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ココアを飲み干して、星歌は「アァ……」と大きく吐息をついた。
「住んでた家は事故物件。恋に破れ、職を失い……。なのに私は今、義弟に笑われているんだなぁ」
「ご、ごめ……、姉ちゃ……」
遠くを見つめるように半眼を閉じる星歌。
その顔やめてと行人がもだえている。
「私とお前がはじめて会ったのはいつだ? 忘れもしない小三の夏休みだ。あのころ、お前は可愛かった……。私より小っさくて、照れくさそうに、おねえちゃんって呼んでくれたな……」
ああ、私の天使が降臨したと思ったものだ……。
芝居がかった仕草で両手を広げると、行人はついに耐えきれなくなったという調子でのけぞった。
ヒーッと喉から音が漏れているが、笑い声をあげるまいと懸命に堪える様子が、どこかいじらしくもある。
「けどな、お前は大きくなるにつれ背は高くなるわ、顔は美人になるわ、頭はいいわ、運動もできるわ、モテるわ。どんな悪魔になってしまったんだ」
「だ、だから、俺のせいじゃな……」
「憧れの先輩に呼びだされて胸おどらせて行ったら、行人と付き合いたいから仲をとりもってって相談ばかり。何だそれは……BLか! 全国の乙女がキュン死するボーイズラブの主人公か何かか!」
それから星歌は、やおら指を折り始めた。
「中一のときも、中三のときも、高一も高二も。何で私は義弟にオトコを取られ続けなきゃなんないんだ!」
「……姉ちゃん、数多すぎ」
「私は恋多き乙女なんだよっ!」
「乙女はそんなふうに絡んでこないって。もういいから、今日は泊めてあげるから寝なよ。事故物件のことと仕事のことは、明日いっしょに考えよう」
笑いをどうにか呑みこんで、星歌の背をさすってやる。
服の布越しに行人の手のぬくもりを感じて、彼女は今度はスンスンと鼻をすすりはじめた。
「ごめんね。恋も仕事も家もなくして、こんな夜中に義弟の家でクダ巻いてる女がお姉ちゃんで……」
背中をなでる手が、一瞬ビクリと震える。
「俺は星歌を姉なんて思ったことないけど」
「えっ、なに?」
囁き声を聞き逃した星歌。義弟の方を振り返るが、彼はゆっくりと首を振ってみせた。
星歌の背から手をはなし、そっと身を寄せる。
「なに?」
腕と腕がぴたりとくっつくくらいの距離に、星歌の声が上ずった。