寝るの早!!そんな、これ言うためだけに起きてたってこと!?は?尊すぎだろ。んで手!ずっと掴んで離さないじゃないですか!?なんか、俺より小さいしもちってしてるし…やばいやばい…動けないし動きたくない。でも逃げないと俺が壊れる!!!!
俺の中の葛藤は数十分続き、勝者は俺の理性だった。起こさないようにそっと手を離し、リビングにあるソファーに腰をかける。なんて恐ろしい子なんだ…確かに、今ままで塩﨑君の護衛があってよかったのかもしれない… てか、俺も正直眠い。昨日深夜までレポート課題やってたし…ほんの少しだけ目を瞑ろう
と思ったのだが、いつの間にか寝てしまったらしい。何かが触れる感覚がして目を開けると、そこにはふらつきながら俺にブランケットをかける仁人がいた
吉田:、ん?
起きるとおでこに違和感を感じる。これ、 いつから貼ってたんだ?シートのフチはすっかり乾ききって、額に硬くへばりついていた。倦怠感を体の節々に感じながらゆっくりと起き上がり、リビングに向かう
吉田:うわっ!?
ビビったぁ…誰がソファに座ってると思ったらそこにいたのは佐野さんだった。え、なんでここに…あ、そうだ。太智に言われて来た的なこと言ってたよな。佐野さんの発言を思い出してスマホの通知を見ると
『太智:佐野さんがお見舞い行ってくれるって』
『太智:レジュメ取ってあげたからあとでなんか奢ってくれてもいいんよ?』
『太智:てのは冗談で、とりあえずはよ体調治してな』
吉田:……珍しい
絶対太智が来ると思ってたけど、佐野さんのこと信用してるんだ。一体何があったんだ…とりあえずスマホをポッケに入れ、ブランケットを引きずりながら持ってくる。あぁ、やばいなぁ…すげぇふわふわする…熱下がった気がしたけど、もうちょい寝ないとな
そんなこと考えながらそっと佐野さんに掛けてあげると、その感覚に気付いたのかゆっくりと目を開けた
吉田:あ、起こしちゃいましたか?
佐野:…ありがとう、ってそれより大丈夫?!
吉田:…うん
佐野:大丈夫じゃないでしょ…フラフラしてるし……とりあえず座りな?
このソファーは1人がけ用だから2人座るには狭すぎる。心の中で「どけろよ! 」と叫んでいるのだが、佐野さんは手を広げてじっと何かを待っている
吉田:…えっと
佐野:ん?おいで?
吉田:……オイデ?
佐野:うん。俺の上に
吉田:は、え?だ、だめですよ!俺の病原菌が移ったら佐野さんが大変だし
佐野:…大丈夫だよ。俺マスクしてるし。それに、くっつきたそうにしてたじゃん。だから、ね?
だめだ。熱がぶり返してきたせいなのか、はたまた佐野さんの謎の圧のせいなのか分からないがまた目眩がしてきた。はぁ、この人を説得する元気は今の俺には無い。覚悟を決めて、手を広げる佐野さんに跨るように乗っかった。恐る恐る肩に頭を預けると腕を背中に回されてギュッと包囲される。意外と、安心感に包まれてしまい思わず目を瞑る
佐野:…なんか食べる元気出た?
吉田:うん…ありがとうございます
佐野:……てか、佐野さんって呼ばないでよ
吉田:…ん?
何を言っているんだ?不思議に思い顔を上げると佐野さんと目が合う。初めてのこんなに近い距離で、少しだけ気恥ずかしい
佐野:え、もしかして覚えてない?
吉田:……うん
佐野:さっき、勇斗って言ってくれたじゃん。それに苗字で呼ぶの嫌がってたし、吉田君は嫌だって
吉田:は?!
は、え、俺 、そんな変なこと言ってたの?!熱のせいだけでは無い顔の熱さを感じる。その熱が体中を駆け巡る。確かに、いつか下の名前で呼ばれるくらいの関係性になったら嬉しいかも…なんて、心のどこかで思っていた。だけど、まさか口を滑らせてしまうなんて……
佐野さんは俺の反応を伺うようにじっと見つめてくる。なにか、言わないと…ちゃんと考えて喋りたいのに、頭がクラクラして思うように動かない。俺の自制心が、機能しない
吉田:…勇斗、ありがとう
恥ずかしさのあまり、顔が見えないように胸に顔を埋める。勇斗の微かな笑い声と共に、俺の頭を、あの告白された夜のように優しく撫でられる。あの時はどちらかというと不快感が強くてムカついたのに、今はその感触が妙に心地良い
佐野:可愛いなぁ
吉田:…んなわけ
佐野:……仁人は俺のことどう思ってる?
吉田:え、?
勇斗のことを、どう、思ってる、か?靄がかかった頭で必死に考える。勇斗はただのお隣さんだ。でも、ゼミが始まる前の時間に太智に遮られながら話すうちに、初めて話した時に実感した真っ直ぐさをより感じるようになった。それに、今日、こうやって赤の他人なのに、すぐ帰れるのに必死に看病してくれて、実直で、優しくて、安心感があって……
考えが上手くまとまらなくて黙る俺の耳元で、勇斗の声が響いた
佐野:……俺は、隣人以上だと思ってるよ
吉田:、っ、!?
恥ずかしくなって腕を突っ張り体を離す。勇斗は目元しか見えないが、まるでやってやったと言わんばかりのニヤケ顔だ
佐野:…ごめん。仁人弱ってるから甘いこと言ってくれるかな、なんて期待しちゃった
吉田:ば、馬鹿なの?!スケべ!!
佐野:スケべって笑、ごめん、そんなこと思ってないよな…もう体調安定してそうだし、隣に帰るわ
勇斗はトートバッグを肩に背負うと「じゃあね」と手を振って玄関に通じる扉を開ける。その時、一瞬だけど、寂しそうな顔に見えた。僅かに、目の奥が揺らいだように感じた
吉田:…違う、!
佐野:え?
思わず服を引っ張る。勇斗はいきなり引き止めた俺に驚いているようだった。玄関では勇斗に申し訳ないから手を離したけど、もう、離さないで、伝えたい
吉田:耳元で言われたのが、その、恥ずかっただけで……俺も、ちゃんと、お隣さん以上の関係性になってる、気がするから…
勇斗は目を見開いて固まっていたが、数十秒後、頭を抱えてしゃがみこんでしまった
吉田:え?!
佐野:はぁぁぁ、、
吉田:大丈夫、?
勇斗の顔を覗き込もうとすると「近付かないで」という声が聞こえた。そうだよな…看病してやった奴からそんなこと言われたら、普通引くよな
何も言い返せなくて俯いていると、俺の様子に気付いたのか、勇斗は物凄いスピードで立ち上がるやいなや目の前でアワアワとテンパり始めた
佐野:ちが、!その、近付かれると、あの…
吉田:…近付くの嫌だったよな
佐野:むしろ大歓迎過ぎて!
……大歓迎?勇斗を見ると、前髪をくしゃりと乱暴に掻きむしり、真っ赤な顔を覆って絶叫した
佐野:近付かれると、俺の理性が保たないから!!…もう、手出そうだし、でも仁人は病人だし太智からは釘刺されてるし!!
えっと、この人は耳真っ赤にしながらなんてこと叫んでんの。予想の斜め上の回答で困るんだけど。でもちょっとだけ、俺自身でも分からないけど、なんか嬉しくて…
勇斗は深呼吸をして、俺の手をそっと握る
佐野:だから、早く元気になって。でも元気になった姿見たら場所問わず抱きつく気がするけど許してね。あと、体調悪くなったり、てか体調悪くなくても困ったことあったらいつでも壁叩いて。なんなら壁際で俺の事呼んで。てか、呼んで欲しい。そしたら俺が嬉しi
吉田:うん、 分かった…分かったから!!!
これ以上恥ずかしすぎて聞きたくないわ!それに、止めないと一生喋りそうだし。俺は意味不明な言葉を発し続ける勇斗をなんとか玄関まで押し出した
吉田:はぁ、はぁ、、 今日はありがとうございました…後でお礼します
佐野:別にいらないよ。弱ってる仁人を堪能できたし
靴を履きながら真顔ですごいこと言うじゃん。俺はもうその言葉の真意を処理するのもめんどくさくて、適当にはいはいと受け流しなから玄関の扉を開けた
吉田:本当に、一人だったらやばかったから、すぐ帰れるのに一緒にいてくれて…ありがとうございました
佐野:うん……お大事に
勇斗は外に出たが、じっとこちらを見つめたまま動こうとしない。何か言おうと小さく唇を開いたものの、結局は口ごもり視線を落とした
え、なんだ?その視線に耐えかねて声をかけようとした瞬間、勇斗は意を決したように再び顔を上げて、ハッキリと告げた
佐野:……もう1回ハグしたい
吉田:だめです
そんなムッとした顔しなくても笑、俺の言葉に対して明らかに不貞腐れてて可愛いな。でもこれ以上近くにいたらガチで移しちゃいそうだしなぁ……
あ、そうだ。俺はサンダルを履いて、勇斗の目の前まで歩みを進める。そして、少し背伸びをして耳元に顔を近づけ、勇斗にしか聞こえない声量で言ってやった
吉田:次会える時までお預けです
佐野:っ、!!!
吉田:じゃ、おやすみなさい
バタン
扉が閉まると同時に反射的にガッツポーズをした。いつもやられっぱなしだから今日くらいいいだろ。あの勇斗の驚いた顔、面白かったなぁ。俺はそんなことを考えながら、冷蔵庫を開けて勇斗が買ってきてくれた水を飲んだ
今のは現実なのか?頬をつねるとジンジンと痛みが走る。それなのに、明日が締切のレポートを作っても、風呂に入っても、夕食を食べても、ずっと夢の中にいるみたいだった。ベッドに体を預けて横になる。ちょうど目線の先にあるのは仁人の部屋。壁の向こうに仁人がいると思った瞬間、また、頭の中であの声がリフレインした
「次会える時までお預けです」
佐野:あぁクソッ!!もぉ、寝れねぇよ……
久々に投稿できて嬉しいです。♥500こえ次第、次いきます
コメント
3件

神ですか最高すぎます!!! 続き待ってます♪
あーもう第5話、尊すぎてやばいです…!!✨ 看病されてる吉田くんの無自覚な甘え方が反則級で、特に「つめたい、きもちいい」って手を頬に当てるシーン、あれは佐野くんの理性が死ぬの分かる…! そして「次会える時までお預けです」って最後に返す吉田くん、やっと攻めに回れた感じがして微笑ましかったです笑 太智くんの警告も効いてて、でも佐野くんがちゃんと理性で踏みとどまるからこそ、このじれったい距離感がたまらない…! お互い意識し始めてるのがヒシヒシ伝わってきました。続きすごく気になります…!