テラーノベル
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―――カツ、カツ、と硬い靴音が廊下に響く。新学期、始業式を終えたばかりの高校一年、すいは校舎裏に続く渡り廊下を歩いていた。
春だっていうのに、心は全然晴れやかじゃない。
親の離婚で離れ離れになってから、もう何年も会っていない“兄”のことを、考えるたびに胸の奥がチクっと痛む。
「……別に、会えなくてもいいし。」
そう呟きながら、ポケットに突っ込んだ拳を握る。
だけど、本当はずっと会いたかった。
自分がグレてしまった理由も、兄に会えなかった寂しさが大きいって、すいは気づいていた。
そのとき。
渡り廊下の向こう側から、二人組の男子が慌てたように走ってくるのが見えた。
そして、彼らの後ろを――ゆっくりと、しかし確かな足取りで歩く一人の男子生徒。
長身で整った顔立ち、無駄のない動き。
けど、何よりも印象的だったのは、その冷たい目。
「……っ」
すいは一瞬、呼吸を忘れた。
―――あの目を、知ってる。
「ゆ……い……?」
小さく声に出した瞬間、その男子が足を止め、こちらを振り返る。
「……すい」
それだけ。
名前を呼ぶ声は、昔と何も変わってなかったのに、顔つきも雰囲気も、まるで別人のように大人びていた。
「な、なんで……ここに……」
問いかける声はかすれて震える。
すると、ゆいは片手をポケットに突っ込み、視線をそらさずに淡々と言った。
「俺、この高校の三年」
「は……?」
驚きのあまり、言葉が詰まる。
離婚してからずっと会えなかった兄が、まさか同じ高校に。
頭の中で現実感が追いつかない。
「……元気そうだな」
「っ……別に、普通だし」
反射的にそっけなく返す。
そうでもしないと、今にも泣きそうになるから。
沈黙が流れた。
昔みたいに笑い合うわけでもなく、優しく頭を撫でられるわけでもなく。
ただ、距離があって、言葉が足りない。
だけど、ゆいの目はすいをじっと見つめたまま、わずかに細められた。
その表情は、無愛想なはずなのに――どこか、安堵しているようにも見えた。
「……もう、悪さすんなよ」
低く、抑えた声で呟く。
すいは眉をひそめ、顔をそらした。
「は? 別にアンタに心配される筋合いないし」
「……お前、最近ケンカして停学食らっただろ」
「っ……! なんで知って……」
悔しい。
本当は怒られるのが嫌なんじゃない。
心配してくれてるってわかってしまうから、余計に胸が締めつけられる。
「……うるさい」
背を向けて歩き出すと、背後から低い声が追ってきた。
「すい」
足を止める。
振り返らずにいると、少し間を置いてから、ゆいが続けた。
「……もう、離れねぇから」
その一言に、胸の奥が熱くなる。
でも、振り返らない。
泣き顔を見せたくなかったから。
――こうして、離れ離れになった兄妹は、同じ高校で再会を果たした。
コメント
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クラゲちゃん!見れた!! やった!