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ええい、と叫ぶ星歌。
「今の私に現実を持ち出すんじゃない!」
おもむろに、窓に向かって両手をかかげた。
窓ガラスには室内の照明が反射して、外のくらがりが際立つだけ。月も星も見えやしない。
しかし、キラキラと──。
星歌が腕を動かすたびにブレスレットの星の飾りが揺れて、部屋に小さな夜空を作り出す。
「止めてくれるな、義弟よ。私は異世界へ行く!」
「はぁ?」
「はぁ?って言うな。義弟にオトコを取られ、職を失った私は、もはや異世界に行くしかないんだよ」
「………………」
行人、沈黙する。
「異世界にさえ行けば、チート確実なんだよ!」
「………………」
行人、沈黙する。
「異世界にさえ行けば、冴えない私が七人のイケメン王子と出会って、それぞれタイプの違う王子が全員、私に求婚してくるんだ。ドキドキしたり、キュンキュンしたり、時にはちょっとエッチなイベントもあったりして。最終的に一番スペックの高い金髪王子と結ばれて、一生お金の心配もなく愛されて幸せに暮らすんだ!」
何故ならっ──星歌は声を張りあげた。
「何故ならっ! それが乙女にとっての異世界転生のセオリーだからだっ!」
手首を回してブレスレットをクルクルと回転させる。
くるくる──輝く星が、まるで夜空に散っていくよう。
「……何その動き。儀式か何か? イヤだ。二十四歳にもなった義姉が、中二病を脱していない」
「的確に私の状況を表現するな! はじめてのキッスは異世界のカンペキ王子様とするって決めてるんだ。ハァァァッ!」
クルクル──彼女の瞳にブレスレットの星がまたたく。
瞳孔にそれを焼き付けようというつもりか、星歌は目を閉じる。
そのまま、ゆっくりと歩を進めた。
一歩、二歩……ガツンッ。
「あっ!」
座卓の脚で、脛を打った様子。