テラーノベル
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放課後の旧校舎。ギシギシと鳴る渡り廊下を突き当たりまで進むと、埃の匂いが混じった音楽室にたどり着いた。
俺は息を切らしながらギターケースを下ろし、愛機を取り出す。シールドをアンプに繋ぐカチッという音が、静かな教室に妙に大きく響いた。
「….本当にやるの?僕、君のギターいたことないんだけど。下手だったらその場で帰るから」
「手厳しいな、天才さんは。でも、期待してるよ。お前の曲、あのノートの走り書きからリズムはだいたい 掴んだ……これだろ?」
俺はジャカジャーンと、G メジャーのコードを力強く鳴らした。古いアンプが唸りを上げる。
「….ふーん。耳だけはいいんだね」
大森が少しだけ目を見開いた。彼はゆっくりと立ち上がり、壁際にあったアコースティックギターを手に取 る。
「いい?僕が作る曲は、一音一音に意味があるんだ。適当な手癖で弾かないで。…..いくよ」
大森が小さく息を吸った。
その瞬間、空気が変わった。
彼が奏で始めたのは、繊細だけどどこか鋭い、不思議なアルペジオ。それに続いて、透き通るような、でも熱を帯びた歌声が響き出す。
(….すっげぇ…..)
鳥肌が立った。ノートで見た時よりも、ずっと立体的で、景色が見えるような音。
俺は慎重に、でも熱を込めて、彼の歌の隙間にギターの音を滑り込ませた。
「…..つ、そこはもっと、引いて」
歌いながら、大森が指示を出す。
「こうか?」
「違う、もっと…..そう、そのくらい強さ。……あ、今のフレーズは悪くない」
「だろ?ここ、もっと盛り上げたいんだ。ドラムがドーンと入るイメージでさ!」
俺がエフェクターを踏み込み、歪んだ音でリフを刻み始める。
大森の瞳に、パッと火が灯ったのが見えた。
「…..若井、もっと上げて!僕の歌を食うくらいの勢いで!」
「言われなくても!!」
さっきまでの冷めた態度はどこへ行ったのか。大森はギターを激しく掻き鳴らし、俺の音に応えてくる。
一人が作った「点」の音が、二人で鳴らすことで「線」になり、「面」になって広がっていく。
「….つ、はあ…..」
曲が終わると、二人とも肩で息をしていた。
沈黙が流れる。
大森はギターを抱えたまま、じっと床を見つめていた。
「….どうだった?俺のギター。ノイズだったか?」
俺が恐る恐る尋ねると、大森はゆっくりと顔を上げた。 その顔は、初めて会った時のような険しさは消えていて、少しだけ上気していた。
「….悔しいけど。一人で鳴らしてた時より….ちょっとだけ、マシな音がした」
「ちょっとだけかよ!素直じゃねーな」
「うるさい。…..でも、悪くない。君の音、僕の曲を邪魔してない。…..むしろ、広げてる」
大森がそう言って、小さく、本当に小さく笑った。 その瞬間、俺は確信した。こいつとなら、誰も聴いたことがないような音楽が作れる。
「….なあ、大森。やっぱバンド組もうぜ。俺とお前、それに….あの藤澤先輩を引っ張り込めば、最高になると思わないか?」
「…藤澤先輩?あの、ふわふわした生徒会長?」
大森が眉をひそめる。
「そう。あいつのピアノ、実はめちゃくちゃエグいんだ。・・・・よし、決まりだ!次は三人で音出すぞ!」
「勝手に決めないでよ….。でも、まあ….あのアナログなピアノが入ったら、どうなるかは興味ある、かな」
外はすっかり夕暮れ時。
オレンジ色の光が差し込む音楽室で、俺たちは初めて「仲間」としての第一歩を刻んだ。
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楓
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コメント
1件
第7話、読み終えました。二人で音を重ねる場面、すごく良かったです。「点が線になって面になる」って比喩、まさにセッションの感覚を言い当ててますよね。大森が最初はツンツンしてたのに、最後に「ちょっとだけマシ」って認めて笑うところで、グッときました。次は藤澤先輩も加わるんですね。どんな音になるのか、続きが気になります!