月に届くまで

あの日から連日、放課後に勉強を教えてもらっている。数学と化学を重点的にやっているおかげで、この2つは随分理解できるようになった。

いつもは図書室で勉強していたが、今日は空いていなかったので自分たちの教室に残って勉強していた。

「どう、合ってる？」

「、、ここxじゃなくてaだけどな」

「あそうか、でもただの凡ミスよ、正解じゃん」

萩原は、まあ、みたいな顔で赤ペンで丸をつけた。

「萩原に教えてもらったらなんか簡単に思えてくるわ」

さすが学年1位、と何度褒めても萩原は少しも嬉しそうにしない。

次の問題に取りかかろうとした時、急に教室に誰かが入ってきた。

部活の格好のままの酒井だった。忘れ物を取りに来たんだろう。酒井は無言で自分の席に近づき、机の横にかけている袋を取った。

「ああ、付き合ってんの？」

「いや、違うけど」

「へえ、最近こいつのことやたらと庇うし納得って思ったんだけど」

それを萩原がいる前で言うか。

「一軍に気に入られようとすんなよ」

教室を出て行こうとしながら酒井はそう吐き捨てた。

「気にしないでいいよ萩原」

萩原の問題を解いている手が一瞬止まった。

「ほっとけほっとけあんなやつ」

萩原はやっぱり何も言わなかった。