「ようやく繋がったね」
「だからオレは透子ただ一人だよ」
「ん?」
「オレからアプローチしたいって思ったの。どんなことをしてでも手に入れたいって思ったのは、透子だけ」
「樹・・・」
きっと透子にはオレのこの想いは全部伝わらないだろうから。
だから、こうやって一つずつ伝えていってあげる。
どれほど透子が好きで、オレには透子だけだということを。
「だから透子には、オレがガキの頃からずーっとこの透子への純粋な恋心を奪った罪は償ってもらわないと」
「はっ!? 罪って何!?」
「そりゃ透子が、オレがガキの頃からずっと夢中にさせて好きにさせてたんだよ? 他の女性好きになれなかったワケだから責任取ってもらわないと」
だけど、少し冗談めいて今度は違うカタチで攻めてみる。
今度は照れてちょっと困る透子の顔もそろそろ見たい。
「いいよ。責任取る。樹が好きでいる女性は私一人だけでいい」
すると、透子はそんなオレの期待を裏切って、まったく戸惑いも照れもせず、オレをまっすぐ見つめ堂々とそんな風に伝えてくる。
「マジか・・・。そう来るか・・・」
またオレを惑わせてハマらせていく透子に完敗した気分になって、ため息交じりに呟く。
「何?不満? 責任取るって言ってんのに」
すると透子は勘違いしたのか少し切なそうに、だけどちょっと納得いかないような素振りをしてオレに尋ねる。
「イヤ・・・。たまにそうやってオレが予想してない嬉しすぎる可愛い反応するからさ・・・」
だからこういうの弱いんだって。
素で照れて動揺するオレが透子にバレてカッコ悪すぎる。
「でもさ。やっぱいいや。責任取んなくて」
「えっ!? どういうこと!?」
「だって透子の責任はオレが取る。ずっと運命的にガキの頃から好きだった人の一生はオレが責任持って幸せにする」
「樹・・・」
だけど、やっぱり透子の前ではオレはいつだってカッコいい男でいたい。
透子をしっかり守れる男でいたい。
「じゃあ、一緒に責任取って幸せにし合おう」
せっかく男らしくカッコつけようとしたのに、透子も同じようにそんなことを言ってくる。
「そうだね。お互い幸せにしたい気持ちは譲れないみたいだし」
うん。透子はこうなんだよな。
オレが透子を守りたいのに、幸せにしたいのに、同じように透子もオレを守ろうと幸せにしようとしてくれる。
だけど、きっとそれがオレたちだから。
お互い支え合って、お互い守り合って、お互いを想い合って、お互い幸せにし合う。
それでオレたちはようやくお互いが納得して幸せだと感じられる。
こうやってお互いを想い合いながら、お互いを幸せにし合うことが、きっとオレたち二人の幸せのカタチ。
「透子。ホントありがとう」
「どしたの? 急に改まって」
「いや。改まってちゃんと言っておかなきゃなって」
「何を?」
「透子のおかげで、やっと家族の絆っていうの? なんかそういうの取り戻せたような気がする」
「うん・・・。樹が悩む理由なんて全然なかったね」
あんなにも遠ざけていた家族との繋がり。
結局はただ向き合うことが怖かっただけなのかもしれない。
だけど、そんなオレを透子が救ってくれた。
そしてその向き合う勇気をくれたのは全部透子。
「ホント。どんだけ遠回りしたんだよって話だよね」
「でも、遠回りしたからこそ、ちゃんと向き合えて理解し合えたんだと思うよ」
「確かに。多分これは今じゃないと無理だったのかもね。こんなタイミング来るまで、結局オレも理解しようともしなかったし、きっとずっと反抗的なままだったと思う」
「ちゃんとお互い向き合って気持ち伝え合えてれば何の問題もないのにね」
「それも透子と出会わなければ無理だった。オレがこんなにも透子好きになれたから、ちゃんと向き合うことが出来た。透子はオレだけじゃなく、オレたち家族も救ってくれた。まさか親父がずっとオレのことを考えてくれてたなんて思わなかったし、それを知れたのも透子がいたから」
「たまたま今回がきっかけだっただけだよ。でも、嬉しい。やっと樹がホントの幸せ取り戻してくれて」
「結婚の許しをもらえるように、オレが何があっても透子を守るって言ってたのにさ。最後は逆にオレたち家族皆が透子に救われた。やっぱすごいわ、透子」
「私は何もしてないよ。樹にちゃんと守ってもらった。っていうか、そもそも守ってもらう必要もなかったしね。それどころか素敵な家族の時間を私も一緒に過ごさせてもらえて嬉しかった」
透子は自分のことのように喜んで、そう言って笑ってくれる。
「なんか照れるね。そういうの言われ慣れてないし、自分でもそんなの考えたこともなったからさ」
「私ずっと思ってたんだよね。樹の家族はさ、それぞれ独立してるけど、だからこそお互いに対しての秘めてる想いがさ、きっと普通以上に深くて大きいなって」
「言葉にしないとわかんないけどね」
「うん。ホントはすごく想い合ってるのに言葉にしないことでそれが伝わり合わないのがもどかしいなとも思ってた」
「だよね。オレもなんかずっともどかしかった」
結局オレたち家族は、それぞれ胸に秘めてる想いをみんなが言葉にしないことですれ違っていた。
例え言葉にしても、本当の想いが伝わらなかったり。
ここまでこじれたオレたち家族は、何をどうすればそれが解決するのか、お互い向き合うことが出来るのかわからなかったような気がする。
「実はさ、樹が結婚しようって言ってくれた時ね。ホントにすごく嬉しかったんだけど、でもこのままじゃダメだなぁって思ってたんだよね」
「どうして? オレとの結婚迷ってたってこと・・・?」
「そうじゃなくて。樹の中で何か抱えてる気がして、その心配というかその不安を取り除きたかった」
「オレの・・・?」
「そう。樹の中で、どうしてもお父さんとの問題がずっと引っ掛かってたように思えて」
「あぁ・・うん・・・。それはあったかも・・・」
「結婚する前にちゃんとしておきたかったの。ちゃんと幸せになる為に。だけど・・・もし私のこと受け入れられなかったとしても、その問題はなんとかしたかった」
「それって、反対されたらまたオレと離れてたってこと?」
「きっと樹の中では、そこを解決しなきゃホントの幸せは感じられないって思ったから」
知らなかった。
透子がそんな風に思ってたこと。
オレは一緒になれることでもう幸せで、それしかもう考えてなかったのに。
透子は、オレの家族のことまで心配してくれていたなんて。
「オレは透子がいれば幸せだって言ってるのに」
「私も樹がいれば幸せだよ? でも、どんな結果にしろ、ちゃんとホントに樹が自分で納得出来て現実を受け入れてほしかった」
だけど、透子はきっとこういう人だから。
オレ以上に、オレのことを考えてくれる。
オレの幸せを願ってくれる。
だからオレはこんなにも救われているんだ。
「うん。ようやく納得出来て前向くこと出来た」
そして今はこんなにも晴れやかな気持ちで心から笑ってそう胸をはって言える。
「よかった。樹がちゃんとそう思えるようになって」
そう言って笑ってくれる透子。
こうやって透子はずっと隣で笑っていてほしい。
「だから。もう二度と考えないで」
「え?」
「もう絶対どんなことがあっても、オレから離れようとしないで」
だけど、やっぱり二人で幸せになると誓ったはずなのに、オレから離れる選択を少しでも考えたことは、やっぱり胸が痛むから。
オレはもうそんなこと一ミリも考えられないのに。
やっぱりどんな時も透子にもオレとずっと離れたくないと、そう思っててほしい。
「うん・・・」
一言そう返した返事が、やっぱりオレの幸せを思って、そんな可能性もあったことを察してしまう。
「大丈夫。もう何も問題なくなったから。もう離れる必要どこにもないから」
この言葉がちゃんと伝わるように、透子の目をじっと見つめ、透子の手をギュッと握り締める。
だからもう勝手にオレから離れようとしないで。
「うん。もう樹から絶対離れない」
「オレには透子が絶対必要なんだよ。透子がいなきゃ幸せになれないんだよ。オレも透子も、お互いが気付いていないところでも、もう何年も前からオレたちは同じ場所で同じ時間刻んできたんだよ。それは全部今に繋がってて、どうやったってオレたちはきっと離れられない運命なんだよ。だからもう無理だから、絶対。オレと幸せになるしかないから」
「うん・・・。私もそう思う」
もうどうやったってオレたちは一緒になる運命だから。
もう何もオレたちを邪魔するモノはなくなったから。
だから透子もう心配しないで。
ただオレとの幸せを考えて。
「やっと透子と本当に幸せになれる」
「うん。やっと」
お互いそう言いながら微笑み合って、その言葉の意味を、ようやく手に出来た幸せを噛み締める。
もうオレたちは大丈夫。
ここからはもう一緒に幸せになっていくだけ。
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