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ごちそうさまでーす(?)
若井side
玄関の鍵が開く音がして、
キッチンに立っていた元貴がふと顔を上げた。
「……おかえり、若井」
「ただいま。今日なんか早いじゃん」
「うん、ちょっとね。今、味噌汁あっためてる」
俺 は靴を脱いで、そのままスリッパも履かずにリビングへ。
ベッドの上にカバンをぽすっと投げて、何でもないように腰を下ろす。
この感じは、もう何ヶ月も続いている。
一応、俺の家は別にある。
でも、俺が“帰る”のはいつもここ__大森元貴の部屋だった。
「今日も外食しなかったの?」
「一応……作りかけてて。でも、1人だと完成させる気なくなるね」
「じゃあ、2人で食べるために取っといたってこと?」
「……そーゆーわけじゃないけど」
「ふふ。ごちそうさま」
お互いの距離感は、もうずっと“0メートル”のまま。
誰が見ても、仲がいい。
誰が聞いても、気を許してる。
でも__
「付き合ってる」わけではない。
「なぁ、元貴。明日、リハ何時?」
「13時集合。若井、起きられないでしょ。起こすよ」
「……悪い」
「いいよ。慣れてるし」
口角がふわっとゆるんで、うつぶせにソファに倒れ込む。
元貴がその背中を見つめながら、味噌汁に火を入れる。
「ねぇ、元貴」
「ん?」
「俺らって、さ_」
言いかけた言葉に、元貴が振り向く。
「……何?」
「いや、なんでもない」
「は?」
「味噌汁、焦げるよ」
「焦げるわけないでしょ」
さっきの言葉を聞き返してくるでもなく、
でも、どこか空気が揺れた気がした。
テレビもつけてない。スマホも触ってない。
2人の間には、音もないのに、
なぜか___心だけが、騒がしかった。
📎To be continued…