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「もー、お兄さんのせいで変な気を遣わせちゃったじゃないか!」
「僕だけのせい? ナギだって嬉しそうな顔していたくせに」
「~~っ、そ、それはっ……そう、だけど……っ」
自分一人が悪いような言い方をされて、ムッとして言い返すとナギは、口を尖らせて言い淀んだ。
そんな姿でさえ可愛らしく見えるのだから、本当に自分はどうかしている。
「とにかく!人前では絶対にやめて! ただでさえあの動画が出回ってから、色々聞かれることが多いんだから。誤魔化すの大変なんだよ!?」
動画の件を出されたら反論の余地はない。ズルいなぁと思いつつも、渋々と引き下がる。
だが、ただで引き下がるのは惜しくて、拗ねたフリをしてナギの肩に頭を乗せ、甘えるようにすり寄った。
「……わかった。じゃあ、誰もいない時はいいんだね?」
「そういう問題じゃ……って言うか、人の話聞いてた?」
「聞いてるよ。ちゃんと……。ねぇ、ナギ」
「……っ」
耳元で低く名前を呼ぶと、ビクッと肩を震わせる。そのまま耳たぶに唇を寄せれば、面白いくらい身体が跳ねた。
「ちょ、ちょっと待って。ここ廊下……。それに今から撮影だし」
「大丈夫。今は誰も居ない。だから、少しだけ。ね?」
耳に息を吹きかけるように囁くと、ハッとしたようにナギが手の平で蓮の顔を押し返した。
「なに?」
「なに? じゃない! 何しようとしてんの!」
「キスして欲しそうな顔してたから」
「はぁ!? し、してないからね!? ぜんっぜん!」
ナギが無理やり蓮を押し退けて距離を取ろうとするので、腕を引いて振り向かせ、腰を抱いて距離を詰める。
「俺がして欲しそうなんじゃなくって、お兄さんがキスしたくって堪らないんでしょ」
「あぁ、そうだね。ナギの顔を見てたら凄く濃厚なキスしたくなっちゃった。だからいいだろ?」
「よくない! 全然良くないから!」
顔を真っ赤にして抵抗するナギを、壁際まで追いつめ、逃げられないようにして、顔を近づけていく。
咄嗟の事で避けられないと悟ったのか。ナギがぎゅっと目を瞑った。
ほんの冗談のつもりだったのだが、キスを待っているみたいな表情に思わず顔がにやけてしまう。
(……かわいい)
いつ気付くかとその様子を観察していると、流石におかしいと思ったのかナギがうっすらと目を開けた。
どうやら揶揄われたらしいとようやく気付いたナギが、眉間にシワを寄せる。
恥かしいやら腹立たしいやら、色々な感情が渦巻いているような表情でキッと睨まれて笑いが込み上げてくる。
「もう! 馬鹿な事してないでさっさと――っ!」
蓮を押し退け、立ち去ろうとしたナギの動きがぴたりと止まる。何事かと思ったら、物陰から雪之丞を加えた4人のつぶらな瞳がジッとこちらを見つめていた。
「……」
「……」
「「「「……」」」」
無言で見つめられ、居心地が悪くなったナギがチラリと蓮を見る。
「……お兄さん」
「……うん」
「……今の、なかったことにしない?」
「いや、無理だろ」
思わずツッコミを入れてしまい、ナギが絶望的な顔になる。
「はぁ、なにしてんだよオッサン。熱すぎて引くわ」
「ほんっと、見せつけてくれるわよねぇ。やんなっちゃう」
わざとらしくパタパタと手で仰ぎながら呆れた声を上げる東海と美月とは対照的に、ブルーコンビの表情は硬い。
「……ボ、ボク先に行くね」
何と表現したらいいかわからないと言った複雑な顔をして、雪之丞は逃げるように去って行き、慌ててその後を弓」弦が追っていく。
去り際に弓弦から舌打ちされたような気がしたのは、多分気のせいじゃないだろう。
「――そんなところで何をしている?」
微妙な空気を裂いたのは、低く威圧感のある声だった。振り向くと、兄である凛が訝し気な顔をして一同を見つめていた。
「あ! 凛さん! おはようございます! 聞いてくださいよ、この二人朝っぱらからイチャイチャして……」
「お、おいっ!」
慌てて東海のわき腹を小突く。これ以上余計なことを言われてはたまらない。
「……」
だが、時すでに遅し。
「……ほう?」
底冷えするような声と共に、凛の視線が自分とナギの方へと向けられ突き刺さる。
「あー……。えっと……」
その冷たい眼差しに思わず口ごもると、凛はくるりと背を向けた。
「……話は後でじっくりと聞かせて貰おうか。蓮」
「は、はい……」
有無を言わせない迫力に、思わず返事をすると凛はそのままスタスタと歩いて行ってしまう。
「あーあ。怒らせちゃった」
「って! はるみんが余計な事言うからだろ」
「だから、はるみんって言うなって言ってんだろオッサン! オレは嘘は言ってないもん」
「もんとか言ってんじゃねーぞ、クソガキ」
相変わらず憎まれ口を叩く東海にイラっときて、頭を軽く叩こうとしたが避けられる。
「まぁまぁ、二人とも。御堂さん来ちゃったって事はとりあえず撮影始まっちゃうし、そろそろ行こう?」
見かねた美月に宥められるが、このままでは収まりがつかない。
「……そうですね。まずは目の前にある仕事を片付けましょう」
弓弦は何か言いたげに蓮たちを見たが何も言わず、そのままスタジオへと入っていった。
「なんか、この間から草薙君に見られてる気がする」
「え? そう? 俺には普通だけどな……?」
「そっか……。気のせいかな?」
「気のせいだよ。それより行ってくる。俺らの方が先だしね」
「…ん。ナギ……」
ちゅっと額に一瞬触れるだけのキスをすると、ナギが目を丸くして固まった。
「頑張って」
「~~ッ、そう言うの、駄目だって言ってんのに……」
そう言いつつも何処か嬉しそうな表情を浮かべてナギが呟き、手を振ると照れ隠しなのか早足でスタジオに入っていく。その背中を見送っていると、後ろからトンっと誰かにぶつかった。
振り向くと、そこに立っていたのは雪之丞で。
「……はーぁ。ほんっと、やんなるなぁ」
大きなため息を吐いて、雪之丞はぽつりと小さく言葉を漏らした。
「え? 何か言った?」
「……ううん。なんでもない」
だが、それは独り言のように小さかった為、誰の耳にも届く事はなく、雪之丞は何でもないと小さく首を振り何処か切ない表情で蓮の顔を見た後、去って行った。
「……?」
「オッサンの鈍感さは、スカイツリー並みだね。ある意味すげーわ。尊敬する」
背後で一部始終を見ていた東海が、やれやれと肩をすくめる。
「あんま人前でいちゃ付いてると、ガチでスクープ抜かれるかもだから気を付けた方がいいぜ」
「スクープって、まさか。そんな大げさな」
「はー。オッサン、マジ? ほんっと、なんも知らねぇのな」
心の底から信じられないと言う顔で、東海にまじまじと見つめられ、何の事だと首を傾げる。そんな蓮の様子を見て、東海の口から更に深いため息が漏れた。
本当にこの男は、自分の置かれている状況がわかっていないとでも言いたげな態度に若干イライラが募る。
「あのさぁ、アンタらの動画結構バズって大変だったんだよね。まぁ、騒いでんのはほんの一部の大きいお姉さんたちなんだけど。その後に公開した草薙君の動画の効果も相まって、視聴率はうなぎ登りって話だし」
「え……」
「まぁ、視聴率アップって面で言えば、当初の目的どうりなわけだしいいんだけどさ……、同時にマスゴミに狙われる対象になりやすいって事は覚えておきなよ」
確かに、さっきも動画を投稿した直後から蓮たちの事を探ろうとする輩がかなり増えたとナギがぼやいていたような気がする。
個人の性癖に口を出すなと言ったって、そんなのお構いなしに面白おかしく叩くのがマスコミだ。
目を付けられているのだとしたら、確かに気を付けなくてはいけない。
「そうだったのか。……うん、肝に銘じておくよ。ありがとうはるみん」
「別に。アンタの為じゃない……。せっかく頑張ってんのに変なスキャンダルで注目浴びるのは不本意だし、アイツが絶対悲しむから……」
最後は消え入りそうな声でブツブツと文句を言いながら、ふいっと視線を逸らし蓮が口を開く前に走ってスタジオへと行ってしまった。
なんだかんだいっても、東海は結局のところ面倒見のいい男なのだ。
少しだけ微笑ましく思いながらも、自分も早く向かわなければと足を早めた
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