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小さな声で呻きながら、その場で足をもつれさせた。
手首を回転させた勢いそのままに上体がねじれ、星歌の視線は一瞬にして天井と壁、それから床をさまよう。
「危ないっ」
背中にあたたかな感触。
これは、行人の腕?
次の瞬間、星歌の瞳に彼の顔が大きく迫った。
「なっ、んんっ……」
ココアの甘い香りが唇を覆う。
柔らかな感触。
──何コレ、うまく喋れない……。
そう思った途端、状況を理解する。
床に倒れかけた星歌を、行人がとっさに腕を伸ばして受け止めてくれたのだ。
だが勢いは死なず、バランスを失った彼女を庇うため、彼は身を回転させ背中からフローリングに倒れ込む。
その胸に乗るかたちで一緒に倒れる星歌。
気付けば義弟を押し倒し、その唇に自らのそれを重ねる体勢になっていた。
「ゆきっ……違っ、異世界っ、キンパツ、イケメン、オウジ、ガッ……」
衝撃が強かったか、息を吸いながら例の単語を並べる星歌。
大きく大きく目を見開いて、これ以上開き切らないというところでカクリ──落ちた。
「ちょっ、星歌? おーい、姉ちゃーん?」
自身の上にドッカとのしかかる義姉の背をポンポン叩き、反応がないことに行人は「マジか」と困ったように呟く。
星歌の細い顎を指先でつかんで、表情を確認するように覗きこむ。
残念ながら白目を剥いている義姉に苦笑いをもらした。
「金髪王子じゃなくて俺にしときなって」
これは失神か? 完全に眠ってしまったのか彼女に反応がないことに、困ったように首をかしげ、行人は左手をフローリングに投げ出す。
拳と床がぶつかり、コツンと音がするくらい勢いをつけて強めに。
一瞬の痛みを味わってから、ゆっくりと息を吐く。
あとは、右手でやさしく星歌の背を撫でた。
「そうだよ、童貞だよ。誰かのせいでこの年齢
トシ
までこじらせてるよ」
もって生まれた端正な美貌を良いことに、義姉が惚れる相手に対してわざと色目を使って彼女から遠ざけていたくらいだ。
「うぅーん……異世界ぃ……」
床に重なったままでの間の抜けた寝言に、今度は行人は爆笑した。