テラーノベル
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胡桃らん@歌い手推し
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yukino
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仁ちゃんは昔、先輩後輩の関係に厳しかった。
グループに入った当初、活動の活性化のためにタメ語ルールが発動されても、彼の独特な空気感に当てられてなかなか今みたいに気安く話しかけたりできなかった。
同じグループのメンバーなのに、どこか遠くの存在に感じたし、支え合うというよりは頼って着いていく存在という感覚の方が大きかった。
それが、長い時間をかけて、今の関係性に落ち着くまでには本当にいろいろなことを共に乗り越えてきた。
その中で、仁ちゃんがリーダーとして抱える葛藤や、メンバーの中での自らのアイデンティティの模索、急速に規模が大きくなっていくことへの恐怖や焦燥感など、いろんな弱い部分を曝け出してくれて、そういう姿に人間味を感じられたし、可愛いと純粋に思えた。
仁ちゃんの態度の背景を知れば知るほど、ただのリーダーとしてではなく、一人の人間として支えてあげなくては、守ってあげなくてはいけない存在として認識するようになった。
今日は新曲のMV撮影日。
5人揃っての撮影で俺はワクワクした気持ちで現場に到着した。
だがしかし。
いつもより早く到着した先で見たのは、1番最初に会いたいと思っていた人の予想外の姿だった。
「はい、止めまーす!曽野さん、すみせん、目線もう少しカメラにしっかりとお願いします!」
本日何度目かの注意を受けて、すみません、と返す。
視線がどこを彷徨っているかは分かっているのだが、なかなか切り替えが難しい。
「ちょっと一旦休憩入りまーす!次10分後でお願いしまーす!」
だいぶ根詰めて撮影していたのもあり、スタッフからの一声がありがたい。
ふぅ、と息を吐いたのと同時に、背中にポンと手を置かれた。
見れば、今日ずっと目で追ってしまっている相手の姿。
「仁ちゃん…」
「大丈夫?なんかあった?」
「……あのさ…ちょっと良い?」
心配そうに覗き込んでくれる様子に俺は心臓がぎゅっと掴まれる感覚に陥る。
これ以上皆の足をひっぱる訳にはいかない、と俺は心臓を抑えながらも、目でスタジオの外へと仁ちゃんを誘った。
バタンという大きな金属音を聞きながら、二人でスタジオの外にある廊下に出た。
普段は俺に対して結構当たりは強いのに、こう言う時は揶揄わずに真剣に向き合ってくれるところもまた、、
「で、どうしたの?」
仁ちゃんの柔らかい声と大きな瞳に誘われて、俺はずっと抱えていた想いを吐露した。
「ごめん…!俺、さっきの楽屋での仁ちゃんと太ちゃんのやりとりが気になっちゃって…、ずっと仁ちゃんのこと考えちゃって、集中できなくて…」
「えっ…?お、おれぇ…!?」
まさか原因が自分にあるとは思っていなかったのだろう。仁ちゃんは目を大きく見開いて自らを指差した。
「あれさ、、ち、チューしようとしてたやんな…?」
俺の言葉に、仁ちゃんの耳がじんわりと赤く染まった。その様子に、あぁ仁ちゃんも気づいてたんだ、と思わず冷静な部分の頭で驚いた。
「ぇ…い、いや…あれは…っ」
「……もしかして、もうした後だった…!?」
「はっ!?いやいやいやいや、してないしてない!」
たぶんこれは本当だろう。
慌てて手と顔を横にブンブン振る姿を見て、逆に前者は言葉通りだったのかと思ってしまう。俺は、会話をしているようで、その実、可愛く頬を染めて太ちゃんを見上げる仁ちゃんの姿が頭に繰り返し流れてしまうのを止められないでいた。
「太ちゃんばっかり、ずるい…」
「…えっ?」
ダン、と仁ちゃんの後ろの壁に手をついた。下から見上げてくる仁ちゃんは、突然の壁ドンに戸惑い驚いた表情で、大きな瞳を微かに震えさせた。
「しゅ、舜太!?なに…っ」
状況の理解が追いついてきたのか、仁ちゃんは頬を紅潮させる。
「…その顔、誰にでもするんやね…」
「…っ!?」
ゆっくりと顔を近づけると、仁ちゃんもそれに合わせて顔を上げた。誘っているかのような潤む瞳に吸い寄せられるように、俺は性急に唇を重ねようとぐっと体を寄せた。
「まっ、…しゅんた…待って、」
しかし、次の瞬間にはギギギ…、と胸に手をついて、思いの外強い力で俺の動きを止められた。
「…ちょ、本当になんなの、皆…っ」
仁ちゃんがじわじわと涙目になっていく。
「俺、みんなのおもちゃじゃないよ…っ?も、揶揄わないで…」
100%庇護欲を掻き立てられる泣き顔。
あぁ、泣き顔もかわええなぁなんて呑気に考えている自分と、「皆」と一括りにされた中には、自分と太ちゃん以外にも同じように仁ちゃんに迫った人がいることが表現されていて、焦りにも似た複雑な感情に飲まれた。
「ご、ごめんな…仁ちゃん!」
「…いや、俺も…なんかごめん…」
「…仁ちゃん、勘違いしてほしくないねんけどな、これはからかってるんとちゃうよ?」
「…えっ?じゃぁなんで…」
「それは…、じ、仁ちゃんのことが好…」
その時、ギギッ!と音を立てて、スタジオから続く扉が開けられた。
言いかけたままで俺はそちらに目を向ける。
「…お前ら何してんの?」
そこには、勇ちゃんが立っていた。
俺たちの状況を見て一瞬で理解したようで、驚いた表情から一変、スッと感情を消して冷めた目で見つめられる。
「撮影始まるって」
ツカツカと近づいて、いまだに壁と俺に挟まれたままの仁ちゃんに手を差し伸べた。
「仁人、おいで」
コクリ、と頷いて仁ちゃんがすり抜けていく。
ぎゅっと繋がれた手に力を込めるのが分かった。
「舜太も行くぞ」
後ろを振り返らずに、そう言われて、俺はようやく動き出せた。心臓がバクバクと鳴っている。
勇ちゃんの顔からは感情は一切読み取れなかったけど、身体から発せられる威圧感に本能的に恐怖を感じたせいで息すらも止めていた俺は、一気に噴き出す汗と共に閉められた扉の向こうへと踏み出した。
コメント
2件
おもちゃじゃないよって戸惑ってるのすごく可愛いです😭snさん出てきて、あっ、これは…って勝手になっていますがどういう結末になるか楽しみです!
うわあ、第3話もすごく良かったです…!仁ちゃんの泣き顔に「庇護欲掻き立てられる」って舜太が思ってるのが可愛すぎました。太ちゃんと仁ちゃんのやりとりに嫉妬して集中できなかったっていう素直な弱さも、グッときます。勇ちゃんの登場からの冷めた空気、次が気になりすぎますね…!