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家に帰ってきた瞬間。
「……はぁ……」
キヨが、その場で力抜けたみたいにしゃがみこんだ。
「おいおい、大丈夫か」
「……つかれた」
その一言に、全部詰まってた。
精神的にも、体的にも、限界だった。
「とりあえず中入れ」
靴もちゃんと脱げてないまま、ほぼ引きずられるように部屋に入る。
「ほら、座って」
ソファに座らされて、そのまま背中を軽く押される。
「……ん」
素直に従う自分に、ちょっとだけ驚く。
前だったら、絶対こんな風にされなかったのに。
⸻
「水飲める?」
「……ちょっと」
コップを受け取る。
手が少し震えてた。
それに気づいたのか、
「貸せ」
軽く支えられる。
「……過保護」
「今日くらいはいいだろ」
「……まあ」
否定できない。
ゆっくり水を飲んで、少しだけ落ち着く。
⸻
「……キヨ」
「んー……」
「今日、ちゃんと頑張ったじゃん」
その一言に、
「……なにそれ」
少しだけ笑う。
「子供扱いすんな」
「してない」
「してる」
「してないって」
軽いやり取り。
でも。
「……ありがと」
自然に出る。
もう、意地張る余裕もなかった。
⸻
しばらく沈黙。
静かな時間。
でも、その沈黙は心地よかった。
「……ねえ」
キヨが小さく言う。
「ん?」
「ほんとにさ」
少しだけ言葉に詰まって、
「……ここ、いていいの」
また確認するみたいに聞く。
何回も聞いてるのに。
「いいって言ってるじゃん」
うっしーは即答する。
「てかもう帰す気ないし」
「……は?」
思わず顔を上げる。
「いや、今さら一人にするとか無理なんだけど」
あっさり言う。
「……なにそれ」
「だから、そのまんま」
ちょっとだけ笑う。
でもその目は、冗談じゃなかった。
「……」
キヨは何も言えなくなる。
嬉しいのか、怖いのか、自分でもわからない。
でも。
(……離れたくない)
それだけは、はっきりしてた。
⸻
「……風呂入る?」
うっしーが聞く。
「……あとで」
「了解」
相変わらず、無理に何かさせない。
その距離が、やっぱり楽だった。
⸻
少しして。
「……うっしー」
「ん?」
「こっち来て」
ソファに座ったまま、軽く手招きする。
「なに」
隣に座る。
その距離が、思ったより近い。
「……もうちょい」
「は?」
「いいから」
少しだけ詰めさせる。
肩が触れるくらいの距離。
「……近くね?」
「いいの」
即答。
「……」
うっしーが少しだけ黙る。
でも、離れない。
⸻
「……あったか」
キヨがぽつりと言う。
「人の体温ってこんな違うんだ」
「大げさだな」
「大げさじゃないし」
少しだけ、体を預ける。
「……おい」
「ちょっとだけ」
「ちょっとじゃなくね」
「うるさい」
そのまま、肩に軽く寄りかかる。
拒否されないのを確認してから。
(……やば)
安心する。
びっくりするくらい。
「……キヨ」
「んー……」
「それ、癖になるぞ」
「もうなってる」
即答だった。
「……」
うっしーが言葉を失う。
⸻
「……ねえ」
「なに」
「もしさ」
少しだけ声が小さくなる。
「俺、ほんとに産むってなったら」
「うん」
「どうする?」
怖い質問。
でも、聞かずにはいられなかった。
少しの沈黙。
でも。
「変わんないよ」
うっしーは、すぐに答えた。
「……え」
「いるって言ったじゃん」
「……」
「キヨがどうするか決めるのはキヨだけど」
少しだけ、ゆっくり言う。
「そのあとも、普通に隣いる」
「……」
シンプルすぎる答え。
でも。
それが、一番欲しかった言葉だった。
「……バカ」
小さく呟く。
「なんで」
「優しすぎ」
「そうでもない」
「そうだよ」
少しだけ、顔を隠す。
涙は出てないけど、出そうだった。
⸻
そのまま、しばらく動かない。
静かな時間。
でも。
「……眠い」
キヨがぽつりと言う。
「寝ろよ」
「……ここで」
「ベッド行け」
「やだ」
「なんで」
「……ここがいい」
わがままみたいな言い方。
でも、素直な気持ちだった。
「……はぁ」
うっしーが小さくため息をつく。
「じゃあ好きにしろ」
完全に諦めた声。
⸻
そのまま、キヨはうっしーに寄りかかったまま目を閉じる。
「……うっしー」
「ん」
「どっか行くなよ」
半分寝ながら言う。
「行かねえよ」
即答。
「……ならいい」
それだけ言って、完全に力を抜く。
⸻
しばらくして。
寝息が、静かに聞こえてくる。
「……ほんとに寝た」
うっしーが小さく呟く。
肩にかかる重さ。
無防備な寝顔。
「……無防備すぎ」
苦笑しながらも、
そっと体勢を整えてやる。
起こさないように、ゆっくりと。
「……」
少しだけ、キヨの顔を見る。
安心しきった表情。
(……やばいな)
ぽつりと、心の中で思う。
「……これ、俺の方がダメかも」
小さく呟く。
⸻
その夜。
二人の距離は、もう“ただの他人”じゃなくなっていた。