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胸の奥が、またふっと熱くなった。
理由なんて分からない。
痛みじゃない。
でも、
“誰かに呼ばれた”ような感覚だけが残る。
「……まただ」
最近、この感覚が増えてきた。
仕事中でも、帰り道でも、
突然胸の奥が震える。
医者に行っても異常はない。
ストレスでもない。
ただ、
胸の奥が時々、勝手に反応する。
今日のそれは、
いつもより少し強かった。
まるで──
遠くで誰かが同じ温度を感じているような。
「……誰なんだよ」
問いかけても答えはない。
でも、
胸の奥の震えは確かに“誰か”を探している。
知らないはずの誰か。
会ったこともないはずの誰か。
なのに、
その“誰か”を失ったような喪失感だけが、
ずっと胸に残っている。
「……また夢を見るのか」
あの森の夢。
名前を呼んでいる夢。
誰の名前かも分からないのに、
胸が締め付けられる夢。
今日の震えは、
その夢の気配に似ていた。
胸の奥が、
誰かを呼んでいる。
誰かが、
僕を呼んでいる。
理由なんて分からない。
でも、
この震えだけは嘘じゃない。
胸の奥の震えが、
電車の揺れと重なるように静かに続いていた。
理由は分からない。
ただ、
“何かが触れた”感覚だけが残っている。
駅に着いて、
人の流れに押されるように歩き出したときだった。
前を横切った誰かの影が、
ほんの一瞬だけ胸の奥を強く揺らした。
「……っ」
足が止まる。
その影を追おうとしたわけじゃない。
ただ、胸の奥が勝手に反応した。
すれ違った人の顔は見えなかった。
知らない人だ。
でも──
胸の奥の震えは、
その一瞬に合わせて確かに強くなった。
まるで、
胸の奥のどこかが“記憶の断片”を勝手に拾い上げたみたいに。
「……またかよ」
深呼吸をしても、
震えはすぐには消えない。
あの揺れは、
目の前の通行人に向けられたものじゃない。
胸の奥のもっと深いところ──
自分でも触れたことのない場所が、
勝手に反応しただけ。
遠い記憶の残響。
名前も、姿も、声も思い出せないのに、
胸の奥だけが覚えている誰か。
その“誰か”の気配が、
一瞬だけ胸の奥に浮かんだ。
「……エリス……?」
口に出した瞬間、
胸の奥が微かに震えた。
知らないはずの名前。
でも、
どこかで確かに呼んだことがある気がした。
電車の音が遠くで響く。
胸の奥の震えは、
ゆっくりと沈んでいった。