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古流斬
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#鬱展開
Mist-404
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<<仕事前のルーティーン>>
家にいると、一本の電話が入った。
「……じゃあ2時に、いつものスタバでいい?」
「はい!」
という返事とは裏腹に、心は重い。
(行けよ。こんな長期案件、逃したら次はないぞ。それに、自分で“開拓者”側を選んだんだろ?)
最近うるさいなぁ。
仕方なく僕は面談用のジャケットを羽織った。
「まだ時間はあるな…。」
モンシナの効果が切れかけている。そろそろ飲まないと。
あれなしでこんな生活は、…まあ無理だな。
ポケットから“スクロール”を取り出し、右手のスナップで画面を展開する。
(自販機)
マップ上にいくつかピンが立った。
指先のすぐそばに、仙台城のピンが立っていた。
「行くか」
…いや、念のため現地の“LIVE”を確認する。
「……よし。変なのはいない、と。」
仙台城のページをタップした。
途端に背中を氷風が吹き抜ける。
あ
……という間に、僕は仙台城にいた。
「おっとぉ!!」
足の再生がわずかに遅れ、転びそうになる。
僕は体勢を立て直し、自販機を探した。
「…あった」
“モンシナ”――モンスターシナジー。
値段を見て、一瞬躊躇う。
でも、飲まなかったらもっと後悔する。
ピッ
僕は缶を取り出し、その場で一気に飲み干した。
「う……来た来た。」
さっきまでモノラルに戻りかけていた気分が、また遠く離れた位置へズレていった。
たまらなく楽になり、
それが、また少し怖い。
…という自分を、僕は横から眺めていた。
頭が二つある感じだ。
この状態になると、くだらないジョークで爆笑しながら、不動産の権利書だって読める。
だから謝罪代行業には必要なんだ。
昔はコイツの存在を知らなくて、かなりキツかった。
ただ、さすがに頼りすぎはヤバいけど。
前に、自分同士で口ゲンカを始めて、止まらなくなったことがある。
それでも今日は飲む。
…仕事をひとつでも飛ばせば、次の依頼も飛ぶから。
まあ…
上手くやるさ。
−ピッ−
スクロールが鳴った。
“本日14時
スタバつくば店
謝罪指定受領人:ハマナカ”
”仙台城から、つくばまで約250km”
…だそうだ。それが遠いのかどうか、僕にはよく分からない。
どれだけ離れていても、スクロールが一瞬で飛ばしてくれるから。
画面の隅には、今月使ってもいい残高が表示されていた。
「…¥8,675。」
(さぁ行けよ!嫌でもやるんだよ!開拓者様よ!そしてお前、もうそんだけしか今月使えないんだからな。)
自分に説教された。
まぁ、彼?の言う通り。仕事は選んでもらってなんぼ。
それに、そうだったな。“開拓者”側を選んだんだしね。
「…さぁ、行こう。」
僕は“スタバつくば店”のLIVEを確認した。
「…よし。変なのはいない、と。」
ジャンプ先でややこしいのに絡まれるのは避けたい。
僕は待ち合わせの時間ちょうどに、“スタバつくば店”をタップした。
いつもの氷風が背中を吹き抜けた。
<<おっさんスカッシュ>>
あ
…という間にスタバの店内に吐き出された。
…が、
「うわ!!」
一瞬、自分が8ビットのキャラクターぐらい適当な見た目になった気がした。
…いや。
大丈夫だ、大丈夫。
…たぶん。
(さて、ハマナカ氏は…と。)
奥の二人掛け。
中肉中背の男。
彼が今日の”謝罪指定受領人”だ。
彼のアイスコーヒーはほとんど無くなっている。
まぁ今日も、よっぽど言いたいことを溜め込んで来たのだろうな。
僕はわざとらしい小走りで彼の目の前の席に着いた。
通称”おっさんスカッシュ”。
謝罪代行の始まりだ!
「どうも。今日もよろしくお願いします。」
(さて、モンシナが効いてるうちに終わらせようぜ。僕。)
ハマナカは待ってましたとばかりに、高揚ぎみの口調で挨拶を返した。
「ややっ!現れたね!人見ちゃん。待ってたよう!いつも面談前は落ち着かなくてねぇ。」
「いえ、それは僕も同じですよ。…さっそく始めましょう。前の話の続きが気になって仕方ないです……あ、違いましたね、
ええと…。”ホントにすみませんでした。”」
ハマナカは笑った。
「面倒だよねぇ。でも一応ちゃんとやらなきゃね。ARGOの走査に引っかかっちゃうし。補償認められないと君も困るでしょ?」
「ですよね。」
「もっと真に迫らないと。まぁ…えー。」
ー始まるぞ。
(あぁ、始まる。やっとだな。)
ハマナカの表情が変わった。
「じゃあーゴホン。
なんで”LIVE”で状況確認せずにいきなり”ジャンプ”して来たのよ?…だと思う?かすり傷で済んで良かったけど、車みたいに遅くないんだからね!!」
「その、それはですね…いや、たぶんなんですけど、その日は誕生日で騒いでて、そのまま街に出ようってなって。気分が上がってた、というか。」
ハマナカは険しい顔で言った。
「はぁ?いや、だけどね、一歩間違えればオジサン同士の融合案件よ!?まったくなんであんな軽はずみなジャンプしたのよ!?
…あぁアンタはしてないのか。ややこしいな。なぜしたんだと思う?」
僕は想像力をかき集めた。
「その、それはですね…。おそらくそうだろうという観点から、普段から急ぎのときは”LIVE”なんて見ないんですよ。」
「ええ!?見てないの?」
「いや、僕は見てるんですが、その…。」
ハマナカは疲れきった声で言った。
「まぁ…こんなもんじゃないの?これで事故会話認証は通ったはずだよね?」
「…ですよね。」
お聞きですかARGO様。
毎回このクソ面倒な手続きに大変感謝しております。
ハマナカはニヤつきながらハンドバッグを開き、分厚い写真の束を取り出した。
「…それじゃあ、この前の続きと行こうか。」
「うわ!楽しみです。」
(本当は聞きたくないよな?)
「高校野球はたまに見るんですよ。」
(よく言うぜ!見たことないだろ、お前。)
「そうなの?いいよねー!青春で。…時に人見ちゃん、俺が三陸高校から3打席連続安打した話したっけ?」
「え!?初耳です!」
(3回目だよな?)
「あの当時の三陸からですか?確か今大リーグで大活躍の大仁田がいたときじゃぁ…?」
(3回も聞いたらさすがに覚えたよな、”オオニタ”。)
ハマナカは嬉しそうに身を乗り出した。
「そうそう。”ヒット”、”2塁打”、”ホームラン”ってね。俺ヤバいでしょ?」
(はい。)
…ん?
なんか、順番が入れ替わってないか?
てか、
今
外に出るのは僕の声?
いや、お前の?
……ズレた?
次に喋るのは
どっちだ?
「あぁ~まじ帰りたい泣」
(かぁ〜まじレジェンドです!!)
(…順番…あ、あれ?)
「ん?」
「ん?」
(……やばいぞ。)
「いや!替わりたい!ハマナカさんと”まじ替わりたい 笑”です!」
(…さすがに厳しいだろ。)
「ちょ、やめてよ〜。」
いけた。
「そ、そう思える人と会ったの、僕初めてですよ。」
まじか。
(いけたな⋯
まったく寿命縮むわ。)
「でもさぁ、最終回でその大仁田が出てきてドーンとデカいのを打ったのよ。それでサヨナラ。みんなそっち行っちゃって。で、俺こんな事になっちゃってる訳。」
「えぇ!?じゃあ大仁田が居なかったらハマナカさんは大リーガーになってたかも、なんですか!?」
(そうか。”オオニタに負けた事”も込みで武勇伝になってんだな…。)
「そうなのよ〜。実力だけで生きていける時代だったらね〜。」
「もう!世紀末覇者ですか 笑」
(凄い…のか?結局負けたんだよな?端で聞いててもう何が凄いのかわかんなくなってきたわ。)
「だよねぇ(笑)」
「ですです笑」
(もういいって。いい加減早く終われ!)
スクロールに通知が来た。
”ミーティング終了。
必要謝罪代行回数はあと2回です。”
僕はハマナカに伝えた。
「あ、時間みたいです。じゃ続きはまた今度。」
「えぇっ!?」
ハマナカは少し面食らった様子で、
…そのあと、とても寂しそうな顔をした。
「え?あ…そうだったね。分かった。それじゃまた連絡するよ。…今日もありがと。」
「はい…えと、”すみませんでした”。」
ハマナカは高校時代の写真をダンヒルのハンドバッグに詰め、店を出ていった。
僕はその背中を見送った。
「はぁ…仕事以外で会いたくねぇ〜。」
(はぁ…仕事以外で会いたくねぇ〜。)
…あれ?
同じだ。
僕は彼がジャンプしたのを確認してから店を出た。
気を抜いた途端、急激にモンシナの効果が切れた。
副作用が襲ってくる。
「うぅ~…あと2回。」
震える指先でスクロールを開く。
「うぅ~…あと2回。」
”自宅”をタップした。
「うぅ~…あと2回…。」
入金までの代行回数残をマントラのように唱えながら、僕は家に帰った。
変わらない1日が、
また過ぎていった。
(続く)
コメント
1件
うわっ、めっちゃ引き込まれた…!😳✨ モンシナ飲んで自分と会話しながら謝罪代行するとか、世界観が独特すぎて一気に没入したよ…。特に「おっさんスカッシュ」って呼び方とか、心の中のツッコミと表のセリフがズレていくシーンがたまらなかった🥺💦 続きめっちゃ気になる!!