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「幾ヶ瀬ぇ……」
「幾ヶ瀬じゃないよ。お客さ……うぅん、イクセさんでいいか。呼んでみて」
有夏の頭を抱き寄せるように近付けて、その耳元で繰り返す。
「ほら、呼んで」
「ヤだよ」
「悪い子だね、客の望みを聞かないなんて」
言いながら幾ヶ瀬……いや、イクセの唇はニヤリと笑みを形作る。
「有夏、ちょっとした遊びだって。言うこと聞いてくれたら、好きな物なんでも買ってあげるから、ね」
悪戯の相談でもするかのように小声で。有夏がチラリと彼を見やる。
「ホントに何でも? すっごい高いやつでも……?」
背筋を這う快楽に押されたのか、それとも何でも買ってあげるに乗ったのか。
「イクセさんっ!」
有夏、否──アリカの両の指が幾ヶ瀬の髪をかき回し、その耳元に唇を寄せる。
「イクセさん、来てくれて嬉しい」
ふぅっと耳の穴に息を吹き込まれ、幾ヶ瀬がギュッと目を瞑る。
口元がだらしなく崩れていた。
「昨夜は来られなくてごめんね。俺がいなくて寂しかった?」
「どうかなぁ」
客の膝の上に跨り、その首に両腕を回した体勢で、アリカは小首を傾げた。
目元が赤く、それは潤んだ瞳とあいまって目の前の男にとっては耐えがたいであろう色香を放つ。
「ゆ、夕べはどうし……。誰か他の男に抱かれ──……」
「どうかなぁ」
「アリカぁ……」
早速、翻弄されて喜んでいる幾ヶ瀬に、鼻が触れ合うまで顔を近づける売れっ子。
「抱かれたかもよ? だってソレがアリカのお仕事。でも夕べはアリカもお休みだったかもよ? アリカ、週休5日だもん。どうだったかなー」
クスッと笑みをこぼすアリカにを目を細めて、幾ヶ瀬が大きく息を吐く。
「有夏、意外と才能がある……」
「は?」
「いや、何でも。てか、週休5日って羨まし……いや、働けよ!」
気を取り直してイクセが咳払いした。
「アリカ、身体を見せてごらん」
「は?」
「ほら、脱いで。俺に全部見せて」
「何? ヤだよ。脱がないよ」
守るように身を縮める。そのまま固まってしまった。
「上手くやってたんだから。急に素に戻らないで、有夏。ほら、アリカ、自分で脱いでよ」
「ヤだよ。だっていつも幾ヶ瀬が……」
これは本気で顔を歪めた。
何度も何度も身体を重ねている筈なのに、自ら服を脱いだことすらないのか。
この期に及んでどこまで受け身でいるのやら。
「仕方ないね。ほら、手あげて」
Tシャツをたくし上げる。
四国土産らしいのだが、あらゆる種類のうどんが描かれたシャツで、これに関しては色気もクソもない。
13世紀イタリアの男娼の服装ってどんななのかな──脱がしにかかりながら、そんな事をぽつりと呟く。
「下も脱がすよ。おしり浮かせて」
「ん……」
これまた色気に欠ける部屋着の短パンを、下着と共にずり下ろした。
「幾ヶ瀬……?」
全部脱がせて、でもまだ触れない。
視線を感じて赤く染まる有夏の肌。
少しでも触ろうものなら、薄桃色の乳首はたちまち固くなると分かっている。
でも、まだ触れない。
「アリカ、足広げてごらん」
「はぁ?」
窓から差し込む夕焼けの赤の中、自分一人だけ裸にされて凝視される恥辱と興奮。
しかも相手は妙な妄想に溺れてしまっている。
有夏の乳首がぷっくりと尖った。
「ベッドに座って。俺の前で足を広げて、アリカ」
「ヤ……だよ」
身を縮めた有夏の肩をイクセが抱き寄せた。
股の付け根に両手を添えて強引に割り開く。
「ヤめ……ろっ、んんっ」
白濁液が幾ヶ瀬の眼鏡を汚す。
「早いよ、有夏」
「ごめ……だって、幾ヶ瀬が変態すぎ……から」
先をトロトロに濡らしながら、それでも有夏のソレはまだ力を失ってはいない。
それを確認して、幾ヶ瀬は視界が遮られた眼鏡を外した。
「逆に少し落ち着いたんじゃない? アリカ、ほら続き。さっきの感じ、良かったよ」
「なんで有夏、こんなことやらされて……」
不平めいた呟きを、幾ヶ瀬は聞こえないふりをした。
続きとばかり両膝の裏に手を差しこんで、一瞬の動作で更に大きく開かせる。
「こんな風に俺に見られて、どう? アリカ」
「どうって何がだよっ……!」
「こんなに恥ずかしい格好させられてるんだよ。今、何考えてるの?」
「うぁぁ……ん、別にっ……」
「別に? 平気なの? 膝がこんなにブルブル震えてるのに?」
イクセが笑う。
「アリカの後ろもヒクヒク動いてるし、ココも先からどんどん溢れてるよ?」
「あっ……はぁっ」
言葉攻めに感じたアリカが身体をくねらせる。
「見つけた」
直接触れない代わりに、イクセはそこにフッと息を吹きかける。
「ヤぁ……あぁんんっ!」
アリカの腰がビクリと震え、垂れる液体がシーツをしとどに濡らしていく。
「アリカ、お尻の穴のそば。こんなところにこんな痕いくつもつけて。誰につけられたの?」
赤い印の1つ1つに息を吹きつける。
「はぁんっ……んなの、全部いっ……せがっ! じゃなくて、あっ……あっ、誰かなんて分かんなっ……ぁあん」
言い訳めいたセリフ。
せっかく考えたのだろうに、喘ぎ声のせいでほとんど聞き取れない。
「アリカ、これくらいでこんなに感じちゃこの仕事は大変じゃないの?」
「うるさっ……も、分かったよっ!」
アリカの手が、開かされた股の間から客の方へとのびる。
「アト、全部イクセさんのにして。だから早くっ……」
早くしてと腕をつかむ手。