テラーノベル
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日本に暗く深い穴の中に放り込まれてから、どれくらい経ったのかも分からない。
一体何時まで、この闇の中を1人で落ち続け無ければならないのだろうかと、ほんの少しだけ心細さと孤独感を覚え始めた時に。
なんの前触れもなく、それは突然訪れた。
背中に当たるゴツゴツとした冷たいざらついた触感。
「生きてる…」
衝撃なんてまるで無かった。
本当に瞬きをした瞬間に、一気に周りの景色が本来の色を取り戻したかのように明るくなる。
「ここどこだ…?」
日帝は、今まで自分がいたところとは全く異なる場所で、大の字で寝転がっていた。
顔を左右に動かしても、目に入ってくるのは冴え渡る青空と、レンガ造りの建物のみ。
「しかも、いつの間にか服装まで変わっているんだが」
着替えた覚えもないのに、服装まで変わってしまっている。
彼女の服装は、丸い襟足の付いた水色のワンピースに、フリルが縁取っている白いエプロン。
膝まである水色と白の縞模様のハイソックス。
さながら、同盟を結んでいた時に大英帝国から読ませてもらった、不思議の国のアリスの主人公のような格好をしている。
「本当にわけが分からない…。
しかも、連れて来た張本人すら居ないし…」
「女性が、こんな所にいつまでも寝転んでいると風邪ひきますよ?」
この場にいると思っていなかった声が聞こえた。
そして、突然見慣れた顔が覗き込んで来た。
ゴッと重い音がして、額にじんわりと鈍い痛みが広がっていく。
「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
「い”…ッたぁっ!
ちょっと、なんで突然起き上がるんですかっ!!」
日帝は、余りにも驚愕的すぎて勢い良く起き上がって頭突きを構してしまった。
「〜ッなんで、お前までここに…!
大英帝国!!」
2人してしゃがみながら、額に手を当てて痛みに耐えている姿は、周りからしたら嘸かし滑稽に見えるだろう。
良かった、大英帝国と自分の2人きりで。
この光景を目撃した者がいれば、そいつの息の根を止めなければならないところだった。
「私も気づいたら、いつの間にかここに居たんですよ。
自室で紅茶を飲んでいたはずなんですが」
「お前も…」
彼も知らないうちに、この奇妙な世界に迷い込んでしまったようだ。
自分だけかと思っていたが、日本や大英帝国までいるとなると、他にもいるのかもしれない。
額の痛みがお互い治まったところで、体勢を立て直して向き直る。
「じゃあ、大英帝国もここがなんなのか分からないのか。」
「いえ、そういう訳ではないですね。
あれ、案内人は日本さんですよね?
彼からなにか説明は受けなかったんですか?」
日本、その名前を聞いて日帝の顔に険しさと鋭さが増していく。
何も聞かされず、無理矢理知らない土地に連れて来られて、後を着いて来てくれるのかと思っていたら、真逆のそのまま放置。
本人は何処にいるのかすらも不明だ。
理不尽で身勝手な行動に、今更怒りがふつふつと湧いてきた。
日帝、死んだ目をしながら拳を強く握り込む。
「あ、はい。
何も説明されなかったんですね、
まぁ、彼も横暴上司に振り回されて多忙な日々を送ってますから。」
日帝の様子を見て、大体のことを察した大英帝国が日本のフォローに回る。
「説明がされていないなら、代わりに私が説明いたします。
何も知らないままだと、この世界は少し危険過ぎますので」
大英帝国の雰囲気が変わった。
今まで緩んでいた空気感が、彼の態度で一気に張り詰めたものに変わる。
大英帝国が姿勢を伸ばし、左手を腰の後ろに回す。
頭を少し下げて、右手を胸元に添えた。
「ようこそ、日帝さん
銃弾飛び交う不思議な世界へ」
「私たちは、貴女を心の底から歓迎いたします。」
* * * * * * * * * * * * * * *
ここはとある女性向け恋愛ゲームの世界
主人公は日帝
元の世界に戻りたければ、ゲームに参加してクリアしなければならない。
今はまだゲームは始まっていない。
ゲームをクリアするための条件はただ1つ
攻略対象を誰か1人選んで攻略すること。
※攻略対象は決められているので、誰彼構わず攻略しても戻れる訳ではない。
大英帝国の役は時計屋
日本の役は白ウサギ兼案内人
* * * * * * * * * * * * * * *
上記は、大英帝国から受けた説明を簡単に要約したものである。
他にも多岐に渡って細かくルールが決められているが、長くなってしまうのでここでは省略させて頂く。
「攻略?攻略ってなんだ。
侵攻すればいいのか。
それなら得意だ!」
「断じて違います、時代錯誤なパワープレイやめてください。
女性向けの恋愛ゲームだって言ったばかりでしょ。」
「なんだ、違うのか。
じゃあ、なにをすればいい?」
「会いに行けばいいんですよ」
日帝は少し首を傾げた。
もっと、難易度の高い条件を提示されると思っていただけに、対象に会いに行くだけなんてそれだけでいいのかと内心拍子抜けしてしまった。
「ただ選択肢を間違えると最悪死にます。」
「なんでだよ」
全っ然、簡単じゃなかったではないか。
何故勝手にゲームに参加させられた挙句、クリア出来なかったら命を落とさなければならないのか。
「ストーリー上避けては通れないらしいです。」
こんな不条理が罷り通っていいのだろうか。
いいわけがない。しかも、回避ルートさえ存在しないなんて。
…まぁ、良いだろう。
これは夢なのだから。
夢の中で死んでも現実には影響しない。
日帝はそう割り切ることにした。
夢ならばいつか目が覚めそうではある。
だが、こんなメルヘンな自分らしくない格好はずっとしたくないし、早く戻れる可能性があるならそれに越したことはない。
あとは単純にゲームに負ける(死ぬ)のは癪だ。
「分かった、ゲームに参加して対象相手に会いに行けばいいんだな。
それならさっさと始めるぞ、時間が勿体ない。」
日帝は腹を括り大英帝国を見上げた。
ゲームの開始を促す。
大英帝国は、彼女の言葉に目を細め綺麗な笑みを浮かべると、顔をグッと近づけてきた。
「ッおい、英帝。
ちかすぎる、少し離れろ」
戸惑いに気づかれないように、少し強めの口調で忠告し、胸を押して牽制するが全く応えた様子はない。
どころか、彼は更に顔を近付けてくる。
左手には何処から出したのか、液体の入ったちいさな小瓶を持っている。
中身は透明でなんなのかは判別がつかない。
「さぁ、ゲームを始めましょう」
大英帝国が、小瓶の中身を一気煽る。
空いた右手が日帝の後頭部に回った。
やわらかく頭を抱え込む。
唇が触れる、ほんの寸前、彼の吐息が熱を含んで頬にかかる。
「待っ…!」
言いかけた瞬間、声ごと塞がれた。
逃げようとしても、後頭部に回る手が逃げ道を完全に封じている。
優しいようで、抵抗させる気はない少し強引な口づけ。
「っん……」
冷たい液体が喉奥へと流れ込む。
口移し。そう理解した時にはもう、全て飲み込んでいた。
息を止めたまま瞬きをした時、ふっと唇が離れた。
余韻のように残る温もりと、喉奥に微かに残る冷たさ。
呼吸を整える暇もなく、彼は至近距離で怪しく笑った。
「これで、ゲームの幕は上がりました。
生きるか、死ぬか。
戻るか、戻らないかは全て貴女次第です。」
世界観の説明
・時計は存在するが時間の概念は無い。
朝→夜→昼などもあるし、ずっと一定の時間帯の時もある。
・この世界の住人は、役持ちと役無しで別れる。
区別の付け方は簡単。
攻略対象は役持ちのみ。
・この世界は、四季が全て同時に存在。
それぞれに領土が割り当てられて、領主が全てを管轄してる。
・日帝以外は、事前にゲームの概要やルールが刷り込まれてる。
コメント
2件
ゥグッ神作だ〜バタッ
不憫やね日帝さん…笑 大英そこどけあたしが日帝さんのワンピース姿見るんだよオイコラ🔪