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声に、出ちゃった?


思わず、自分の口を両手で覆う。

すると2人は顔を合わせて、笑いだした。それはもう豪快に。


「ははははははははっ!なんだそれっ!」

「ぷっ、はははっ、あはははっ!」


お腹を抱えて笑う人もいれば、私に向かって指をさしながら笑う人もいる。


『そ、そんな面白い…?』

「はー…。笑った笑った。…俺、好きで瑠花の近くにいるんだからそんなん考えなくてもいいっしょ。」

「ホントだよ。うちら瑠花も可愛いって思ってるよ!」


ん?可愛い…?


『か、かわいいって』

「あっ、い、いや、」


顔を真っ赤にしてさっきの私みたいに口元を両手で抑える雲雀。

湊はあーあ。という顔で雲雀をみる。


『そ、それ、は、嬉しい…けど、その、』

「そ、その、聞かなかったことにして…」


気まずい雰囲気が流れる。

痺れを切らしたのか湊は、


「はーあ。お前ら初すぎ!!!…てか、ロレもう居ないし教室戻ってもいいんじゃない?」

「…そ、そうだよ!教室いこ!」


次は雲雀が私と湊の手を引いて走り出す。

廊下は走るなー!という先生の声を無視して。




あっという間に時間は流れ、放課後になった。


「可愛い。」


彼にそう言われてから、いつも拝めていた彼の顔を見ていない。何回か目は合っているけどすぐ逸らしたり話しかけられてもすぐ会話を終わらす。

やな女だな、私。こんな酷い照れ方。


『はあ…帰ろ。』


シーンと静まり返っている教室にはただ一人、私しかいなくて。

幼なじみは用事で今日は一緒に帰れなくて一人で帰ることになった私。


別にひとりは嫌いじゃない。から、いいし。


少し寂しい気持ちを心の隅に寄せて、教室の鍵を閉めて職員室に届ける。

思い足取りで門に向かって歩いていたら、門の前に誰かが立っていた。


先生?

いつも立ってないのに。


疑問に思いながら俯いて門を通ったら、「ちょちょちょ!!!」と後ろから声を掛けられた。

この声は…


『ひ、雲雀…?』

「ちょっ、なんで無視すんの!!」

『む、無視?ごめん、立ってたの雲雀だったんだ…』


まさか門の前に立っていた人が雲雀だなんて。


「そうだよ。」

『…誰か待ってたの?来るまで待とうか…?』


そういうと、一瞬固まってから私に「察してよ。」って言ってきた。


察してよ?



『…あ、…!!!』

「へへ、わかった?じゃ、帰ろ」


私と帰るって、事?

ずっと私を待ってたの?

なにそれ。好き。


『な、なんで』

「そりゃあ……えっと………」

「か、帰る相手が俺もいなくてさ!!!」

『ああ、そういうこと…。うん、じゃ、あ、帰ろ』


私今、顔赤くない?平気な顔してる?


自分の身体が熱くなっているのが分かる。苦しくて、切なくて。でも、どこか、嬉しくて。


身体が熱いっていう次元じゃないくらい熱い。


「ちょ、ちょっと待って?なんか、顔赤くない?大丈夫?」

『え?あ、う、うん。だい、じょうぶ』


そう言った瞬間、目の前がグラッ、と一瞬歪んだように見えた。

いや、私の体がよろけただけ、だった。

よろけた私の身体を彼は両手で支え、バックハグ状態になってしまう。いつもの私なら好きな人にそんなんされて耐えられるわけがないのに、今は、なんだか、頭がふわふわしてて何も考えられなかった。


「わー!?ま、マジか…お、俺瑠花の家知らないし…どうしよう…」

『あ、…う、…???』


やばい、意識飛びそう。

ひ、ひば、……渡会く、…………




渡会くんとの出会いは、すごく私にとって思い出深かった。

渡会くんは覚えてないかもしれないけど、私はハッキリと覚えている。


中学の時。私はいわゆる陰キャだった。確かに今も陰キャだけど、そんな次元じゃない。

前髪も結構長かったしメガネも付けてたしメイクとか全く興味無かったからドすっぴんだったし。中学生とは思えない見た目をしていた。

そんな芋な見た目をしていた私の傍にいつもいてくれたのは、イブラヒムという男だった。彼は中学の入学式の時に友達になり、高校に行ってから全く話していない。

イブラヒム、通称ヒムはいわゆるモテ男で、「彼のことを1度も好きになった女子はいない」とかそういう噂を立てられるほどだった。でも彼はそんな見た目が好きではなかった。

モテるのが嫌だったのと、周りに集まってくる女の子が嫌いだったらしい。

でも、ヒムが入学当初派手に転けてしまった時、みんな笑いながら助けようと駆け寄っていたのに私だけ青ざめてキョロキョロしていたから、それが面白くて友達になってくれた。

喜んでいいのか分からない理由だったけど、彼との出会いはこういうこと。


でも、そんな彼の近くにいつもいたから、それをよく思わない女の子も沢山居た。

最初は優しめだった。優しめ、というのは、机に落書きとか陰口とか、そういう程度。


「日森…。こういうの、ほんとに俺に相談しろよ?」

『うん、大丈夫だから心配しないで。』


ヒムのせいで虐められてるとは言えなかった。だって、そんなこと言ったら彼は絶対自分を追い込んでしまうと思ったから。


そんないじめがあっても私はヒムの近くにいたから、痺れを切らした女の子達は、放課後、私を屋上に呼び出した。よくある展開だ。何されるかは概ね検討はついてたから、ヒムに『先に帰っといて。』と伝えて、屋上に向かった。

予想通り、女の子3人が屋上にいた。

彼女らは私を見るなり睨み付けて、フェンスをガシャンと叩く。


「来るの遅い。」


と言って、私の胸ぐらを掴む。

ついに、手を出してきた。


正直、私は力が弱いし勝てる気はそうそう無かった。というか、勝つ気はなかった。

殴られたら、殴られたで終わり。先生に報告してもまた酷くなるだけだし、大人しく従うことしか私は出来なかった。


彼女たちは、何度も何度も、私の脇腹、溝落、顔、腹を殴る。

最初は痛かったけど、何度も同じところを殴られたら痛みは逆に引いてきて、放心状態になった。


「何してんのっ!?!?」


突然、後ろから男の声が聞こえた。


振り向いたら、よく顔は見えなかったけど紫髪に少し赤ピンク色のメッシュが入った男が見える。


助けなくていいよ。助けたら、あなたにまで被害が出ちゃうから。


「わっ、渡会くん!?!?」

「大丈夫!?なんでこんなことしたの…!!」


私の背中を男がさする。


なんて優しい人なんだ。あぁ、次は彼が標的になってしまう。


「い、いや…その…ごめんなさい…!!!」


彼女らは私を置いて、屋上から走って去っていった。男は私の背中を優しくさすりながら、どこから出した?と聞きたいぐらい沢山の医療セットを出してきた。


「こんなに傷ができて…女の子なのに。」

『あの…そこまでしなくて、いいので…』

「俺、こういうの無視できないから。ね、名前なんて言うの?」

『………日森。』

「日森さん。また何かあったら俺呼んで?俺じゃなくても、日森さんみたいな我慢強くてかっこいい女の人には沢山の友達いそうだし、その人たちにもちゃんと頼ってね。………よし、完璧!」


紫髪の男は、傷が出来たところに絆創膏を隅々まで貼ってくれた。打撲したところはどうにもできないからおまじないを掛けてくれたり、なんともまあ子供っぽい考えをしている人だ。と思った。

でも、そんな彼が、愛おしかった。

心が、ドキドキした。


『あ、あの…助けてくれて、ありがとうございます』

「ううん!いいのいいの。じゃ、またね。」

『あ、待って…!』

「ん?………あ、歩けない?一緒に家まで行こうか?」

『あ、違くて…その…名前…』


立ち上がると、彼の顔が良く見えた。

綺麗な二重に、長いまつ毛、少しぼさっとした髪。どこかキュンとしてしまう、笑った時に見える八重歯。なんの意味があるのか分からない首に付けているチョーカー。すこし着崩れた制服の隙間から見えるお腹は、見てもいいのか分からなくて目がキョロキョロしてしまう。


「名前…。ははっ、そんなモジモジしなくても教えるのに。」

「俺の名前は渡会雲雀。日森さんと同じ2年生だよ!」

『あ、そ、そうなん、ですね…。ありがとうございます…』


渡会雲雀。

心の中で何度も何度も彼の名前を呼ぶ。


これが、私の初恋だった。




『う…………』

「…あ、起きた!?瑠花、大丈夫…?」


夢を見ていたらしい。

彼と、出会った時の夢。

好きです。渡会くん。

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