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体育館での文化祭準備。合唱部はリハーサル、クラスは出し物の段取りで大忙し。
「じゃあ出し物の買い出し、ペアを作ってスーパー行ってきて」
「藤牧くん、一緒に行こ!」
クラスの女子が手を挙げた瞬間、京介は一瞬ためらった。
「……あ、うん」
そのやりとりを見ていた匠海。口元は笑っていたが、視線は冷えていた。
「先生、俺と京介で行きます」
「えっ!?」「な、なんでお前が――」
女子がざわめき、京介が睨む。
「勝手に決めんな!」
匠海は京介の腕を引き寄せ、落ち着いた声で。
「弟守るのは兄貴の役目や」
その一言に教室がざわついた。
「ほらやっぱ溺愛!」「兄弟じゃなくて恋人じゃん!」
京介は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「ふざけんな! 俺はアイツとなんか――!」
でも最後まで否定しきれない自分に気づいて、心臓が痛んだ。
買い出しの帰り道。手に持った袋の重みより、沈黙のほうがずっと重かった。
京介が耐えきれずに言う。
「お前、マジでやめろ。勝手に“兄弟だから”とか言って俺のこと縛んな」
匠海は足を止める。
「縛ってへん。ただ……他の奴に取られんの嫌やねん」
「は?」
京介の胸がドクンと跳ねた。
「お前が他の奴と笑っとると、俺、腹立つんや」
初めて見せる真剣な顔。
京介は混乱して声を荒げた。
「そんなの……嫉妬してるみたいじゃねぇか!」
「……嫉妬してるんやろな、きっと」
匠海の低い声に、京介は一瞬息を呑む。
「ふざけんなよ……! 俺たち兄弟なんだぞ……!」
声を震わせる京介。
匠海の手が京介の腕を掴んだが、京介は振り払った。
「俺に……そんなこと言うな!」
袋を持ったまま走り去る京介の背中を、匠海はただ見つめるしかなかった。