…お昼時。
結局、星導に声を掛けることができたのは昼休みに入ってからだった。
1限目、2限目、3限目…全部クラスの奴らに囲まれて俺の入る隙なんてどこにもなかった。
「なぁ、昼、一緒に食わね?」
「え、あぁ…別にいいですけど」
何だコイツ。みたいな顔をされた気がする…まあ、そうなるだろうなとは思ったけど。
「購買行くけど、お前弁当持ってる?」
「いや、俺も購買派です」
「まじ?んじゃ早く行かないと売り切れるな」
俺は小走りで購買へ向かった。星導は表情一つ変えなかった、つまらなそうな顔…って言えばいいのか、何を考えてるのか全然わからなかった。
無事に目当ての物を買えた。俺はそのまま人気のない校舎内の階段に、星導を連れて来た。そして階段に腰をかける。
「うわ、静か。さっきの騒がしさが嘘みたい」
「ここ俺のお気に入りの場所、次からここに来ればいいよ」
「そうしようかな……と言うか、俺まだ君の名前教えられてない気がするんですけど」
あ、と声が出た。1番大事なことを忘れていた、自分の名前を名乗ること。
「ごめん、めっちゃ忘れてた。俺、小柳ロウ」
「小柳くん、やっと名前がわかったー…もー、一瞬俺が君の名前を忘れたのかと思ったんですよ」
午前中の印象とは全く違う、あんまり喋らないやつだと思ってた。でもいざ喋り始めると、ポンポン言葉が出てくるし、表情もコロコロ変わる。何を考えてるかわからない、なんて嘘だったかのようで、笑ったり驚いたり…ギャップみたいなのを感じた、気がする…。
「…お前、普通に笑うんだな」
「え……何その口説きみたいな言い方…、俺だって普通の人間だし、笑うに決まってるじゃないですか」
「最初は無愛想なやつかと思ってたんだけど、全然そんなことなかったわ」
「どっからその印象ついたの??」
ずっと駄弁っていたせいで、せっかく買った飯のことなんて忘れかけていた。
ふとスマホの時計を見ると、もう昼休みが終わる頃で、やべぇ、と声を出してしまった。
「え、うそもうそんな時間経ったんですか??」
「みたいだな、全然食ってない、やっば…んぐっ…」
俺は手に持っていたパンを口に詰め込んだ。案の定口の中の水分は持っていかれるし全然噛みきれない。
「ちょっ、小柳くん?!その食べ方最悪窒息しません!?」
焦った様子で俺にそう言った。すると自分で買った飲み物を俺に渡してきた。これで飲み込んで、って言って、俺に。
「ん、ぐ、もご……」
「食べ終わってから喋ってください!!」
飲み物を受け取ってちょっとずつ口の中のパンを流し込んだ。…食べ終わる前の俺の顔は、多分パンパンだったろうな。星導がちょっとだけクスクスしてたのが見えてたから。
「……はぁ゙〜〜っ……、サンキュ、星導…」
「そんな急に詰め込まなくても、あと数分はあったんですからゆっくり食べればよかったのに」
その通りだな、なんて思いながら俺は立ち上がる。
「ここに誰かを連れてきたの、お前が初めてかも」
「へぇ、ぼっちだったんですか?」
「…お前の言葉妙に棘あるよなぁ??」
「アハハー、なんのことだろう」
俺は少しだけカチンときた。けど、心を開いてくれたような気がして憎めなかった。
「ここ、誰にも教えんなよ。俺の…唯一の居場所だから」
校舎内の階段だから、声はもちろんその場所に響く。だが他の生徒の声は全くと言っていいほど聞こえない。さっきも言った通り、人気の少ない場所だった。用事がある奴らだけがここを通る程度で、昼時は誰も通らない。
星導が来るまでは、つまらない授業を終えたあと、すぐここに来てた。教室に入り浸るのが嫌で、毎日昼休みはここで時間を潰してた。パンを買って、それを黙々と食べて、食べ終わったらスマホ見ながら時間を潰して…心を休めるには、ここに来るのが1番だった。
「その唯一の居場所に、俺を呼んでよかったんですか?」
「…んー、まあな。お前はなんか、信用できる」
「なにそれ。」
星導は笑った。ただ、笑っただけなのに、俺の心が揺れた。
出会ったばっかのやつなのに、どうしてこんな目を奪われるのか、心を掴まれるような感覚になるのか、今、ようやくわかった。
俺は、コイツに一目惚れしたんだ。
コメント
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キャラクターの解像度が凄い…😭 てぇてぇお話ありがとうございます!