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二回目の凄惨なゲームが終わり、俺達は自分が汚した場所を掃除して教室から出てきた。 翔は凛に家庭科室に連れて行かれ、火傷が悪化しないようにと冷タオルの交換に行っている。
小春と俺は二階へと降りていき、言葉を交わすこともなく廊下に座り込んだ。死のゲームが行われている場所より、少しでも離れていたかったからだ。
彼の為にパパ活していた音霧さん。
そんな彼女の気持ちを利用していた小田くん。
それを暴露した三上さん。
三上さんにパパ活をしようと誘っていた音霧さん。
もう、関係がぐちゃぐちゃで、意味が分からない。この気持ちさえも。
「誰が何の目的で、このようなことをしているか探るべきじゃない?」
俺達に合流してきた凛が、ボソッと呟いた。
「だから、ダメだって! 下手なことして爆発したらどうすんだ!」
翔は今までみたことがないぐらいに声を荒らげ、小春はその声にビクッとなる。
「小春の前で、大きい声出さないで」
「……あ。ごめんな、小春」
「ううん。ごめんね」
消えそうな声で、そう返していた。
「でもヒントは与えていると言ってる。つまり私達に考えさせたいんじゃないの?」
「確かに……」
普段、翔と凛が話している時は口を挟まないようにしているが、今日は気付けば声が漏れていた。
あの挑発的な態度。試すような発言。人が死ぬゲームを悠々と進行する主催者。
ゲーム会場でもない二階にも光る、監視カメラの数々。まさか、これは。
翔の静止も聞かず、凛は検索アプリを起動する。キーワードは「デスゲーム」、「赤い月」。
一瞬、何のことかと思ったが。勝手にダウンロードされていたアプリには、アイコンも背景画も赤色の月だった。
気味が悪い演出かと思っていたが、これもヒントだったのか?
黙っている翔に顔を向けると、俯き、やたら汗をかいている。
翔は、凛のことを本当に大切に想っている。野球部のショートポジションであり、この容姿の良さ。当然ながら女子にモテる。
しかし翔は一切靡かず、凛の側に居ようとする。普段は勇ましい翔も、凛の話をする時はデレデレとしてしまい、恋の魔法とは人格すら変えてしまうのだと関心してしまうぐらいだった。
そんな凛が、命を賭けた危険なことをするなら。翔の性格上、自分がやると名乗り出てもおかしくない。現に、危険を顧みず爆発に巻き込まれた凛を、身を挺して守ったのだから。
「これじゃないかな!」
凛のハッとした声に、考えていたことがシャボン玉のようにパチンと弾ける。俺達三人は凛のスマホに顔を寄せる。
そこには「国際指名手配犯」として名前が出ている、「レッドムーン」。日本の警察の中では、「|紅《くれない》の月」と呼ばれているらしい。
そのサイト情報によると会社、学校、小さな村などの集団の場に閉じ込めてはデスゲームを仕掛け、それを撮影した動画を裏動画配信サイトで公開。収益を得ていると記載されていた。
「視聴者」
主催者が漏らした言葉は、そうゆう意味だったのか?
何か手掛かりが掴めたらと、各々のスマホで検索を始める。そこには閲覧注意と前置きがされている。それは、そのはず。吐き気を催すほどの残虐なゲーム内容が記されていたからだ。
その中で気になったのは、警察の介入についてだった。普通の犯罪者は警察を嫌うが、このゲームの主催者はむしろ好み、ゲームの手伝いをさせるらしい。
ゲーム参加者への食事の配給、脱走しそうになる参加者の足止め、ゲームが終わるまで邪魔が入らないように警備するなど、信じられない内容だった。
しかしその後に記されていたのは警察が参加者を救護しようとしたり、手伝いに非協力的だった場合。主催者はゲームを止め、容赦なくゲーム参加者を殺害する。そのような悲惨な事例がまとめられていた。
『君、戻りなさい!』
学校の敷地から出ようとした小田くんに威嚇射撃したのも、玄関付近に居た俺を引き止めたのもその為だったのか。
立ち上がり、窓からの景色を見下ろすと、そこには変わらず校舎内を囲っている機動隊員。
あの人達は、俺達の味方だ。
嬉しいような、安心したような、恐怖が襲ってくるような、絶望するような。ぐちゃぐちゃな感情が、一気に押し寄せてくる。
警察に見捨てられていなかった希望。日本の法治は健在しているいう安堵感。警察でも対応出来ないほどの組織だという恐怖感。俺達はこんな狂ったゲームを続けなければならない絶望感。そんな思いが。
機動隊の一人がこちらに目をやり、視線が合ったような気がした。
「助けて」と叫びたい衝動を止め、振ろうとした手を握り締め、声が出ないように唇を噛み締める。
俺が今叫んだところで、状況なんか変わらない。むしろ気持ちを抑えている三人を動揺させてしまうだけだ。
だから、俺は合っていた視線を逸らし、みんなの元へ戻る。
それで良いんだ、それで。俺が外を眺めている時も、みんなは少しでも情報を得ようと動いているんだから。翔も。
「ねえ、この書き込み。SNSやウェブサイトで参加募集を呼びかけているのを、見たことある人が居るらしいけど。まさか……ね」
凛の詰まるような声に、俺達は互いの顔を見合わせながらスマホを覗き込む。確かにそんな書き込みがあり、それは一つや二つでない。冗談にしてはあまりにも具体的で、書き込みの文章に統一性もない。少人数がふざけて何度も書き込んだというより、多人数がそれぞれの感性と文章力で打ち込んだように見えた。
今、閲覧しているのは、ある個人が作った「紅の月」を考察するというwebサイト。そこには自由に書き込める掲示板が用意されており、そのコメントだった。
その中で、何度も散見される文章。それは。
「あなたが壊したい世界はありませんか?」
不穏な一文だった。そこから参加募集について詳細に書かれていたらしいが、そんな誘い文句に誘導されてしまった人なんて本当に居たのか?
……壊したい世界? それは自分とは関係ない遠くのはなしなのか、それとも……。
「それに気になっていたんだけど、この密告上手く出来過ぎていない? 友達の秘密を知っているのはともかく、証拠品の提示であそこまで用意したり調べがついてるのって、おかしいって言うか……」
凛はためらってしまったのか、はっきりと断言はしない。しかし、言いたいことは分かる。
このゲーム参加者の中に裏切り者が居る? そしてその人物が、このゲームにエントリーしたのではないだろうか?
生徒達の中に、人間の皮を被った悪魔がいるかもしれない。
その事実に、悪寒がした。