青龍に鍛えられ
アリアを狙う奴らを倒しながら
俺は着実に成長していった。
⸻
最初は、ただ
〝圧し潰す〟だけだった俺の力。
無差別に重力を操り
相手を地面に押し潰す
単純な戦い方。
だが
それじゃ通用しない相手がいる事を
青龍が俺に叩き込んできた。
力があっても
技術がなければ意味が無い。
圧倒するだけの戦い方は
いつか必ず限界がくる。
青龍の言葉を
俺は何度も身をもって
理解させられた。
だから
俺は力を精密に
より意のままに操れるよう
徹底的に訓練した。
最初は青龍に一方的にやられていたが
次第に
互角に戦えるようになっていった。
青龍の拳を重力の壁で防ぎ
空間を圧縮させてカウンターを放つ。
跳躍する青龍の動きを見極め
足元の重力を瞬時に変えて
その勢いを殺す。
単純な力押しだけじゃなく
考える戦い方を覚えた。
その結果
俺は、青龍と拳を交える度に
手応えを感じるようになった。
訓練以外でも
俺は成長を実感していた。
ある日
川で身体を洗っていると
不意に遠くから銃声が響いた。
バシュッ——!!
乾いた破裂音と共に
俺の背後の水面が跳ねる。
だが、重力の壁に弾丸は阻まれ
俺の肌には
一切の傷もつかない。
「はっ!
もう銃なんざ
かすりもしねぇか」
何発か撃たせて
そいつの位置を確認する。
視界の端に
茂みの陰に潜む影を捉えた。
俺は水面を蹴り
一瞬で間合いを詰める。
「っ、化け物が⋯⋯!?」
狙撃手の驚愕に満ちた声が耳に入る。
だが、その言葉が終わる前に
俺はそいつの周りを真空状態にして
窒息死させてやった。
これなら
血も流れないし
武器も無傷のまま手に入れられる。
⸻
そんな日々が
当たり前になっていた。
俺は、俺の力を極めていく。
青龍は、それを鍛え続ける。
そして、ある日⋯⋯
〝その時〟が来た。
⸻
その日
いつもと変わらず森の中で訓練を終え
休憩していた俺と青龍。
焚き火の前に座り込み
青龍は静かに桜を見つめていた。
俺は疲労に肩で息をしながら
それを横目で眺める。
—その時だった。
ゴォォォォ⋯⋯ッ!!
突然、桜が大きく揺れた。
「っ⋯⋯!?」
俺は思わず立ち上がる。
地面が震える。
まるで
大地そのものが
胎動しているような感覚。
桜の幹が
軋むような音を立てる。
枝という枝が
風もないのに揺れ動く。
咲き誇る白い花が
一斉に舞い上がり
空へと吸い込まれるように流れていく。
俺は、青龍と同時に桜を見上げた。
その時
青龍は確かに呟いた。
「⋯⋯主様っ」
俺の隣で、青龍の瞳が震えていた。
それは、俺が知る限り
青龍が初めて感情を露にした瞬間だった。
俺は、何かを悟る。
—その時が、来たんだ。
桜の中で眠る〝主様〟とやらが
目覚める時が。
俺は宙に浮きながら
桜の異変を見下ろした。
地面が震え
桜全体が何かを生み出すように
軋みながら揺れている。
風が吹いていないのに
花びらが渦を巻くように
舞い上がっていく。
それはまるで
〝何か〟の誕生を
祝福するかのように⋯⋯
視界の端では
青龍が枝の間を駆けていた。
まるで飛ぶように、軽やかに
そして、必死に。
そう
必死に〝主〟のもとへと
向かっていた。
俺の耳に、震えた声が届く。
「お待ち、しておりました⋯⋯
我が、主様」
俺は、桜の幹を凝視した。
其処から
何かが生まれ出ようとしていた。
⸻
桜の幹の表面が
ゆっくりと割れていく。
光が滲み出し
細い亀裂が枝へと広がる。
そして
そこから白い指が現れた。
ゆっくりと、慎重に。
まるで長い眠りから覚めるように
手が幹を押し開く。
次に、腕。
白磁のように滑らかで
何処か儚い曲線を描いている。
続いて、背中が露わになった。
黒褐色の髪。
襟足が長く
背中へと流れるように広がっている。
樹液に濡れて光を帯び
動く度にゆるやかに揺れる。
その姿が徐々に顕になっていく度に
俺は、言葉を失った。
⸻
〝主〟は
ゆっくりと顔を上げた。
睫毛が僅かに震える。
閉じられていた瞼がゆっくりと持ち上がり
その奥から
鳶色の瞳が現れた。
それは
まるで霞がかかったように朧げだった。
けれど
その視線は確かに青龍を捉えていた。
「お前⋯⋯
そんな、姿になってまで⋯⋯
僕を待ってて、くれたのですか?」
柔らかな声だった。
けれど
その声には深い悲しみが滲んでいた。
青龍が震えた。
幼い姿のまま
震える腐れ爛れた手を伸ばし⋯⋯
しかし、すぐに拳を握りしめる。
まるで
それが許されないかのように。
俺は、その様子を見ながら
思っていた。
こいつが
青龍が〝主様〟と呼ぶ存在かー
今まで青龍に
比べられ続けた相手。
何かにつけて
『我が主様はこうだった』
と聞かされてきた相手。
どれ程の男なのか。
どれ程の〝強さ〟を持つのか。
ー比べられ続けた奴の顔を
見てやろうー
そう思った俺は
ふわりと奴に近付いた。
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