「ごめんなさいっ掃除で遅れちゃいました!」
校門の前で1人で待つ美少女の元に光太は小走りで駆けつける。彼女は駆け寄る僕をみて、少し目を見開きすぐに目を逸らした。
「大丈夫よ気にしてないわ」「っ、ありがとうございます」思っていたのとは違う返しがきて少し驚いた。もっとこう棘のある人だと思っていたからだ。「じゃあ行きましょう!」
そうして2人は横並びでゆっくりと歩き始めた。
駅前に新しくできた「cafe’Ancelotti」に着き光太は驚いた。雄一に進められて場所をここにした光太はこの店がどんなものか知らなかった。そう、ここはメイドカフェだったのだ。
「あいつ今頃どうしてるかな」と悪い笑みを浮かべる雄一が頭に浮かぶ。
僕でこんなに気まずいんだ、葉月先輩はどんなだろうと思い視線を送ると「そういう趣味があったのね幻滅したわ」と言わんばかりの冷たく鋭い視線が返ってきた。
今回ばかりは弁明のしようもなかったが「一旦入りましょう、事情は中で話します。」とあたふたしながら話す。慌てふためく僕の姿を見た彼女は勝ち誇った顔をして「しょうがないわね」と声高らかに答えた。
店内に入ると僕はもちろんオドオドしてしまったが、さっきまでの態度はどこに行ったのかと思うほどに彼女も萎縮してしまっていた。
「お帰りなさいませご主人様♡お嬢様♡ただいま席にご案内しますね♡」「あ、は、はい」
メイド服を着た僕らと同年代かいくつか年上くらいの顔の整った女の子が席へ案内する。
「ご注文はそちらのメニューでお決めになられたらベルを鳴らしてお呼びください」
僕も彼女もどっと疲れた様子で話し始める。
「あの、何食べますか?」
「あなたと、氷川くんと同じものでいいわ」
なんの恥ずかしげもなくそんなことを言われ僕も少し動揺する。
「じゃあ、このオムライスでいいですか?」僕が聞くと「ええ」と淡白な返事がきた。ベルでメイドさんを呼ぶと
「はぁぁーい♡ただいま向かいまぁーす♡」
ともはやアウトなのではという声を出してさっきのメイドさんが僕らの卓にくる。
「ご注文はなにになさいますか?」
「じゃあえっとこれ2つください。」「??」
「これです」とメニューを指さしてもう一度言う。「どれでしょう?」赤面している僕を弄り回すようにメイドさんは聞き直してくる。
商品名をいうまであくまで見逃してはくれないのだろう。「この、ら、らぶりーあんどすうぃーとオムライスを2つ、お願いします」人生で1番なのではないかと言うくらい顔が熱く恥ずかしかった。
「はい、かしこまりましたラブリー&スウィートオムライスが2点ですね♡ただいま作るので少々お待ちください♡」と僕の反応を楽しむように笑みを浮かべながら店員さんが去っていく。はぁとためいきをつくと彼女が不機嫌そうな顔をしてこちらを見ていた。またなにかやってしまったのかと思い謝ろうとすると、
「それでどうしてこんなお店なのかしら」と鋭い質問が来た。そこで包み隠さず全て話した。
「そういうことだったのね」「は、はい」
「それと入学式の朝はごめんなさい」
「?なにかあったかしら」彼女が心当たりが無い様子で聞き返す。
「先輩だと知らずに生意気なこと言っちゃって」「ああ、気にしてないわ。それに助けてもらったのだから文句なんか言えないわ。」律儀な人だと思った。「あと、」勢いに任せてもうひとつのやらかしについても言おうと思う。
「そのメッセージに返信しなかった件なのですが、」僕が気まずそうに話し出すと、水を飲んでいた彼女の動きがピシャリと止まる。続けて「メッセージを見てなんて返そうか悩んでるうちに寝落ちしちゃったんです。本当ごめんなさい!」顔を見れずに頭を下げて謝る。
それを聞いて結羽はほっとした顔をしていた。机の下で小さくガッツポーズもした。
だが頭を下げたままの光太にはどんな顔をしていたのかなんて分からなかった。
「そういうことだったのね。てっきり嫌われているものだと思っていたわ。」
「そんなことは絶対にないです!」
「そう、よかったわ」彼女の頬が緩む。
これで謝ることは全部済んだと思い心が急に軽くなった。そこで丁度頼んだものが届いた。
だがおかしい。なぜならオムライスの卵全面黄色なのだ。ケチャップがかかっていない。
気づいた時にはもう遅かった。僕のすぐ隣でケチャップを握りしめ不敵な笑みを浮かべるメイドがいた。「それじゃあ一緒にあいこめしましょう。」あいこめ?何を言っているのか分からなかった。ちらと前に座っている葉月先輩に目を向けるが彼女は助け舟を出すどころか見て見ぬふりをしていた。僕は絶望した。
「それじゃあおいしくなぁーれ萌え萌えきゅんでケチャップかけましょうね」「うっ」
「せーの」
『おいしくなぁーれ萌え萌えきゅん』
死にたい。それ以外に言葉が出てこない。
そして矛先は目の前に座る彼女に移った。
「それではお嬢様もいきますよー」「えっ」
「せーの」
『おいしくなぁーれ萌え萌えきゅん』
彼女も僕と気持ちは同じだろう。死にたいとそう思っているに違いない。
「それではお召し上がりください。」ところがメイドが一向に去る気配がない。
「あの、いかないんですか?」僕が戸惑いながら聞く。するとメイドさんは
「食べてるところ見たくて」と言った。一瞬メイドさんの素が出たような気がした。
「はぁ」と気のない返事をして僕と葉月先輩は食べ始める「いただきます」そういいスプーンを手に取った葉月先輩はとても絵になる。
僕も「いただきます」といい食べる。
1口目を食べて驚いた。とても美味しかった。ほっぺたが落ちるほどに。思わず笑みが零れ前に座る彼女も驚いた顔をしていた。僕らの表情を見て満足し、メイドさんは去っていった。はずだった。ところがメイドさんは別の卓から椅子を持ってきて僕の隣に座った。『え? 』僕と葉月先輩は口を揃えた。「いや少し話したくてと」その整った顔を少しくしゃりとさせながらメイドさんが笑う。「その制服、私も同じ学校だよ。」驚きの一言に僕は喉をつまらせ咳き込む、葉月先輩はスプーンを床に落とし、目を見開いていた。
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