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【視点 赤羽日向】
照りつける太陽と澄んだ青い空。
そんな中でも分かるほど、キラキラとした色とりどりの星型を後方へ散らしながら進んでいる。
「それで、魔理沙……さん、人里はどういうところなの?」
箒に跨り、初めての空を飛びながら、若干の恐怖で前にいる魔理沙の肩をガッチリと掴んでいる。
「魔理沙でいいぜ! 人里はその名の通り人間が一番多く集まっているところだな! 市場として動いてるから人間以外にも妖怪とかもいるんだぜ」
『妖怪』という言葉に身体が強張る。魔理沙の肩を握る手にそれが現れていたのか、話し掛けてくる。
「大丈夫だと思うぜ! 霊夢からその札貰ってるだろ?」
博麗の巫女……霊夢から貰った幻想郷の住民の証、神社でよく見るような形の御札の事だ。これを持っている限りは、妖怪等から攻撃されることはないらしいが……。
「でも……これ持ってても、攻撃される事はあるんだね……」
そんな不安を消すように、魔理沙は後ろを振り向き、ニコっと笑いながら続ける。
「そん時は私が守ってやるから安心していいぜ!」
そんな会話をしていると、目の前には一軒家の集合地……まさしく里と呼ぶに相応しい。
その里の少し離れの草原に着地してから、歩きで向かう。
近づいてみると、江戸時代を彷彿させるような木造平屋が続いており、市場と呼ぶに相応しい程の賑やかさと人通りの多さ、街を通う人々の見た目も、学校で習うような江戸時代の人々の着物そのものだった。
「ここが人里だ! 霊夢から頼まれてたもん買いながら、見て回ろうぜ!」
魔理沙に連れられ買い物を続ける。里の中には様々な商店があり、衣服食料、薬品などの生活必需品から本など娯楽品まで揃えている。
あらかた買い終えた頃、後ろから魔理沙を呼び止める声が聞こえる。
「魔理沙! 珍しいじゃない、この時間に霊夢のところに行ってないだなんて」
振り返った次の瞬間、魔理沙は謎の人物から抱き締められていた。
正面からハグされた魔理沙は少しもがきながら、ようやく解放された口で叫ぶ。
「アリス! いきなり抱きつくのは勘弁してくれって言ってるだろ!?」
どうやら、魔理沙に抱き着いた人物はアリスというらしい。
人形のように整った顔立ちと細過ぎる体躯、着せ替え人形のような青のワンピースと赤のカチューシャを付けている。
「ごめんね? 久し振りに会うから嬉しくって!
でも酷いじゃない?! 最近全然会ってくれないし! 霊夢のところにばっかり行くし!」
今までの分と言わんばかりに、より一層強く抱きしめるアリス。
魔理沙は少し苦しそうにしながら、困った表情でアリスを宥める。
「悪かった、悪かったって! 今度どっかでキノコ狩りにでも行こうぜ!」
何故キノコ狩り、と思いながらアリスの方を見ると、目に見えて子供のように、キラキラした目で見始めたので恐らく正解なのだろう。
……ところで、俺の存在忘れられてない?
「あぁ、そうだ! アリスに紹介するぜ、外の世界から来て、幻想郷に住むことになった赤羽日向だ!」
置いてかれているのに気付いたのか、魔理沙が紹介してくれた。
アリスはこちらを見るなり先程とは違う、少し淀んだ様な目をしながら、返答をする。
「ふーん……よろしくね。
それより魔理沙、今度とは言わず今からお茶しない?」
空返事が過ぎる。全くと言っていい程、こちらに興味が無い……というわけでも無さそうな感じはするが。
「おいおい……お前、本当に私以外に興味ねぇのな。
それと私は、これからコイツに幻想郷を案内しないといけないからな! また今度遊ぼうぜ!」
魔理沙がアリスをなだめたその瞬間、俺は……全身を刺す悪寒に襲われた。
「仕方ないわね……約束よ? 次はいつにする?」
アリスは変わらぬ口調、変わらぬトーンで魔理沙と話すも、その眼は――変わらずこちらへ殺意を帯びて向けてきている。
魔理沙はアリスと交差する形で、まだ抱き合っているので見えてはいないのだろう。
「アリス、そろそろいいか? 離してくれぇ」
魔理沙はそう言いながら、無理やりアリスを引き剥がす。
途端にアリスの眼は先ほどのようにキラキラとしているものに戻っていた。
「そんじゃあ赤羽、行くぞ!
またなアリス! 詳しい予定は後で連絡するぜ!」
逃げるように、急ぎ足で魔理沙の箒に跨り空を駆ける。
ふと、下を見ると、表情や仕草は変わらずに、先程と同じように淀んだ眼でこちらを追い続けていた。
人里から少し離れた後、幻想郷中を回って案内された。
まずは地下間欠泉センターという、地底――旧地獄というところに繋がる場所を越え、魔法の森という魔力の密度が濃い森を抜け、さらにその奥……あるレンガ造の館に辿り着く。ここは紅魔館と言うらしい。
そこには吸血鬼の主が居るのだとか、悪い人では無いらしいが……心配だ。そこで偶然起きていたという門番から話を聞いたが、紅魔館にも外の世界の人間が来ていたのだという……。
次に、天狗や河童等の妖怪が住んでいるという妖怪の山を案内された。
妖怪がメインで住んでいるとは言え、若干の社会構成が出来ているらしく、人間を無闇矢鱈に襲うことは基本ないらしく、博麗の巫女の札の効力も強く浸透しているのだとか。
注意さえ聞けば基本向こうから手出ししてくることはないらしい。
そんな山を抜け頂上にある小さな神社へと辿り着く。
「おぉ! 魔理沙、久し振りね!」
紫髪の人物が声を掛ける、その声を聞いた魔理沙は箒をゆっくりと下降させ、境内に着陸する。
「久し振りだな! ちょっと今新しく入ってきた人間に幻想郷中を案内しててな!
そうだ、紹介するぜ外の世界から来た赤羽日向だ!
赤羽、紫髪のデカい方が加奈子で金髪のちっこい方が諏訪子だ、それと……あれ? 早苗は居ないのか?」
紹介された加奈子が少し不満を漏らしながら答えてくる。
「ほんと、これでも神なのに恐れずにいうなんてすごいわよね」
魔理沙は、「へへん!」と言いながらドヤ顔をするが、普通に考えて神様相手にその言い方をしたのはどうなんだ……?
「うん? その子も外から来た子なの? 1日に3人も居るだなんて、さすがに変じゃない?」
諏訪子が驚いたように話しかける。それを聞いた魔理沙も流石に驚いたのか、少し声が大きくなった。
「まじか!? 紅魔館にも外から来たやつが居るらしいぜ、今日だけで4人も来ているのか……。因みに、このデカい凹みも外から来たやつが原因なのか?」
境内に似つかわしくない、異常な大きなクレーターを見つめる。まるで小さい隕石でも落ちてきたような……それは、よく見れば中心付近に足跡のようなものがあった。
「それはどっちかと言うと、またあの天子が降ってきたからだね。天界にも外の世界の子が来たから住まわせるようにとかなんとか……」
諏訪子は、本殿の方でゴロゴロしながら事の経緯を説明してくれる。だがそれと同時に、少し頭を抱えて困惑しているようにも見える。
俺は先程言われていた、天子について質問する。
「あぁ、コイツが言ってる天子っていうのはこの妖怪の山のちょうど真上ぐらいにある、天界に済む天人の、比那名居天子ってやつのことだな! あいつもまた面白いやつでな! 今ちょうど地上に来てるのか」
少しワクワクしているような魔理沙。
それにしても、妖怪や神に天人まで居るとは……改めて色々な種族が居るのだと理解する。
一通り話を終え、博麗神社に帰る道中。
「ちょっと疲れてきたからあの辺で休もうぜ」
辺りも少し暗くなってきて居た頃、魔理沙が提案する。 一日中飛び回っていたため、疲れるのは当然だろう。
「私は、ここに居るから少し周りを見てきてもいいぜ!
上からばっかりで、地上からはあんまり見れなかっただろ?」
その言葉に甘え、少し離れて周囲を見て回る。
近くで這い寄る闇に気付かず。