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「お前は一体、何者なんだ?」
戻ると開口一番にギルマスがそう問いかけてくる。おそらく先ほどのゲングさんの治療の光景を見ての発言だろう。残り2人の冒険者たちも何か言いたげなこちらを目で見つめている。
「普通のEランク冒険者、って言っても信じてもらえないと思いますけど今はそれ以上の説明をする気はありません」
「そうか…、ではまた後日詳しく聞かせてもらうとしよう」
ギルマスは軽く微笑み、態勢を整える。
おそらくギルマスも状況をちゃんと分かっているようだ。
「おい、ゴブリン。そろそろ出てきたらどうだ?」
俺は壁が崩落して岩石が積みあがっている方に向かって声をかける。
ギルマスもそちらへと剣を構えて戦闘態勢を取る。
先ほどぶっ飛ばしてから奇妙なほどの静けさを見せていた魔物。おそらくギルマス以外の2人の男性冒険者、アレンさんとデニムさんは倒したのだと勘違いしているのだろうが、俺はもちろんだがギルマスも分かっているようだ。
あいつはまだ生きている、と。
俺とギルマスが戦闘態勢に入っているのを見て、アレンさんとデニムさんも慌てて戦闘態勢に入る。
「キキキキキッ、バレてたカ」
岩石の山から奇妙でふざけたような声が聞こえる。
その直後、大量の岩石が弾け飛び中から先ほどの魔物がピンピンした姿で現れる。
「ふぅ…、そこのお前なかなかやるナ。さっきのは結構痛かったゾ」
「そうか?その割には全然余裕そうだけどな」
俺は今のうちにこの魔物の鑑定を行う。この魔物に関しては全く事前情報がないし、それに正直あいつから直に感じる威圧感は想像以上にヤバい。
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種族:ゴブリン・超越種(イクシード) Lv.64
状態:憎悪の支配下
HP:7680 / 7680
MP:3890 / 3890
攻撃力:2560
防御力:2304
俊敏性:896
知力:85
運:20
称号:
種を越えし者 守護せし者 恨みし者
スキル:
体術Lv.7 気配遮断Lv.6 物理攻撃耐性Lv.7 魔法攻撃耐性Lv.5 ストレス耐性Lv.5 魔力操作Lv.6 火属性魔法Lv.3 土属性魔法Lv.5 威圧Lv.7 強化魔法Lv.4 縮地Lv.3 生魔変換
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何だこいつ、ゴブリン…じゃないのか?
ステータスは俺より低いけれど、厄介そうなスキルをたくさん所持しているな。何より効果の分からない称号やユニークスキルがあるのが不安要素なので非常に怖い。あとこの「憎悪の支配下」っていう状態は何なんだ?これもどんな効果を得ているのか全く分からないが、やはり警戒しておくに越したことはないな。
そして何より…
「超越種…?」
初めて聞く種族だけど、文字面からしてもヤバそうなのは分かる。
種を超えた種族…というところだろうが、そんな奴がヤバくない訳がない。
「何だって…?超越種だとっ?!」
俺のボソッ発した言葉に異様な反応を見せるギルマス。
その顔は驚愕と絶望を含んだゆがんだ表情をしていた。
「知ってるんですか?」
「ああ…、超越種っていうのは数十年に一度現れる、種族の限界を超えし者のことだ。最後に現れたとされているのは約80年前で、その時は誰も相手にならず、人類滅亡の危機にまで陥ったらしい。そして何とか、あの勇者様の手によってギリギリ封印することに成功したという本当に危険な者なのだ」
あの勇者様って、そんなに有名なのか?
まあそこは置いておいて、とりあえず目の前のこいつは人類滅亡級の最悪種族だということか。でも俺よりステータスは低いのだが何か隠し玉でもあるのだろうか?ギルマスが嘘を言っているはずもないから最大限の警戒をしないとだな。少なくとも自分よりも格下だと侮らず、俺のステータスを大幅に上回るほどの強敵だと認識しておこう。
「キキキキキッ!そうだ、オレは種族の限界を超えた存在ダ!!この力を手に入れたオレは最強ダ!!!ヒューマンどもはこのオレに蹂躙される道しかないんだヨ!!!!!」
ギルマスの言葉を聞いて、調子に乗ったゴブリン・イクシードは大きな声を上げて笑い出す。あいつが自分の強さに酔いしれているのを見ていると哀れな気持ちが湧いてくる。
強大な力を手に入れ慢心しきっているあいつは俺にとっていい反面教師になっているのだと思う。俺も女神様からもらったスキルや称号のおかげでチート級の力を手に入れているからな。
しかし、世界には上には上がいる。
俺は前世でそのことを痛いほど理解させられている。自分がどんなに上へと昇っていってもいつまでたっても自分より上手い人や強い人というのは現れるものだ。そこで井の中の蛙になってお山の大将を気取っているとどこかで痛い目を見ることも知っている。
もしかしたら俺もこのままいけば今の奴と同じようになっていたかもしれないな。
ここで改めて思い出すことが出来たことに関してだけはこいつに感謝しないといけないかもしれない。
「ゴブリン、慢心しているといつか足元をすくわれるぞ?お前が超越種だろうが何だろうが、俺はここからみんなを生きて帰す。それがゲングさんとの約束だからな」
「キキキキキッ!!ヒューマンごときがオレに説教だと?これは傑作だナ!!」
ゴブリン・イクシードは俺の言葉に腹を抱えて笑いだす。
どうやら完全に俺たちのことをなめきっているようだ。
「ユウト君、超越種相手に勝ち目があるのか?」
「ええ、もちろん。と言いたいですが僕も100%勝てる見込みはありませんよ」
俺は正直にギルマスへと伝える。
するとギルマスは少し驚いたような表情をしてこちらへと見つめてくる。
「勝てない、とは言わないのだな。それだけで十分だ!」
そういうとギルマスは気力を取り戻したかのように剣を構え直す。
その目は明らかに先ほどとは違って希望の光に満ちているように見えた。
「Eランクの僕の言うことを信じるんですか?」
あっさりと俺の言葉を受け入れてくれたことはありがたいのだが、なぜそんなにもすんなりと受け入れられるのか気になった。
「そうですよ、ギルマス!彼はまだEランクですよ」
「俺達でも敵わないのに勝てるはずないじゃないですか」
予想通りの反応を見せるアレンさんとデニムさん。
そうだよな、普通はこういう反応になるよな。
「ランクなんてのは冒険者としての過去の実績にしか過ぎんよ。実績と強さというのはまた別だ。それに先ほどの一撃、あれほどの一撃は普通のEランク冒険者では出せんよ。ユウト、君は強い。おそらく今ここにいる誰よりも。だからこそ、この絶望的な状況下において君は唯一の希望なのだ。その希望を信じない訳にはいかないだろ?」
ギルマスはニヤリと笑ってみせる。
その観察眼といい、柔軟な思考といい、本当に素晴らしい人だよ、ギルマスは。
俺の中でギルマスの株がさらに上がっていく。
絶対にここにいるみんな無事に帰すんだ!
俺はゲングさんとの約束をさらに強く強く噛み締める。
そのためには一番達成できる可能性が高い手段を取る必要がある。
そう、これが一番みんなが生きて帰る可能性が高い作戦…
「ギルマス、お願いがあります。…みんなを連れて逃げてください」