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恋愛短編集
始まり~
ーー幸福ーー
「ふぁ〜…眠っ」
『ははっ、間抜けズラ〜』
悪意は無いのだろうが
元々の気分が悪いのもあって
いつもなら受け流せる言葉も
癪に障ってしまう
「うるせぇ」
珍しく苛立っていた様でドスの効いた
声でそういう彼の目に冗談など
1ミリもない様に感じた
『怒ってる〜?』
あーあ、俺の悪い癖だ
こういうピリピリとした雰囲気に
耐えられず軽い言葉しか出てこない
「…………」
いつもそう、君は軽い言葉が嫌い
適当に言ったり聞き流したりすると
大きくて力強い目で俺を睨みつける
人と目を合わせるのが苦手な俺は
大概君と目を合わせずにしている
キョロキョロと目のやり場を探してる
「お前毎回目合わせないよな」
「そんなに嫌い?」
そんな事ないよ
そう言いたいが言葉が喉につまる
取り出す事の出来ない其れは
喉から引っ込んでいった
其の代わり出てきたモノは
喋り声とも呼べない程の
小さな唸り声だった
『ぁ…ぇ………』
またそうやってジリジリと這い寄って
俺をそんな目で睨みつけるんだ
止まっていた喉を動かす様に
ゴクリと唾を飲み込んだ
自然と冷や汗が頬を伝った
「ごめんね」
彼からそんな声がした刹那
とても人から出る音とは思えない程に
ガンと鈍い音が静かな部屋に響き渡った
と思えばチカチカと目の前が暗くなり
バタンと床に勢いよく倒れた
ガンガンと痛む頭や動かない全身を
受け入れながら視界に入っている
俺を見下ろしている彼に言った
『ぁ…あり……ありが…と』
やっとの事で声に出せた感謝の言葉
タイミングもとてもじゃないがいいと
言えないなかそう言うと彼の目から
涙が零れ落ちた其れは頬を伝って
俺の頬にポタリと落ちた
俺の冷たくなる体温より彼の滴り落ちる
涙の方が余程暖かく心地が良かった
遅くなってしまったけれど
言えて良かったと思う
「ごめん、ごめんね」
「焦っちゃって、分かんなくなって」
『俺も……ご…ごめんね…』
ゴフッと口から血が溢れ出したが
うんうんと頷くと彼は
泣きじゃくり酷くなった顔を歪め
俺に向けて精一杯の笑顔を作った
とても綺麗な笑顔ではない無理矢理
な笑顔だ、それでも愛おしいと
思えた
人間は分かり合えない
だから進化して話せるようになった
何か問題があるなら話した方がいい
きっといい解決策が思いつくさ
ーー幸福ーー
また次の話で
なう(2025/09/17 07:09:20)