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そんな風にギレスラが心中で決意を新たにしていると、草原の中で少しだけ地面が隆起している辺りから何やら会話が聞こえてきた。
「あのラマスさん、俺達干し肉と乾燥野菜、それにパンとか持って来ていますんで、その、無理に何か作って頂かなくても大丈夫なんですがぁ…… なあ?」
「ええ、一回生達も最近はすっかりこの学院の食事に慣れましたから…… どうぞお構いなく…… ね? 皆!」
「うっす」
「うん、あ、はい」
「ちぇっ! 判りましたー」
なるほど、ラマスが何か料理しようとして上手く行かず、年長のジョディとサンドラが妥協案を提案し、ライアとシンディは素直に納得、年少のランディがブータレながらも消極的賛成って所かな?
大勢の賛成意見に異を唱える声が一つ、ラマスだ。
「大丈夫だってば! 火さえ上手く熾(おこ)せれば後は煮たり焼いたりするだけなんだからぁ! 何でだろう? 燻(くす)ぶっちゃって、ケホッケホッ」
どうやら上手くいっていないらしい……
まあ、それもそうだろう、観察していた限りこの六十日間の間にラマスがやっていた事といえば、レイブの仕事のお手伝い(レベル)と洗い物、後は小型のモンスターを追い掛け回したり野花を摘んでみたり、まあ、大体が遊んでいた感じなのだ…… 無論、料理の類はしていない、レイブ任せだったのである。
どちらかと言えば心配性のレイブが食事にナーバスになってしまっていたからだ、当然火の準備等させよう筈も無い、下手をしたら小屋だけじゃなく学院まで延焼の危機だからね。
咳き込みながら火打石を打ち続けていたラマスにレイブが話しかける。
「ほら代わるよラマス」
「叔父様、じゃなかったダーリン、思ったより難しいのね、これ」
「ダーリン? まあ、結構コツが居るんだよ」
「ごめんなさい頼んじゃっていい? おじ、ダーリン」
「ああ、任せておきなよ ……ダーリン?」
怪訝(けげん)な表情を浮かべて首を傾げながら、石を積み上げた即席の竈(かまど)の中を覗き込んだレイブは呆れた風に言う。
「あーこれじゃあ駄目だよラマス、これって生木だろ? それに焚き付けだって使ってないんじゃあ燃える訳が無いよー、これで良いと思ったなんてまだまだ子供だなぁー、はははっ! ほらほら良く見ておいで、俺がちゃんとやってあげるからさ! えっとギレスラ、乾いた薪を持って来てくれるか、い?」
『グフングフン』
「えっとぉ……」
ラマスの苦労を代わってあげようとしたレイブだったが、話し終えるタイミングで振り返って見たギレスラの瞳に言葉を途切れさせてしまった。
じとっとしたその目付きは何かを伝えるような、いいやはっきりと非難の色を帯びていたのである。
その意図を正確に把握できないで更に口ごもったレイブに対してもう一つの声が届いた。
何故か口惜しそうな顔で真っ赤な顔を伏せ気味にしているラマスの後ろ、ペトラである。
『ひ、火を熾すのは大変だけどさっ、か、竈を作ってくれてあったり、生木とは言え薪を準備してくれていたりしたんだからさっ、随分助かったんじゃないの、レイブお兄ちゃん! ね?』
普段賢いペトラにしては著しく正確性を欠いた言葉だ、そう思ったレイブは返す。
「助かるだってぇ? 馬鹿言うなよペトラ、竈は歪(いびつ)で熱が逃げ捲るだろうし風向きだっててんで無視だよ? それに生木なんだから、生木! こんなの準備とはとてもじゃあないけど言えないんじゃ――――」
「うわぁんっ!」
「へ?」
突然起こった嘆きの声を振り向くと、両手で顔を覆ってしゃがみ込み、背中を小刻みに振るわせるラマスの姿が目に映った。
左右にはそっぽを向きながらもこちらを横目で見ている紅竜と黒猪。
ラマスの背後には大きな前足をこちらに向けて合わせ、伏し拝むようにしているエバンガ。
ちらりと横に目をやれば五人の新弟子達が揃ってこちらを凝視しているのが見える。
無表情で目を見開いて瞬きもせず、何のつもりか小さな頷きを繰り返し続けている。
いつも通り自然体なのはギレスラの背中で欠伸(あくび)をしているカタボラのみであった。