私は、人間関係とはガラスの様に脆く、ちょっとした事で簡単に割れてしまう…そんな物だと思っている。それは今も変わらない。
でも、どうしてこうなってしまったのうだろうか。
どんよりと暗い空に冷たい風の吹くある冬の朝。私はいつも通りの制服を着て、いつも通りの時間に家を出る。正直こんな生活が続くのはつまらない。 何か少しくらい事故でも起きて欲しいと感じてしまうほどに。
今日も静かで、私の足音と稀に横を走り去る車の通過音しか聞こえない、この世にそれ以外の音がないとでも思ってしまう様な静けさだ。コツコツとコンクリートを歩く私の足音は、どこかリズミカルに音を刻んでいる。
そうして辺りを見回しながらいつも通り登校していると、普段では聞かない音が聞こえてきた。
人の泣き声だ。ぐす…と鼻をすする音が路地裏近くから聞こえてくる。私は少し不気味に思ったが、それと同時に相手を心配する気持ちが湧いてきたので勇気を出して声をかける事にした。
「…大丈夫?」
相手は恐らく女性。私と同い年の様に見えたのでタメ口で話してみる事にした。その方が相手も話しやすいだろうとも考えた。
綺麗な橙色の髪。丁寧に手入れされていると一目で分かる程に美しかった。そして彼女の涙も同等に美しかった。これまでの人生、一度も涙を美しいと感じた事はなかった。
暫くの沈黙が流れた後、彼女はようやく口を開いた。
「すみ…ません…」
私は驚いた。
これ程に美しい声は聞いた事がない。思わず聞き入ってしまった。その彼女の一言で、私の世界がガラッと反転してしまった様に感じた。私はどうする事もできなかった。ただただ私と彼女の間に沈黙が流れるだけ。
しばらくして彼女も落ち着き、そろりと不安そうに顔を上げた。宝石の様な緑色の瞳。引き込まれてしまう様な魅力のある瞳。思わずじっと見つめてしまった。すると彼女は恥ずかしそうに視線を逸らし、顔を隠してしまった。
そこで私はハッとした。今まで何をしていたのか自分でも分からない。今までになかったのだから仕方がない、とその時は思う事にした。
「名前とか聞いてもいい?」
勇気を振り絞って私は声を出した。いきなり何の前ぶりもなく声を出したものだから彼女は驚いたらしく、ビクッと体を跳ねさせていた。私にはその姿が小動物の様に見えた。きっと私以外にもそう思う人は少なからずいるだろう。いや、そうに違いない。
目を多少泳がした後、彼女はゆっくりと口を開いた。
「私の名前は…」
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