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pm19:00
俺は物凄く乗り気じゃないまま風磨くんに指定された居酒屋へと向かう
ああ、とんでもなく足取りが…重い
まだ居酒屋って言うだけで堅苦しさはなかった訳だが着いてみるととてつもなく綺麗げな門構え…それはまるで料亭のような…
え、ええ…?
「俺…間違えてないよな」
声を出し何度も確認したけどどう見てもここだ
恐る恐る引き戸を引くと
「若井様ですね、どうぞ」
と、直ぐに案内された
中も居酒屋という名には程遠い店内に俺は緊張しつつ一番奥の座敷に行くとそこには…
「若井くん、遅いなあ」
と胡座を組みものすごく待ちわびていたような感じで待っていた風磨くんがいた
風磨くんは白のスェットを纏いちょっと機嫌の悪そうな顔をしている
俺は早めに家を出たつもりだったがオロオロして5分程遅れてしまったようだ
「遅れてすんません…」
小声で申し訳なさそうに言うと
「早くおいでよ」
と風磨くんは手招きをし俺に言う
「失礼しまーす…」
と、俺は俯きつつ座敷に上がり正座をし固まる
風磨くんは頬に手を置き仏頂面のまま俺をじぃっと見ている
うう…居心地悪い…
「ねえ」
「え?」
「ビールでいい?」
「あ、はい…」
風磨くんはスタッフを呼ぶとビールを注文した
瓶ビールとグラスがくると風磨くんは俺のグラスにビールを注いだ
そして俺に向き直る
「この前の事さ、迷惑かけちゃって本当にごめんね」
「え、ああ…」
元貴を誘拐したやつだな
あれからちゃんと話をする機会なかったもんな
(俺が避けてただけかも)
「悪気はなかったんだよね…ちょっと悪ふざけがすぎた」
そう言って風磨くんは俺に頭を下げた
こんな俺にもこんなチョー有名人が頭を下げてくれるなんて…びっくりだ
もしかして元貴の言う通りいい人なのかもしれない
「でさ」
と、頭を上げるとぱっと表情を変えた
「元貴くんとどうやって付き合ったの?」
「え、え…っと」
弾丸のように話かけられ俺は戸惑う
話すと長くなるのだがいいのか
「元貴くんをモノにできるなんていいよね」
「あの…」
「え?」
俺はモノって言葉がずっと気になっていた
「元貴はモノじゃなくって俺の大事な人なんで…モノじゃないから」
俺はつい意地になって言ってしまったものの我に返り
「あ…じゃない、です」
と言うと風磨くんにキョトンとされすぐに大笑いされた
「あー、ごめん…ここ笑うとこじゃなかったなあ」
お腹を抑えて大笑いしている風磨くんはすっと表情を変え頬に手をつくと俺を見つめる
「君は元貴くんを本当に愛してるんだね」
うわ…これが本物の俳優か…
なんてキラキラしてるんだ
俺は一瞬にして度肝を抜かれた
***
pm20:30
机には懐石料理がどんどん運ばれ舌鼓を打つ
うっまー
見た目も良ければ味も最高にいい
ビールもいい感じに進み俺はどんどんほろ酔い気分になる
頭がふわふわしてきてなんだか楽しくなってきた
「若井くんさ元貴くんとセックスした?」
と風磨くんの超ストレートな問いに俺はビールを吹きそうになった
「え、えーっ…とそりゃもう…」
風磨くんは直ぐに察してくれた様でふーん、と小声で言う
俺はビールのグラスに口をつける…と
「元貴くん凄く感度良さそうだもんね」
その一言で俺は遂に吹いた
風磨くんはそんな俺の姿を見て大笑いする
ふぁあ…
風磨くんのこういうところ元貴似てるな…
あ、今度元貴と一緒にここに来たいな
ここ俺でも予約取れっかなー
元貴なら絶対笑顔で食ってくれる思う
元貴に…会いたいな
そう思うと急に想いが止められなくなってしまった
「ちょっとトイレ行きまっす」
と風磨くんに一言言ってトイレへ行く
俺は直ぐにスマホを操作し意気揚々と元貴に電話する
だが何度かコールするが元貴は全然出なかった
あーあ、忙しいか…
声…聞きたかったなあ
はあ…
なんだか急に寂しい気分になり泣きそうになる
きっといつもよりアルコール摂りすぎだからかもしれない
と、トイレ…!
アルコールはトイレを近くする
トイレに駆け込み俺は用だけたし諦めて席に戻る事にした
ポケットに入れたはずのスマホがそこに落ちた事にも気づかずに…
***
pm21:30
結局風磨くんとはたわいもない話をして終わった
お互いのグループの事とか業界の事とか元貴の事とか、だ(愚痴も含む)
酒の勢いもあって結構盛り上がった
元貴の言う通りだ
風磨くんはすげーいい人だった
「ねえ、若井くんLINEの交換しようよ」
え、俺友達少ないし凄い嬉しいんだけど
そこで風磨くんがそう提案してくれた時に初めてスマホが無い事に気づく
え、え?
俺どこやったんだ?
「どうしたの?」
「え…あれ…?」
身の回りを探しても一向に見つかる気配がない
少し冷静になって記憶を巻き戻す…
最後にスマホを触ったのはいつだったか…
あ…そうだ、トイレ…!
風磨くんを差し置いて直ぐにトイレに駆け込んで必死に探すが見つからない
え、まじかよ…無くした?
やべ…どーしよう
とふと…ゴミ箱が気になりそこを覗いてみるとスマホがすっぽり入っていた
うあー良かったぁぁー
なんであんなとこにあったんだろう
そう思いつつスマホを覗くと元貴からの着信の表示があった
時間はかれこれ1時間も経っていた
それって丁度俺が電話した頃じゃん
どうやら元貴は直ぐにかけ直してくれたようだ
慌てて電話をかけるがなかなか出ない
あれ…これってもしかしてすれ違いってやつじゃね
片思いみたいでまた切ない気持ちになる
だが切ろうとした瞬間に奇跡的に繋がると俺は声をかけた
「元貴?悪い!全然気が付かなかった!」
直ぐに返答はない
でも後ろで微かに音を感じる
違和感を感じたもののちょっとしていつもの聞き慣れた声がした
『ああ、別に…いいよ…』
ほっとした
元貴の声だ…
「風磨くんとすっげー話したけどさ、いい人だった」
また直ぐに返答はないもののワンクッション置いてちゃんと声は返ってくる
『だから言ったじゃん…いい人だって…』
俺は1人でうんうんと頷き
「元貴の言う通りだった」
と言ったところで
『もう…切る…』
そう言うと急に電話が切れた
「え、元貴…?」
なんか素っ気ない感じが妙に気になる
そして同時に胸のざわつきがする
傍に誰か…いた?
かけ直したが今度は出ない
それから何度もかけ直したけど元貴は電話に出なかった
***
翌日俺は不安な気持ちを残しつつスタジオに入る
結局あれから元貴からかけ直して来ることはなかった
こんな事…今までなかった
そっと入ると そこにはりょうちゃんと元貴がいつもと変わらず和気あいあいと喋っていた
何故か元貴の姿を見て俺は一気に緊張した
なんでこんな気持ちになるんだ…
俺が戸惑っているとりょうちゃんが先に俺に気づき
「おはようぅ」
といつものノリで言う
元貴も俺に気付くと振り返りいつも通りのダラっとした服装に黒縁メガネでいつもの表情で
「おはよ」
と言う
変わらないいつもの元貴で安心した
でも昨晩の電話の向こうの元貴は…
俺はそっと元貴のとこに行くと
「昨日さ…電話ん時…」
って言いかけた所で
「あー、あの時作業中だったからさ… ごめん」
とあっさり言われたものの俺は何故だがしっくりこない
作業中…?
あれが作業中?
いや、もっとなんか…こう…嫌な感じがあったんだけど…
「元貴…あの時…」
「じゃ俺行くわ」
誰かと一緒にいた?
そう俺が言いかけたとこで遮られた
元貴はそう言うと急いで帰る準備を始める
なんだか…俺を避けている感じがした
「ちょっとだけ寄っておきたかっただけだから」
ちょっと待てって
俺は聞きたい事が山の様にある
言いたいことだって沢山ある
だけど…俺は元貴を引き止められなかった
何故かって…
これ以上あの時のことを聞いてはいけない気がしたからだ
複雑な気持ちで何も言えずにいると元貴は俺に視線を合わせた
「若井…ばいばい」
元貴はいつもの感じでそう言うと俺の横を擦り抜け出て行った
何故だろう、俺の胸がきゅっとなる
俺は…俺は…元貴が何処か遠くにに行ってしまうような気がして苦しくなってしまった
20250119