テラーノベル
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滉斗がいつものように組の屋敷に足を踏み入れると、廊下ですれ違う組員たちが、どこか浮かない顔をしていることに気づいた。
彼らはみな口を噤んでいて、いつもとは違う緊張感が屋敷全体を覆っている。
「どうしたんですか、皆さん?」
滉斗が尋ねると、一人の組員が、困惑したような表情で答えた。
「いや…若頭が、また…」
その言葉に、他の組員たちも辛そうに顔を歪める。
「昨日の夜から、ずっと部屋に籠ってらっしゃるんです。誰とも口を聞いてくれなくて…」
「俺たちには、そっとしておくことしか出来なくて…」
彼らの言葉に、滉斗は背筋が冷たくなるのを感じた。ああ、これか。以前側近の男が言っていた、元貴が定期的に襲われるという、底なしの孤独。
組員たちは、そんな滉斗の表情を見て、どこか希望を宿した眼差しで言った。
「若頭は、あんたには心を許していらっしゃる。…もしよろしければ、顔を見てきてはいただけませんか」
「はい…」
滉斗は、彼らの切実な願いに応えるように、頷いた。
廊下を歩き、元貴の部屋の前に辿り着く。いつもなら襖越しに笑い声や話し声が聞こえてくるのに、今はただ静寂が広がっている。滉斗は、その静けさが、元貴の抱える孤独の深さを物語っているようで、胸が締め付けられる思いだった。
(元貴…)
戸惑いながらも、滉斗は、恐る恐る襖に手をかけ、そっと横に開いた。
部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、肌にまとわりつくような、重苦しい空気が滉斗を包み込んだ。
それは、いつもの穏やかな部屋とは全く違う、息が詰まるような雰囲気だった。滉斗は、その空気に少し圧倒されながらも、ゆっくりと部屋の奥へと足を進める。
部屋の奥、窓の外を背にするようにして、元貴は畳の上に座り込んでいた。いつもの袴ではなく、ラフな浴衣を着て、膝を抱えている。いつもはピンと伸びているはずの背中は丸まり、その肩はどこか震えているように見えた。
元貴の姿を見つけ、滉斗はすぐに元貴のもとに駆け寄った。しかし、その手前でふと足が止まる。
そっとしておいた方がいいのか、それとも傍にいてあげた方がいいのか、分からない。
滉斗は、ひとまず元貴の真正面にしゃがみ込んだ。そして、震える手で、元貴の髪にそっと触れた。
元貴の髪は、いつもより柔らかく、熱を持っていた。滉斗の指先が頬に触れると、元貴の体がピクリと小さく反応した。
しかし、それ以上は何の動きも見せない。滉斗は、元貴を変に刺激しないように、ただただ丁寧に、優しく接した。
「…俺、ここに居ていい?」
滉斗が、優しく問いかける。その声は、重苦しい空気に吸い込まれ、か細く響いた。
すると、元貴の光を失っていた瞳が、ほんの少しだけ揺れた。
そしてゆっくりと、ほんの僅かに顔を上げる。その反応は、言葉にはならないけれど、確かに元貴が滉斗の存在を求めているように感じられた。
滉斗は、その小さな反応に安堵し、静かに元貴の隣に座り込んだ。そして、ただ隣にいる。
それだけで十分だと、今はそう思った。
どれくらいの時間が経っただろうか。滉斗が、ただ静かに隣に座っていると、元貴の指が、小さく、滉斗の着ているTシャツを握っていることに気がついた。
強く握りしめるわけでもなく、ただ、しがみつくように。その小さな仕草に、滉斗は少し安心したように微笑んだ。
やがて、元貴の体がまるで氷が溶けるように少しずつ滉斗の方に寄ってきた。滉斗が、身じろぎ一つせず、その全てを受け止める。
元貴はゆっくりと、滉斗の肩に頭を乗せた。
元貴は、滉斗の肩に頭を乗せたまま、しばらく動かなかった。滉斗も、ただ黙って元貴の重みをじっと感じていた。二人の間に、静かで温かい時間が流れる。
やがて、元貴がゆっくりと顔を上げた。その目は、まだ少し淀んでいるけれど、さっきまでの絶望的な輝きのなさは消え、滉斗の顔をしっかりと見つめている。
「ごめん…滉斗」
元貴の声は、掠れていて、まるで何日も言葉を発していなかったかのようだった。
「僕、時々…こうなるの。一人になりたいけど、本当は一人になりたくなくて…誰かに傍にいてほしいけど、どうせまた…いつか、いなくなってしまうんじゃないかって…そう考えると、全部嫌になって…」
元貴の言葉は途切れ途切れだったが、滉斗にはその意味が痛いほど分かった。側近の男が言っていた、元貴の根深い孤独と、見捨てられることへの恐怖。
「この世界では、誰もが裏切りを疑ってる。いつか、信頼していた人間に裏切られるんじゃないかって。…僕の周りには、沢山人がいる。でも、それは若頭だから。僕自身を見てくれている人なんて、いないって…思う」
元貴は、少しだけ自嘲気味に笑った。その笑顔は、あまりにも寂しげで、滉斗の胸が締め付けられる。
「でも…滉斗は違う?君は、僕が若頭だからじゃなくて、ただの元貴だから、傍にいてくれる。…君は、僕から離れてかない…?」
元貴の瞳が、僅かに揺れている。まるで、子供が親に、明日も傍にいてくれるか尋ねるかのような、純粋で、切実な問いだった。
滉斗は、元貴のその言葉に、胸の奥から熱いものがこみ上げてくるのを感じた。元貴を抱きしめる腕に、自然と力がこもる。
「元貴」
滉斗は、元貴の頬に両手を添え、涙で濡れたその瞳を、真っ直ぐに見つめ返した。
「俺は、元貴が若頭だからじゃなくて…元貴だから、ここにいるよ。」
滉斗は、元貴の不安を、その言葉の全てを受け止めるように、力強く言い切った。
「…もう、大丈夫。俺が、元貴を一人にしない。だから、もう二度と、こんな顔しないで」
その言葉は、滉斗自身の心に、そして、元貴の心にも、深く深く響いた。
滉斗は、元貴の顔をそっと引き寄せ、自分の胸に抱きしめた。
「俺がそばにいるから。…もう、何も心配しないでいい」
滉斗の温かく力強い抱擁に、元貴の体から、全ての緊張が溶け出した。元貴は、まるで子供のように滉斗にしがみつくと、嗚咽を漏らし始めた。その涙は、これまでの寂しさや不安、そして、滉斗という存在を見つけた安堵の感情が、一気に溢れ出したかのようだった。
滉斗は、ただ黙って、元貴の背中を優しく撫で続けた。二人は、静かに、そして確かな絆を育んでいた。
しばらくの間、元貴は滉斗の胸の中で泣き続けていた。滉斗は、ただ黙って元貴を抱きしめ、彼の背中を優しく、一定のリズムで撫でていた。
やがて、元貴の嗚咽が少しずつ、穏やかな寝息に変わっていく。
滉斗は、静かに元貴の顔を覗き込んだ。
元貴の目元は赤く腫れているけれど、その表情は、いつもの悪戯っぽい笑顔でも、若頭としての威厳を纏った顔でもなく、ただ安らかで、穏やかだった。
まるで、長年探し求めていた場所にようやく辿り着き、心から安心して眠っている子供のようだった。
滉斗は、元貴を起こさないよう、ゆっくりと、彼を抱きかかえるようにして、横に寝かせた。元貴は、わずかに身じろぎしたものの、目を覚ますことはなかった。
滉斗は、元貴の顔にかかる前髪をそっと払いのけ、額に汗が滲んでいるのを見て、静かに微笑んだ。その顔には、元貴を一人にしないと誓った、強い決意と深い愛おしさが浮かんでいた。
滉斗は元貴が安らかに眠れるよう、彼のそばに座り、ただ、静かにその寝顔を見つめていた。
まるで、二人の間に流れるこの静かな時間が、永遠に続いてほしいと願っているかのように。
早く付き合えよ……😭
コメント
5件
ああああ、、、あの、、、 好きすぎます、、、、、、、 今一気見してきたんですけど えっと、、にやけとまんなくて、、、 もうちょっと、、、やばいです、、 2人ともピュアな感じの中すこしomrさんのほうが大人の色気を漂わせている、、、けれどやっぱり繊細な部分が愛おしくて、、、もう最高です すきです ありがとうございますっっっ!
もう、付き合っちゃえ。絶対お似合いだべ。
キスしちゃえよ👈🏻👈🏻