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 アラームが鳴り手探りでスマホを探すがなかなか見当たらない。重い身体を起こし周りを見渡す。松田くんの腕の下敷きになっているのを見つけスッと抜き取りアラームを止めた。

「んん……真紀……おはようございます」



「ん、おはよう」



「もうちょっと、こっち来て?」



 寝癖がピョンと跳ねていて可愛い。



「ちょっとだけだよっ」



 もう一度布団に入り直し松田くんの肌の温もりをもう一度感じた。心地の良い心臓の音の響き。布団から出たくなくなる。



「あーもうダメ! 時間だよ、起きなきゃ!」



「ですねぇ~、先に洗面所使ってください、俺は朝ご飯の準備しておきますから」



 朝から松田くんのご飯を食べて幸せな気持ちいっぱいで松田くんのアパートを出た。もちろん昨日松田くんが買ってきてくれたストッキングを履いて。



 二人電車に揺られ会社に向かう。もし会社の人になんで二人でいるのか聞かれたらたまたま電車で会ったで話を合わせよう、と話しながら結局誰にも会わずに会社に着いた。



 自分のデスクに座りメールチェックをしながら昨日の事を思い出す。昨日は自分でも驚くほど大胆になれた気がする。

 松田くんの気持ちもしっかりと確認でき、自分の気持ちもちゃんと伝えることができて本当によかった。

 そもそもは誠の発言が原因だが……



(やばい! 好きって言われて舞い上がって誠さんの事すっかり忘れてた!)



 自分だけが松田くんと上手く収まって……なんて誠が知ったらきっとまた妬み、苦しむだろう。

 私が誠の立場だったら悔しくて辛くて一人苦しんでるかもしれない。

 もう一度きちんと話し合いたい。

私は松田くんに誠の連絡先を聞き連絡をする事にした。

「誠さんの連絡先教えて」と松田くんに言った時は物凄い形相で「なんでですか!」なんて嫉妬心丸出しだったけど、この前の買った服の話があって、と苦し紛れの嘘をついた。渋々だが誠の連絡を教えてもらう事ができた。



“こんにちは、水野です。松田くんに連絡先を教えてもらいました。今日の夜お時間ありますか? よければ夜ご飯どこかに食べに行きませんか? 大事な話があります”



 返事はすぐに来なかったので夜まで気長に待つ事にした。



「水野さん、凄い眉間に皺が寄ってますけど大丈夫ですか?」



「え、ああ、大丈夫よ」



 ブーブーと携帯のバイブ音がデスクの上で鳴り、誠からの返事かもしれないとスマホを確認すると松田くんからのメールだった。



“今日の夜は何処かで食べていきませんか?”



 チラリと隣を確認すると返事に期待をしてワクワク感が溢れ出ている松田くん。

 ごめん! と思いながら返事を返した。



“ごめん! 今日は用事があるからまた今度”



 松田くんのスマホのバイブ音が鳴り携帯を確認するなりデスクに顔を突っ伏して落ち込んでいた。

 なんてわかりやすい生き物なんだろう……そんな松田くんが可愛いと思ってしまう自分も重症だ。



“残念ですけど、じゃあまた明日にでも”



“じゃあ明日は夜で、今日はランチ行かない?”



“行く!!!”



 松田くんを見るとパァアっと明るい笑顔に戻りニコニコしながらパソコンのメールチェックをしている。

 本当に素直で可愛い。

きっと私にはないこの素直さに無性に惹かれているのかもしれない。

 松田くんに返事を返したのにまだ未読のメールがある事に気づき、開くと誠からの返信だった。



“いいよ、じゃあ駅前の海鮮居酒屋に八時集合ね”



 よかった。誠が会ってくれることにホッと胸を撫で下ろした。

 でも、どんなことを言われるのか、正直不安だ。



 十二時になったので松田くんと一緒に会社を出て今日もまた中華料理店に行く事にした。

 二人でランチに会社に出ても上司と部下の関係だからか誰一人と不思議に思う人はいないのだろう。特に何も言われる事なく会社を出た。



「久しぶりにこの店来ましたね、初めて来た日は俺が入社二日目とかでしたもんね」



「そうね」



 メニューを開きながら何にしようか悩む。今日は麻婆セットに決め、松田くんも「俺も麻婆豆腐にしようと思ってました!」と言うので二人とも麻婆豆腐セットを頼んだ。



 私はこのランチ時間で松田くんに聞きたい事があってランチに誘ったのだ。誠の事、誠に対してどのように思っているのか松田くんの気持ちを知りたい。家族のように大切に思っているのは分かっているが、もっと踏み込んだ所まで知りたい。



「そういえば松田くんと誠さん、家族みたいな存在って言ってたけど、本当に大学までずっと一緒だったんだね」



「ですね、てか誠が勝手に同じ学校をいつも受験してるんですよね、それで社会人になるまでずっと一緒でした」



「本当にずっと一緒だ、大切で特別な関係だね」



「まぁ最初の頃は金魚のフンみたいにくっついてきて正直ウザいと思った事もありましたけど、でもやっぱり今までずっと一人だったから一緒に居てくれる人がいるってのは内心嬉しかったですね、誠にはなんだかんだ救われて来ましたよ」



 二人の良い関係性を目の当たりにして目の奥がツンとなる。

 もしかするとだが松田くんは誠が自分を恋愛対象として好きな事を全く気づいていないのかもしれない。勝手に同じ学校って、国立なんて大変だし生半可な気持ちじゃついていけないよね……



「例えばどんな事で救われたの?」



「ん~小学生の時とか、俺と誠がずっと一緒にいるからキモいとか親が居ないとか可哀想ってやっぱり虐められてて、俺はなんとも思わなかったんだけど、誠はグッと食いしばって我慢してたんです、それなのに俺だけに突っかかってきた男の子がいて、そしたらずっと食いしばってた誠がその男の子に殴りかかって大雅の事を悪く言う奴は許さない! って泣きながら叫んでましたね、まぁ言うまで間も無く施設の人を呼び出しで校長室で大怒られですよ」



「そりゃ怒られるわよね、小学生だもの」



「でもその時嬉しかったんです、俺本当に感性に欠けてたんですけどその時は本当に嬉しいと思いましたね、ずっと我慢してたのに誠が俺の為にって、その事件があってからは俺らの事とやかく言う子は殆どいなくなりましたよ」



「そうなんだ、じゃあその事件が起きたお陰だね!」



「だから俺も誠の事はできる限り守ってやりたいと思いました、同じ境遇だからこそ分かり合えるものがあったのかな。でも俺は親に捨てられたから悲しいとかは思った事ないですけどね」



 松田くんは明るく言っている言っているが眼鏡の奥の瞳が少し澱んでいるように見えた。本当は悲しいのに上手く言えないだけなのかもしれない。だからこそ松田くんと誠は本当に支え合って生きてきたんだな、その支えの中に私も入れたらな……。でも二人の関係性を確かめる事ができて良かった。

 だからこそ、誠ときちんと話したいと思った。



 お待たせしました~と熱々の麻婆豆腐セットが運ばれてきてからは二人ともフーフー息で冷ましながら食べ進めた。


 午後からは鬼のように働いた。

 最近残業続きだったので今日は八時までに終わらせられるようにキューピッチで仕事進めたおかげで七時半に仕事が終わった。

 ギリギリセーフと言ったところだ。

 残業している松田くんにお疲れ様、と声をかけ急足で会社を出た。



 駅前にある海鮮居酒屋は個室になっていて二人で話をするにはちょうどいい場所だ。

 お店の外で誠が来るのを待っていると、すぐに前方から誠が向かってくるのが見えた。今日も完璧な可愛さで、水色のロングコートの中には白いニットワンピにスラッとした脚のラインが綺麗に出ているデニムで更に脚が長く見える。それに引き換え私は仕事終わりでボロボロの顔にシワシワのスーツ。比べる余地もない。



「誠さん、今日は来てくれてありがとう」



「いいよ、私も話があったし、寒いからさっさと入ろ」



 スタスタと私の横を通り過ぎお店に入っていく誠を追いかけるように店に入った。

 入って目の前にある大きな水槽には小走りな私とは正反対の魚達が優雅に泳いでいる。

 店員さんに奥の個室に案内されお互い無言で個室に入り向かい合って座った。

 なんとも言えないピリついた空気に気が重くなる。



「で、話って何よ。この前の事だったら私は謝らないわよ」



 先に沈黙を破ったのは誠の方だった。

 案内と同時に用意されたお冷をグッと半分飲み干し話す覚悟を決める。



「この前誠さんが私に松田くんと別れろって言ってきたけど、私は絶対に別れません。もう百パーセント彼を信じれるって自信を持って言えるわ」



 自分で言ってて顔が赤くなっていくのが見なくても分かるくらい熱い。反対に誠の顔は青褪め、目はギラギラと怒りに満ちていた。



「何? 今日はそれだけを言いに来た訳? とんだ茶番だわ」



「やっぱりちゃんと話さないとって思って……自己満かもしれないけど、誠さんにはちゃんと知ってて欲しかったから」



「私は幸せです自慢しにきたってわけ?」



「違っ! 私は今まで恥ずかしい気持ちが勝っちゃっててなかなか素直に自分の気持ちを伝えることが苦手だったの……それでもやっぱりちゃんと素直に気持ちを伝えるとスッキリするし、なによりお互い気持ちが分かり合えて凄くプラスな関係になれると思うんだ……その、だから……」



「だから私にも大雅に気持ちをちゃんと伝えろって言いたい訳?」



 誠は見事に私の思考を読み取り呆れたように笑い出す。



「ははは、私が大雅に好きですって今更言って何になるの? 逆に失うもののリスクが大きすぎるわ」



 誠の声のトーンもどんどん低くなり怒っている事がひしひしと伝わる。



「失うって何を?」



「はぁ? そんなの決まってるじゃん、大雅の事を失いたくないから。それだけ」



「私は松田くんがもし誠さんの気持ちを知ったとしてもちゃんと答えてくれると思うし、気持ちを知ったからって離れていくとは思えない」



「……何、私は大雅の事よく知ってるって言いたいの? そうゆうのウザいよ」



 確かに今私が言っていることはお節介だと重々承知の上だが、このまま誠とギクシャクした関係にはなりたくない。松田くんの大切な人だから。



「松田くんは誠さんの事大切だってハッキリと言ってた! 本当よ、これから先私だって誠さんと仲良くしたいって本気で思ってる、だってこうやって私にキツいこと言うけど本当は優しい子って分かるから……」



 今まで全てを松田くんの為に頑張ってきた誠からしたら私はただの邪魔者。それでも私は松田くんが好き。どうにか分かって欲しい……



「ふーん、じゃあお酒で私に勝てたら考えてあげる」



「お、お酒……いいわ! やる!」



 大丈夫。めったに人前で酔う事はない。気を張ってれば大丈夫だろう。


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