テラーノベル
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第九話 這い寄る影 いつ沈んでもおかしくない程に赤に染まってきた空と、心の騒がしさを消すように、人の手がつけられていない自然が音を鳴らす。
「凄い、大自然だな……」
外の世界では見ることは叶わないと、そう思える程に美しく見え、少し楽しくなってきて、一通り森を探索し終えた頃。
「……あれ?帰り道どっちだっけ……」
気付けば、僅かに辺りを仄かに照らしていた空はとっくに昏くなっていた。
帰り道どころか、方角も分からない。
状況を理解した途端、焦りと恐怖が込み上げてきた。
美しく見えていた森がいつの間にか、出られないと思える程の深い闇に包まれている。
焦りは恐怖に、恐怖は混乱に、混乱は焦りとなって頭の中でぐるぐると回りだす。
正気が保てなくなるほど、今立っているのが地面なのか、空中なのか分からなって視界が歪んでいく。気付けば、力をなくしたように俺は地面に座り込んでいた。
「――――ッツ!」
突然、足から電気が流れたような痛みとなにかが滴る感覚で正気に戻る。
どこで拾ったのか、木の棒を無意識のうちに自分の足に刺していた。
痛みで思考も少しクリアになっていく。
ここで座り込むより、少しでも動いて出口を探した方がまだ希望はあるだろう。
重い足を無理やり動かして、立ち上がった。そんな時、
「おーい、お兄さん、人がいるところまで案内してあげるぞー?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、全身から嫌な汗が滲み出る。
この声は、最初に出会った妖怪の――ルーミア。
──気付けば足の痛みも忘れ走り出していた。
「逃げるなニンゲン!!」
チルノの声が聞こえ、氷の塊も飛んできた。
頼りの魔理沙は今は居ない上、森の中でどこに行けば良いのかも分からない。
ふと、霊夢から貰った札を思い出し、ルーミア達に見せる。
「ちょっと待って! 俺は霊夢からここに住んで良いって許可を貰ったんだ!」
札を認識した途端、飛んできた氷の塊は軌道を逸らし、二人とも動きを止めた。
攻撃をやめただけで、まだ俺を警戒しているように見える。
「……ほんとに霊夢から許可貰ったのかー?嘘だったら大罪じゃ済まないぞー」
ルーミアが少し離れたところから、疑うように札を見ている。
そうは言われても、俺は確かに霊夢からの御札を貰っているから、これ以外に証明する術を持ってない。
どうにかこのまま逃げれないか…………そう考えていると、しびれを切らしたようにチルノが騒ぎ出す。
「御札とか許可とかどうでもいいから! コイツは外の世界の人間!」
そう叫びながら、今までの比じゃない量の氷を生成して飛ばしてくる。
身を守るように、咄嗟に腕を前に出す。
すると、手のひらがじんわりと熱くなると同時にモザイクがかかったモノクロの映像が溢れる。
気付けば飛んできた氷はなくなっていて、周囲には焼け焦げたような匂いだけが残っていた。
「おまえ……なんだそれは」
ルーミアが驚いたような表情で問いかけてくるが、何が起きているのか分からない。
分かっているのは、頭に流れてきたモザイク気味のモノクロの映像と、手のひらから溢れた赤く揺れる何かに、異常なほどの嫌悪感を抱いていたことぐらいだ。
「いよいよ正体を現したな!」
チルノはそう言いながら、さっきと同じ……いやそれ以上の氷を飛ばしてくる。
試しに腕を前に突き出してみても、そう都合良くは起こらない。
もうダメかと思い地面に座り込んだ。その瞬間、霊夢から貰った御札が、辺り一帯を照らし、目の前に霊夢が現れる。
「札が反応してるから来てみれば、またアンタ達?」
呆れたように肩を上下に大きく揺らす、しかしその目には明確な敵意を込めていて、俺のほうを微塵も気にせずにルーミア達を睨みつけている。
ルーミアは少し後退りして、光を飲み込む闇を包むようにしてこちらに飛ばしてくる。
対する霊夢は、どこから取り出したのか数枚の札を持ち、と赤と白色の陰陽玉を隣に浮かべている。そして独り言のように呟く。
『仮符【架空封印】』
数枚の札が幾多にも増え、チルノとルーミアを囲むように球形になった。次の瞬間、爆発が起こりその余波に飛ばされそうになる。
「……え、死ん……だ?」
爆風が収まり、前を見るとボロボロになって地面に倒れ込んでいるチルノ達がいた。
「コイツ等妖精や妖怪ってのはそう簡単には死なないわよ。死んだとしても一定期間経てばまた戻って来ちゃうし」
霊夢はそう言いながらルーミア達に近付く。
ルーミア達の方もよろけながら立ち上がるが、敵意はもう無いようだ。
「一応言っておくけど、この子に御札を渡したのは私。
だから次この子に手を出したら容赦はしないわよ」
敵意がないことを認めたのか、少し優しい口調で説明をする。
ルーミアは「仕方ないなー」と言いながら、納得がいかないチルノを連れて何処かへ行ってしまった。
「さて、言うのが遅くなっちゃったけど助けに来たわよ。
というか魔理沙はどこに行ったのよ」
『助けに来た』という言葉に謎の嫌悪感を覚える。心の奥底からヘドロのような何かが溢れてくるのを静かに飲み込み、抑える。何故ここまで嫌悪感があるのかは分からない、けど今は助けてもらってる立場だ、何かを言う必要はない。
「ありがとう……魔理沙は『少し休んでるから周りを探索してきて良いぞ』って言ってたから気になったところを見てたらこんなことになっちゃって……」
霊夢は「あんのアホ……」と手を額に当てながら少し俯く。
そうしているうちに、聞き慣れたキラキラ音が近付いてくる。
「おーい赤羽〜! 大丈夫かー!?」
目の前に着陸した魔理沙は服が少しボロボロになりながらも、心配そうにこちらを見ている。後ろから鬼のような形相で近付いてくる霊夢に気づかずに。
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