テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第十四話 言えないこと
その夜、いつもの時間にサイトを開いた。
今日は珍しく、相手からメッセージが来なかった。
彼女は少し待ってから、
『今日いない?』
と送った。
しばらくして、返信が届く。
『いる』
『いた』
『何それ(笑)』
『なんとなく』
『それ好きだね』
いつものやり取り。
けれど、今日はどこか違った。
相手の返事が短い。
『今日どうだった?』
『普通』
『また普通?』
『うん』
『なんかあった?』
少し間が空いた。
『……ちょっとだけ』
『そっか』
彼女は、それ以上聞かなかった。
この前のときと同じ。
話したくないことなら、無理に聞かない。
それが二人の間では、
少しずつ当たり前になっていた。
しばらく沈黙が続いたあと、
『ねえ』
と届く。
『なに?』
『なんで何も聞かないの?』
彼女は少し考えた。
『聞いてほしいなら聞くけど』
『そうじゃなくて』
『じゃあ、聞かない』
『……そっか』
それから、また少し沈黙。
やがて、
『ありがとう』
と届いた。
『何に?』
『聞かないでいてくれること』
彼女は画面を見つめた。
#溺愛
桜咲かな
974
桜咲かな
645
#百合
何かを聞かないことが、
相手にとっては優しさになることもある。
それを初めて知った気がした。
『いつか話したくなったら、そのとき聞くよ』
送信。
しばらくして、
『うん』
と返ってきた。
それ以上は何も言わなかった。
二人は別の話を始めた。
最近見た映画。
学校であったこと。
会ったときに食べたいもの。
少しずつ、いつもの空気に戻っていく。
けれど、その夜は一つだけ違った。
『俺さ』
突然、相手が言った。
『うん』
『人に自分のこと話すの、あんまり得意じゃないんだ』
彼女は画面を見た。
今まで何となく感じていたことだった。
『そうなんだ』
『うん』
『無理に話さなくていいよ』
『……ありがとう』
短い会話。
それだけだった。
でも、彼女には分かった。
今の言葉は、相手にとって簡単なものじゃなかった。
だからこそ、それ以上は聞かなかった。
『じゃあ、今日は私の話する』
『何?』
『今日ね、学校で――』
そこから、彼女は今日あったことを話した。
本当にくだらないこと。
でも、相手は笑ってくれた。
『それ面白い』
『でしょ?』
『見たかった』
『絶対笑うよ』
『たぶん』
そんなやり取りをしているうちに、
夜が深くなっていく。
最後に、
『今日は話せてよかった』
と届いた。
彼女は少し考えてから、
『私も』
と返した。
画面を閉じる。
何かを知ったわけじゃない。
相手の過去も知らない。
どうして
そんなに自分のことを話さないのかも分からない。
それでも――
少しだけ、相手の内側に触れられた気がした。
会う日まで、あと少し。
二人はまだ、
お互いについて、知らないことの方が多かった。
コメント
4件
ありがとうございます! めっちゃ嬉しいです! ほんとそうなんですよね! 楽しみにしててください!
第14話、めっちゃ良かったです…!「聞かないことが優しさになる」って、この二人の関係性がじんわり伝わってきました。相手が自分のこと話すの苦手って打ち明けたシーン、なんかグッときましたね。お互い知らないことだらけだけど、それでも少しずつ近づいてる感じがすごくリアルで、次が楽しみです!🔥