テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第21話「短い、最後の朝。」
朝の光が、カーテンの隙間から差し込む。
病室は、まだ静かだった。
「……」
ベッドのそばで、なつが瞬きをした、その時。
「……ん……」
小さな声。
「……らん……?」
なつが、思わず身を乗り出す。
らんのまぶたが、ゆっくり開いた。
「……あ……」
視線が、少し泳いでから——
ひとりずつ、見つける。
「……みん……な……」
その声に、全員が息を詰めた。
「らんらん……!」
みことが、声を抑えきれない。
「……起きた……」
すちが、目を見開く。
「……らんくん……」
こさめの声が、震える。
いるまは、言葉を探すみたいに、ただ頷いた。
らんは、ゆっくり瞬きをして、少し笑った。
「……朝……だ……」
「そうだ」
なつが、涙をこらえながら言う。
「いい朝だ」
「……そっか……」
らんは、天井を一度見てから、またみんなを見る。
「……あのさ……」
声は弱い。
でも、はっきりしていた。
「……ありがとう……」
その一言で、
なつの目から涙が落ちた。
「……こちらこそだ……」
声が、かすれる。
「……楽しかった……」
らんが、続ける。
「……ちゃんと……楽しいって……言えた……」
みことは、堪えきれず、涙を拭った。
「……それ……」
「……一生……忘れない……」
すちは、らんの近くで、そっと言う。
「……無理しなくていい……」
「……でも……」
「……聞かせてくれて……ありがとう……」
こさめは、らんの手の近くに、そっと自分の手を置いた。
触れない距離で。
「……また……」
らんが、少し照れたように。
「……思い出……作ろ……って……」
「……言ったよね……」
「言った」
いるまが、低く、確かに答える。
「もう、作った」
その言葉に、らんの目が潤んだ。
「……そっか……」
らんは、ゆっくり息を吐く。
「……じゃあ……」
一人ひとりを、目でなぞる。
「……大丈夫……」
「……俺……」
言葉が、涙に変わる。
「……幸せ……だった……」
なつが、らんの手をそっと包んだ。
「……泣いていい……?」
らんが、小さな声でつぶやく。
「……いいよ……」
すちがこたえる。
その瞬間、
らんの目から、静かに涙がこぼれた。
みんなの涙も、止まらなかった。
しばらくして——
らんは、また目を閉じた。
今度は、
とても穏やかな顔で。
朝の光は、変わらず差し込んでいる。
「……らん……」
なつが、名前を呼ぶ。
返事はない。
でも。
その部屋には、
確かに感謝の言葉が残っていた。
——短い朝。
--らんの最後の朝。
——でも、最後まで、優しい朝だった───。
♡300➡最終回
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!