1.コンビ
「よし、駆除完了っと…あとはイサナ、よろしく」
ある日、院瀬見とイサナの2人は廃れた公園に来ていた。目の前にはたった今倒したばかりの悪魔が死んでいる。
イサナが1歩前に出て、両手を叩く。悪魔が大きな泡に包まれ、跡形もなく消えた。
「その技いいよなー便利で。駆除するどころか綺麗サッパリ消え失せてやんの」
「…しゃぼん玉が割れて悪魔の血が飛び散るの、ちょっとやだ」
今日はリヅがいない。マキマに単独任務を頼まれたらしい。なかなかに面倒くさい任務を回されたようで、出かける前に「もう嫌やー帰りたいー!」と嘆いていたが…
「んじゃ、そろそろ昼だし、ラーメンでも食ってリヅに自慢してやるとすっか!」
「…ハナちゃんいないとつまんない…」
イサナがしょんぼりと肩を落とした。
「なんで?」
「…しゃぼん玉やっても見てくれる人いないから…」
「いや、ガキかよ」
院瀬見はフンと鼻で笑った。そして、イサナに向かって手招きをする。
「ほら、行くぞ。ちょうど近くに美味いラーメン屋があるんだ」
「…炒飯ある?」
「おま…!ラーメン屋だっつってんのに炒飯食うつもりか!?」
「別に…」
2.ラーメン屋にて
「えーっと…?確かこの辺に…」
件のラーメン屋を探してキョロキョロする院瀬見。イサナはそれに黙って着いていった。
「ダメだ。随分前に行ったっきりだから覚えてねぇわ。私あっち探してくっから。イサナそこで休んでな」
院瀬見にそう言われ、イサナは頷いて近くにあったベンチに腰掛けた。
「お腹空いた…」
ぼそりと呟きながら天を仰ぐイサナ。空は青く、ところどころに雲が浮かんでいた。
「あの雲美味しそう…」
院瀬見に聞かれたらまた「ガキかよ」と言われてしまいそうな台詞だが、そんなこと言われてもイサナは何も気にならない。
「イサナー!」
「!」
噂をすれば、だ。院瀬見がイサナに向かって大きく手を振っている。
「わりぃ!あっちにあったわ!」
どうやら見つけたらしい。院瀬見が自身の後ろを指さしている。空腹だったイサナは静かにベンチから立ち上がった。
「炒飯もあるってよ。良かったな」
2人がのれんをくぐって店に入ろうとしたその時だった。
「……」
「? イサナ?どうした?」
突然、イサナの表情が変わった。あさっての方向をじっと見つめ、黙りこくっている。
「イーサーナ!ほら」
「…うん」
3.気配
「だぁー、ごちそうさんしたァ!」
会計をする院瀬見を置いてイサナが先に店を出る。空は相変わらず青々としており、特に他と変わったものもない。
「イサナ。任務終わっちまったし、このまま帰るぞ。まだ報告書が残ってる」
そう言い、財布をポケットにしまった院瀬見はすたすたと歩いていった。
「…あ?」
「…どうしたの…?」
「わり、道間違えたかも。行きんときこっち通ってねぇわ」
院瀬見は軽く舌打ちをし、元きた方へ戻ろうとした。
だが、イサナが着いてこない。
「おいイサナ…帰るって─」
「待って」
院瀬見の話を遮り、イサナははっきりと言った。
「…どうした?」
「ここ、”出るよ”」
硬い表情でイサナが見つめる先には学校が建っていた。
恐らく高校だろう。雰囲気からしてそんな感じがする。
「…出るって何が?」
院瀬見の問いかけにも応じず、イサナは突然校門をくぐって校舎に向かった。
「あ、おい!」
慌ててそれを追いかける院瀬見は、イサナの感じ取っている”何か”に気づいていなかった。
「ど、どちら様ですか?」
イサナが豪快に職員室の外扉を開けてしまったため、中にいた教師全員がギョッとしたような顔をした。
イサナが先陣を切るから説明もするのかと思いきや、口下手で人見知りな性格なため、そんなことをするはずがなかった。というかできるはずがなかった。
「公安対魔特異4課だ。校長と話をさせて頂きたい」
縮こまったイサナの代わりに院瀬見が言った。何のためなのか自分でもよく分からないが、とりあえず胸ポケットに入っていた手帳を見せる。
「校長先生…は今ご不在ですね…」
「公安…ウチで何かあったんですか?」
2、3人の教師が校長を探すのを尻目に、年配の男性教師が心配そうに聞いてきた。
「いや、コイツが急に…」
「悪魔の気配がする」
「え?」
話のバトンを受け取ったかのように、今度はイサナが話し始めた。それを聞いていた教師は疑いの目を向けた。
「それ…本当ですか?勘違いとかじゃなくて?」
「公安所属の悪魔がそう言ってんだ。とにかくちょっと上の方に言えって…!」
「あ、ちょっと!」
強引に職員室に侵入しようとする院瀬見を、教師たちが懸命に押さえつけた。理解が早い彼女とは違い、まだ半信半疑なのであろう。あまり信じてもらえない悔しさを噛み締めていたその時。
「院瀬見…?」
どこからか聞き覚えのある声がした。