莉犬「……大丈夫だってば……」
誰に向けた言葉なのかもわからない。
部屋の中、ただひとり。
通話を切ったスマホが、目の前に転がっていた。
さとみくんの声が、まだ耳に残ってる。
「もうやめろ」
「甘えたっていい」
「壊れたりなんかしない」
優しい声だった。
でも、それが一番つらかった。
優しさなんて、今の俺には毒だ。
(俺は“壊れそう”なんじゃなくて、もう“壊れてる”んだ。)
俺の中では、もう全部にヒビが入ってる。
表面だけ、なんとか取り繕ってるだけ。
“2人が休止しても頑張る莉犬”って、
誰かの支えになってるふりして。
自分が倒れないように、自分自身を騙してるだけ。
もう疲れた。
机の引き出しを開ける。
そこには、買い集めた薬がある。
眠剤、鎮痛剤、風邪薬……本来なら“治すため”の薬。
中には1回の買い物につき3箱までしか買えない薬もあった。きっと、依存性があるのだろう。
今の俺には関係がない。そう思った。
だから俺は店をハシゴした。
3箱、6箱、9箱…どんどん箱が増えていった。
でも今の俺にとっては、薬は“止めるため”の道具になっていた。
手のひらに、錠剤をこぼす。
ぽと、ぽと、と乾いた音がして、
数えるのをやめた。
(どれだけ飲んだら、明日が来ないだろう)
水と一緒に、ゴクリと喉に通す。
苦味と、少しの罪悪感が口の中に残った。
そして――腕をまくる。
何度も傷つけた場所。
皮膚の色が不自然に薄くて、白くて、
過去の痛みが、そのまま刻まれている。
新しい線を、そっと、慎重に引いた。
赤い線が浮かんで、じわりと血がにじむ。
「……あったかい、な」
血が流れて、ようやく“生きてる”って思える。
自分はおかしいのだろうか。
でも、今の俺は――
“生きてる”という感覚すら、
リスカをしても。ODをしても。
分からなくなっていた。
リスナーさんに笑って。
みんなにありがとうって言って、愛想を振りまいて。
元気なふりして。
平気なふりして。
そうしてるうちに、
“本当の自分”が、どんどん奥に埋もれていった。
こんなにも寂しいのに、
誰にも助けてって言えなくて。
笑っている俺以外を誰にも見せられなくて。
「……ごめん、なーくッ…ジェルくッ…」
休んでる2人のせいにしたくないのに、
どこかでずっと思ってた。
「なんで、俺を置いてったの……」
泣きたくないのに、
ぽた、ぽた、と涙が落ちる。
腕の傷口に、一滴、二滴。
涙と血が混ざる音が、静かに響く。
その時だった。
スマホがまた震える。
震える指で画面を見ると――
《ななもり:莉犬くん。起きてる?大丈夫?》
その一文が、胸に刺さった。
(大丈夫じゃないって、言えたら…)
(どれだけ楽なのだろうか…)
けど俺は――また、嘘をつく。
《莉犬:大丈夫だよ〜!》
《ちょっと眠かっただけ!笑》
送信。 即既読。
でも、返信はこなかった。
(そりゃそうだよな)
俺の“平気”なんて、もう誰も信じないかもしれない。
でも、それでも――
それしか言えないんだ。
夜が深まっていく。
眠気はこない。
薬を飲んだはずなのに、意識は妙に冴えてる。
ベッドに転がって、天井を見上げた。
白い天井に、ぼんやりと自分の影が映る。
「……俺、なんで生きてんだろうな」
答えなんて、どこにもなかった。
ただ、少しだけ――
(誰か、気づいてくれないかな)
そんなことを思いながら、目を閉じた。
静かで、深くて、
どこまでも暗い夜の中。
誰にも聞こえない“助けて”が、
部屋の隅で、消えていった。
コメント
3件
莉犬くん 頼っておくれぇ"
めっちゃおもしろかったです!フォロー失礼します!