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放課後。
いつものように一緒に帰ろうとしたのに——
「……今日は、寄り道したい」
澪(冬月さん)が珍しく、自分から言ってきた。
「え、どこ行くの?」
「……人が少ないところ」
「うん、ついてく!」
彼女に連れられて歩いていくと、
学校から少し離れた静かな公園に着いた。
ブランコが二つだけある、
誰もいない小さな公園。
「ここ……?」
「うん」
澪はブランコにそっと座った。
私は隣に腰を下ろす。
「……今日、変だった」
「変って?」
「……私が」
彼女はブランコの鎖を握りながら、
少しだけ揺れた。
「りなが他の人と話すだけで……胸がざわざわした」
「嫉妬でしょ?」
「違う」
「じゃあ何?」
澪は小さく唇を噛んだあと、
ぽつりと零した。
「……怖かった」
「怖い?」
「りなが、どこか行っちゃうの。
私以外の誰かを好きになるの」
「……っ」
思わず息が止まった。
「私……人に期待するの、苦手で。
裏切られるのが怖いの。
だからずっとひとりでよかった」
彼女の声は静かで、少し震えていた。
「でも……りなといると、それができなくなる」
「それって……」
「依存したくないのに、してしまいそう」
弱いところを見せるのは、
きっと彼女にとってすごく勇気がいることだ。
私はそっと澪の手に触れた。
「うちは裏切らないよ」
「……どうしてそんなこと言えるの」
「だって冬月さんのこと、ちゃんと大事にしたいから」
「……簡単に言いすぎ」
「簡単じゃないよ?」
私は指を絡めるようにして、
澪の手をぎゅっと握った。
「うち、冬月さんのこと、ほんとに好き」
「……っ、りな、いまそれ……」
「告白じゃないよ? まだ」
「……“まだ”?」
「うん。
でも、冬月さんの弱いとこ知って、
もっと好きになった」
澪は私の手を握り返してきた。
ほんの少し、震えながら。
「……私の弱いところ、誰にも見せたことない」
「光栄だね」
「……りなだからだよ」
そう言った澪の横顔は、
夕暮れに照らされて綺麗すぎて直視できなかった。
しばらく静かに手をつなぎながら、
ブランコがゆっくり揺れる。
「ねぇりな」
「ん?」
「私のこと……どれくらい、好き?」
「冬月さんは?」
「聞いてるのは私」
「うーん……」
私はブランコを止めて、
澪を正面から見つめた。
「他の誰にも向けない特別な気持ち、
全部、冬月さんに向いてるくらいには好き」
「……っ」
澪は視線をそらし、
耳まで真っ赤になった。
「……そういうの反則」
「冬月さんが聞いたんじゃん」
「聞いたけど……想像以上だった」
その呟きが可愛すぎて、
私は笑ってしまう。
「冬月さんも言っていいんだよ?」
「……まだ言わない」
「えー、けち!」
「ちゃんとした時に言う」
(ちゃんとした時……
そんなの意識したら、期待しちゃうじゃん……)
その日、
澪の“弱さ”と“強がり”を知って、
私は本気でこの子を守りたいと思った。