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──クリニックの近くにある居酒屋の座敷席で、「先生と智香はお祝いだから、上座に座って」そう真梨奈に言われて、ちょっと緊張しつつ彼の隣にかしこまって座った。
「結婚おめでとうー乾杯!」
乾杯の音頭を取る真梨奈の声に、揃ってグラスを合わせた。
ビールの一口を飲んで、「それにしても……」と、松原女史が口を開く。
「先生はいつからお付き合いを? 全然知らなかったんですが……」
「知らないのは、松原さんだけでしたよ?」
森川さんがそう口にして、「えっ? じゃあ、あなたたちは知っていて?」と、驚いた顔つきになった。
「知ってましたよー。だって、先生もなんか雰囲気が変わって、意外とわかりやすかったでしょ?」
真梨奈が笑って言うのに、
「……雰囲気が前とはちょっと違う感じはしていたけれど、でもまさか先生が結婚だなんて……」
松原女史はまだ半信半疑な口ぶりで、政宗先生の顔を上目に窺った。
「ああーもしかして松原さん、先生が自分に気があるなんて思っちゃってたとか?」
お酒の入った真梨奈が茶化すように言うのを、
「そ…そんなわけないでしょう!」
と、松原さんが赤くなって否定をする。
「……ただ、政宗先生は結婚なんてしないようにも思ってたから……」
そうぼそりと呟いて、「あ…ごめんなさい! おめでたい席でこんな話をしたりして」と、口を押さえた。
「……私も、結婚などできないと思ってましたよ」
ウイスキーのロックを含んだ彼が、ふと口を開いて、
「……彼女と出会うまでは」
そう付け加えると、私に顔を向けて柔らかに微笑んだ……。