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ほんの数時間前に起きた、わたしとユウジと財前くんのことは小春ちゃんには言えずにいた。
財前くんの気持ちを誰かに言ってしまうは気が引けた。
でも今日ほどユウジに自分の気持ちを伝えたいと思ったことはなかった。
誤解をされたままも今の状態も嫌だった。
テニス部が終わるのを待って、みんなが部室から出て来る頃を見計らって部室の近くに移動した。
部室からは賑やかな声が響いていて、もちろんユウジの声は聞こえたけどいつもみたいな元気さはなかった。
それが自分の所為かもしれないと思うと悲しくなった。
「…先輩」
不意に部室のドアが開いて中から出てきたのはタイミングが良いのか悪いのか財前くんだった。
「ユウジ先輩待ちっすか?」
「あ、うん」
「…なら呼んできますわ」
「ありがとう」
「困らせてすいませんでした」
それだけ言って財前くんはまた部室に戻って行ってしまった。
他にも何か言いたげな顔をしていたけど、それに言及する前に財前くんの姿は見えなくなった。
再び部室のドアが開いて出てきたのはユウジだった。
わたしの心臓が今までにないくらい大きく跳ねた。
「何やか、何の用や」
「え、えと」
「用無いんやったら帰れ」
「…今日一緒帰ろ、」
ユウジの冷たい目を見たのは初めてで、うまく言葉が出なかった。
ユウジは分かった、ともうん、とも言わずに待っとけ、とだけ言い残して部室に戻る。
すぐにユウジは部室から出てきてわたしの元に来る。
「帰るで」
「うん」
2人で並んで歩くことなんて久々すぎて、たたでさえ緊張しているのに余計緊張してしまう。
足が少し震えているのが自分でもわかる。
ユウジもわたしも何も喋らないまま時間だけが過ぎていった。
そんな時、最初に口を開いたのはユウジだった。
「なあ、」
「うん」
「お前財前と付き合うてんの」
「違う、誤解だよ。だってわたしは、」
そこから先の言葉は喉につっかえて上手く発音できなくて、思わずあたしは立ち止まる。
「どないしたん」
「ユウジ、あのね、」
震える手をぎゅっと握ると、ユウジもそれを包み込むようにあたしの手を握ってくれた。
「わたしユウジが…、」
「おん」
「…すき」
ユウジはひどく驚いた顔をしてわたしを見る。
そしてわたしをぎゅうっと抱き締めた。
「俺も、めっちゃ好きや」
「気付くの遅くてごめんね、わたしほんとはずっと前からユウジが好きだった」
「俺振られる覚悟やってん、今日」
そう言うユウジの顔を見ると少し目に涙が滲んでいたけど、普段とは違う優しい顔だった。
初めて見るユウジの表情に改めて好きだと思った。
「ユウジ、好き」
「俺も好きや」