この作品はいかがでしたか?
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はぁ、と息を吐く。
目の前にあるのは自分で稼いだお金で買った味の知れぬカップラーメンと
スマホ。スマホにはTwitterの画面が表示されている。
【ロクロ/自由気ままにやってます】
このアカウントは俺のものだ。この間、YouTubeの方でも登録者67万人を突破した。
一応マイクラを主としたゲーム実況者ではあるがどちらかというと
裏方で色々と作業している事が多い。社会不適合者で集団行動ができない俺は
自分の編集技術やコマンド技術をIT社会やこうした実況者さん達に売って食っている。
『…学校も行かず、な』
ぼけーっと自分を俯瞰したようにどこか他人事に吐いたその言葉を
よくわからないまま買ったよくわからない味のするカップラーメンと共に飲み込んだ。
薬を水と一緒に飲み込んで食器を無造作に片付ける。
カップはゴミ箱に捨てて割り箸もゴミ箱へ
あ、どっちもゴミだったわ
食器洗うのめんどくさいという理由で、家の食器棚はもう長らく開けられていない。
おそらく今頃、あの薄暗い引き出しの中埃を被って眠っているんだろう。
そうなればまた取り出すのが面倒くさくて見向きもしなくなった。
カタン、と音がする。外から、郵便受けに物が入れられた音だ。
俺は耳がいいからすぐにわかった。
この時間帯に郵便なんて珍しいな…なんだろうか、と窓の外を見れば
そこには一人の少女が立っていた。冬だというのに真っ白な薄着ワンピースだけで
此方の家を見ているその少女に見覚えはない。
どこかと間違えたのか、新手の勧誘か?なんて思いながら
まぁ関わらない方が身のためだと思いシャッとカーテンを閉めた。
和室のドアを開けて仏壇に手を合わせる。
…この家には、俺以外の誰も住んでいない。本来ならいるはずの親は
父は殺人沙汰で捕まり警察署に。母親は俺の手で殺した。この仏壇は母親のもので
笑った顔の写真なんかどこにもなかったから、彼女がまだ幼い頃の白黒写真が飾られている。
俺の家は、崩壊していた。何、そんなに難しい話じゃない。
元よりあまり仲が良くなかった夫婦に障害を持った子供が生まれた。ただそれだけの話だ
毎日毎日罵倒の声が響き渡り夜には暴力を振るわれる。
たまに聞こえてくる嗚咽のような呪いを聞いては自分を生んだことに疑問を持ったものだ。
…まぁ、もう過去のことだからどうでもいいが。
薄れた記憶がよぎり目を少し開ける。
合掌を解いて立ち上がり、そのまま自室へと階段を登った。
今日はやる事がたくさんあるんだ。
俺の仕事は裏方作業。マップを制作したり編集したりコマンドを組んだり、イラストを描いたり。
そのほかにもボカロやオリジナル曲のサムネ制作から今流行りの2Dモデル…
まぁいわゆるVtuberのモデリングなんかもしたりする。ゲームや小説、漫画なんかも作っていて
こんなのでも結構忙しいのだ。
まぁどうせ学校に行けないガキのお遊びにしか過ぎないから、誇れるようなものではないが。
パソコンを開けば、自分の好きな実況者さんの強い顔面がこんにちは。
…はぁ、とため息をついて早々にマインクラフトを起動した。
渡されたIDを入力してワールドをダウンロードしインすればまっぴろまなフラットが広がった。
大きな画面いっぱいに広がった水色と緑色のどこまでも続く水平線を横目に、
渡された資料の書写しを取り出した。
(この机も結構汚くなってきたな…。)
がさ、と適当に資料をのけて目に見えるところに置く。
パッと画面に目を戻せば、身知れたスキンのドアップが大画面に表示されていた。
…そういえば、さっきボイスチャットの通知が鳴ったなぁ。
ジッ、
【おい、お腹いっぱいだ。】
?【人の顔見てお腹いっぱいってどういうことや】
【そのまんまだ、失せろ】
?【冷たいなぁ。】
ボイスチャットをオンにしてミュートを解除し話しかければいつもの聴き慣れた声が帰ってきた。
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