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#学園
大正
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二日後。アニタを盗賊たちのアジトへと案内し、無事街へと帰還した。
宿の扉を開けると、一目散にカガリの元へと駆け寄るミア。
「カガリ。お兄ちゃん浮気しなかった?」
第一声がそれである。どれだけ信用がないのか……。
頷くカガリに抱き着き、わしゃわしゃと豪快に撫でるミアは嬉しそうだ。
「どうだったの?」
浮気の疑いが晴れるや否や、気だるそうに声を上げたのはシャーリーだ。
ベッドの上に寝転ぶその姿は暇そうである。
「ああ。案外すんなりとこちら側に引き込めたよ」
あの後、落ち着きを取り戻したアニタは全てを語った。その内容は、大方予想通り。
グレッグは全て知っていた。レストール卿の怒りを買ったこと。空席だったブラムエストの町長という地位につけるであろうこと。グラーゼンが自分を狙っていること……。
筋書きはこうだ。祝賀会で二人の妹を攫い、騎士団にその責任を取らせ、それを再編する。
行方不明の二人の妹を発見保護したことを理由に、どちらかと貴賤結婚することで、貴族への復権を果たすというのがグレッグの計画だったのだが、そこにイレギュラーが発生した。
一つは、屋敷の使用人たちに攫った二人の妹の存在がバレてしまったこと。その口封じとして直接手を下したのは、ドルトンとギースの二人。
二つ目は、二人の妹が首を縦に振らなかったこと。最終手段として使った、どちらかが断ればどちらかを殺すという強迫めいたプロポーズも見事に失敗し、アニタは二人の殺害を指示された。
それが命令で逆らえなかったのだと、アニタは自分を正当化することも忘れてはいなかった。
今頃アニタはグレッグの屋敷で、盗賊団壊滅を報告しているだろう。可哀想だが、アニタは既に俺の傀儡だ。
アニタの憑き物を落とすことを条件に、こちら側に付くことを約束した。今のアニタは霊に対しては無敵。俺がそういうまじないをかけたからである。俺が救ってやったのだ。
なのでグレッグの屋敷で寝泊まりしても霊に憑かれる心配もないし、アンデッド化しても襲われることもない。
……と、言うのは真っ赤な嘘で、アニタがそう思い込んでいるだけである。
霊に対して無敵になるまじないなんかないし、そもそもアニタには誰も憑いてはいなかった。
プラチナプレートの冒険者で|死霊術師《ネクロマンサー》。それだけの根拠があれば、信じさせるのは容易いこと。
良く言えば盲目的な愛。悪く言えばカルト教団といったところか……。恐らく今なら、怪しい壺でも買ってくれるだろう。
「街の様子はどうだ?」
「帰ってくる途中で見たでしょ? 私達は元の街を知らないけど、賑わいは取り戻せたんじゃない?」
確かにシャーリーの言う通りであった。開いてなかった店も営業を再開し、露店の数も増えている。
疎らだった人通りも増え、表向きは少なからず活気は見られた。しかし、用心しているのはそこではない。
「何かグレッグからの発表は?」
「何も。屋敷から出る素振りすら見せないわ」
「予想通りと言えば予想通りか……」
「用心はしておいた方がいいんじゃないかな? さすがに町民を殺すことはしないと思いたいけど……」
シャーリーとシャロンには街の様子を探ってもらっていたのだ。俺が盗賊たちを討伐したことによって、ギルドから盗賊討伐の依頼は消え、街は平和を取り戻した。
しかし、カネの亡者であるグレッグが税率を戻すとは思えない。
盗賊団討伐費用を捻出すると言う名目で徴収している税金。街の通行料もその内の一つ。その税率が高いことは周知の事実。
街の平和のためにと我慢していた者たちが立ち上がり、声を上げる可能性はゼロではないだろう。最悪デモに発展すれば、恐怖政治が始まってもおかしくはない。
「五十層のダンジョンが半分まで掃除してあるとして、残りの半分を攻略するのにどれくらいかかると思う?」
「グレイスの時みたいにやれるなら四日もあれば十分だと思うけど、今回は深い分マッピングは長くなる。早くても一週間ってとこかな?」
「その間だけでも辛抱してくれればいいんだが……」
グレッグをどうにかしてやるから大人しくしていろと言えればいいのだが、その出所が自分だとバレてしまえば、計画は全て水泡に帰す。
だからといって運任せというのも……。
「シャロンさん。ギルドを使ってこの街の有力者とコンタクトは取れませんか? 俺の名前を出して下さっても構わないので」
「……出来ないことはありません。ですが、その者がグレッグと繋がっている可能性がないとは言い切れないかと……。説得するのであればむしろ繋がりのない平民から探された方がよろしいのではないでしょうか? 噂話程度に止めておければ、影響は少ないかと思いますが……」
一理ある。その者がグレッグと繋がっていないと確信が持てるほど調査している時間はない。とは言え、平民の中から信用のおける人物を探し出すのも困難を極める。
「おぅふ!」
突然の脇腹への攻撃に腰をくの字に曲げ、思わず変な声が出てしまった。
その出所は、むくれてしまったミアである。もちろん手加減されているため痛くはないのだが、あまりにも予備動作がなく唐突すぎた。
「どうした?」
「シャロンさんはシャーリーさんの担当なの! 私にだってできるもん!」
俺がシャロンに聞いたから、それにやきもちを焼いてしまったのだろう。だが、それにはちゃんと理由があるのだ。
俺の担当であるミアが調べてしまうと、その時点で俺が関わっていると知られてしまう。
シャロンを間に挟むことで、少しでも俺の影を薄くしようと考えていただけなのだ。
「じゃあミア。俺の噂を流すのに最適な人は誰なのかを、一緒に考えてくれないか?」
正直言って難しい問題である。別にミアから答えが出なくともよいのだ。ある程度信用が出来て、目立たない人物なんて探し出すのは不可能に近い。
最終的にはカネでも掴ませるくらいしか方法はないと思っていたのだが、ミアは自信満々に胸を張った。
「はいはーい。街の情報を教えてくれた家族連れのおじさんが適任だと思いマース」
「それだ!」「それよ!」
ミアの意見は、全会一致で採用ということに相成った。
――――――――――
「こんばんはー」
その日の夜。それほど遅くはない時間に、そのお宅を訪れた。扉をノックすると、出て来たのは奥さんだ。
「はーい。あっ、どうも九条さん。その節はお世話になりました」
「いえいえ。少しお話を聞かせていただきたいのですが、今よろしいでしょうか?」
「ええ。どうぞどうぞ。主人もおりますので。……ささ中へ……」
「お邪魔します」
石造りの平屋。なんの変哲もない民家だ。それでもコット村の木造家屋よりは立派に見える。
あまり大人数で伺うのも迷惑かと思い、連れてきたのはワダツミだけ。
ワダツミを選んだ理由は幼子が懐いていたからで、それ以外に特別な理由はない。
「おお。九条さん。いらっしゃい。どうぞこちらにお掛けになって」
「失礼します」
「この度はありがとうございました。九条さんが盗賊たちを追い払ってくれたこと。既に私達の耳にも入っております。なんとお礼を申し上げたらよいか」
「いえいえ。当然のことをしたまでです」
そんなことこれっぽっちも思ってもいないのに、歯の浮きそうな台詞はなんだが尻こそばゆい。
「それでどうですか? 街は良くなりましたか?」
「え……ええ……」
何やら歯切れの悪い返事を返すご主人。それに口を挟んだのは奥様だ。
「それが、まだ完全に戻ったとは言えなくて……」
持って来てくれたお茶をテーブルに置くと席に着く。その表情は若干曇り気味である。
「と言いますと?」
「防衛費として徴収されている税の撤廃案内がされてないんですよ。盗賊たち目当ての冒険者もいなくなれば売り上げは半減。むしろ悪化するかもって近所の奥様方も不安がっちゃって……」
「それは大変ですね」
「ホントですよ。盗賊たちがいなくなるまでの辛抱だと思って耐えている人たちもいるのに、町長は何をやっているんだか……」
「おい。オマエ。九条さんにそんな話をしなくてもいいじゃないか。盗賊たちはいなくなったんだ。それを……」
「あらやだ。ごめんなさいね……」
「いえいえ。大丈夫です。ちょうど聞きたかった事でしたので」
「「えっ!?」」
身を乗り出し、声をひそめる。
「実は自分、領主様からの使いなんです」
「えぇ!? そうだったんですか!?」
もちろん嘘であるが、プラチナプレート冒険者が言うのだ。信じない訳には行くまい。
「はい。詳しくはお話できませんが、近いうちに町長は解任されます。それまで町民の皆様にはもう少し辛抱していただければと。やけになって町長の屋敷に乗り込んだりしないでいただきたいのです。もちろん無理にとは言いません。そういう方々を見つけたら、そっと今の話を聞かせてあげてください」
「そうだったんですね。少し安心しました。このままだとまた街を出て行かざるを得ない所でしたので……」
安堵の表情を浮かべる二人。
「でも、我慢と言ってもどれくらい……」
「具体的には一ヵ月以内でしょうか。自分は所用で暫く街を出なければなりません。その間だけでいいのでよろしくお願いします」
「わかりました! お任せください!」
話が終わると、出してくれたお茶を飲み干し宿へと戻る。
手を振る二人の夫婦に見送られ、それが見えなくなるとワダツミを優しく撫でた。
「ワダツミ。頼んだぞ」
「うむ。大船に乗った気でいるのだ」
ワダツミはダンジョンには連れて行かず、街でお留守番である。
万が一町長解任の噂がグレッグの耳に入れば、噂の出どころを探るかもしれない。
あの家族を守るためにも、ワダツミには護衛を任せたのだ。
コメント
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うわー、ミアのやきもちが可愛かったですね。「私にだってできるもん!」からのナイスアシストで、あの家族連れのおじさんを適任者に挙げるところ、読んでて思わず笑顔になりました。そして主人公の腹黒い人心掌握術……「領主様からの使い」という嘘で町民を上手くなだめる手腕、やりますね。ワダツミを護衛に残す抜かりなさも好きです。次の動きが気になる!