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「エルヴィン殿、あなたの加護は――【粗探し】にございます」
「えっ……」
大勢が集う神殿の大聖堂。覚醒の儀。
やたら厳かな大神官の言葉に、15歳の俺は呆然と固まった。
――粗探し??
――お貴族様らしくないスキル名よねぇ?
――どんな効果なんだ?
――さぁ……?
辺りがざわつき始める。
そりゃそうだろ。
こんな“ふざけた名前”のスキル、俺だって初耳だぞ??
「ザカリー大神官様ッ! 何かの間違いではッ!?」
焦って食い下がったのは――顔面蒼白の父。
「こやつは……エルヴィンはッ! 『グラリア帝国』の誇り高き貴族が一員にして、我が『ベネディスター家』の跡取りだッ!! 幼き頃より我が剣術に加え、貴族としてあるべき知識をこの私自ら授け、どこに出しても恥ずかしくないよう教育してまいった所存……私の【剣の達人】とまではいかずとも、貴族らしく武術系や魔術系など戦闘向けの加護を与えられてしかるべきではッ!?」
――加護。
誰もが生まれたときに神より授かる、
1人1つの特別な能力。
魂の奥底に眠る加護を引き出し、使えるようにする。
これこそが、年に1度行われる『覚醒の儀』という儀式だ。
そわそわしながら待つのは、晴れて今年15歳になった少年少女と、その親兄弟たち。
帝都中から集められただけあって大聖堂には入りきらず、外まで行列が延びるほどの大人数。
先ほどから順番に1人ずつ、大神官による“覚醒”が行われていた。
スキルが変われば、職業の適性も別物だ。
自分のスキルはどんな名称で、どんな効果かが判明する『覚醒の儀』。
15歳の少年少女にとって、いわば「自分の未来が決まる一世一代の大イベント」なのである。
俺だって、希望で胸がいっぱいだったさ!
自分で言うのもなんだが、俺の生まれは恵まれていた。
なんたって、あの大貴族ベネディスター家の“次期当主様”だからな。
幼くして母と死に別れたけど……そのぶん父から(厳しかったが)大切に育てられたし、使用人の皆も可愛がってくれた。
別に領主になりたいわけじゃなかったが、他にやりたいこともなく。
与えられた役割をこなすこと自体に不満はなかった。
これまでも、これからも、それなりに無難な人生を歩むと信じて疑わなかったよ――
――前代未聞の謎スキル持ちと判明する、その瞬間まではなッ!
やっべぇ……。
まじで人生、終わっちまったかもしんねえ。
こんな謎スキルで、これからどう生きろって??
……神様、いったい俺が、何したっていうんだよォ……。
がっくりと膝をつく俺の前では。
髪もヒゲも真っ白な大神官が、ヒートアップした父をなだめている。
「――落ち着きなされ、ベネディスター家の当主殿」
「しかしッ! 昨年は傍系の従兄に過ぎぬゲオーグですら炎系の魔術加護【地獄の炎】持ちと判明したのですぞッ!? なのに直系のエルヴィンが【粗探し】などという戯言の如きスキルだなんてッ――」
「いやいやどうして。未知のスキルを授かるなど、我が国では実に数十年ぶりの稀有な事態でございます。前例が無いのみで、案外、他の者をも寄せ付けぬ素晴らしき加護かもしれませぬ!」
「「えッ!?」」
同時に叫ぶ俺と父。
「どういうことです大神官様ッ!」
「うちのエルヴィンはッ――まだ望みがあるのだなッ?!」
「ほっほっほ……まずは鑑定結果の詳細を御覧なされ」
穏やかな笑顔で指示する大神官。
隣にいた鑑定役の神官が、1枚の『魔力感熱紙――魔力を含むスキルに反応し、任意の内容を自動印字する魔導具――』を俺たち親子へ差し出した。
そこには、俺の加護鑑定の結果が詳しく印字されている。
・・・・・・・・・・
■名前
エルヴィン・ベネディスター
■スキル
【粗探し】
使用者が意識した対象の欠陥が、自動でわかる。
・・・・・・・・・・
「……オート・デバッグ?」
紙を片手に、俺は首をかしげた。
――デバッグ。
――バグ。
どちらも初めて見る単語のはず。
だけど何だか、とても懐かしい響きのような……。
「ザカリー大神官様、この説明では何も分からぬぞ……果たして、我がベネディスター家の未来を担うにふさわしき能力と言えるだろうか?」
困惑した父がたずねるが、大神官は首を横にふる。
「さすがの儂もそこまでは……」
「ムム、となると実際に使わせてみるしかあるまい。急ぎ我が家へ戻り、エルヴィンのスキルを検証せねば――」
「――ならば、今ここで試せばよかろう!」
女性の声が、大聖堂に響き渡った。
脇に控えていた魔術士の1人だが、顔の半分は目深に被った帽子に隠れており、どこの誰かは分からない。
「おいッ無礼だぞッ!」
「平民風情が偉そうな口を聞きやがってッ!」
すぐさま飛び出す、我が家に仕える護衛騎士たち。
父と俺と大神官を守るべく、槍で“不審者”を牽制しようとしたが――
ブオンッ!
「『魔術障壁』か!?」
急に出現した“光の壁”が護衛騎士たちの行く手を阻んだ。
父が声を荒げる。
「貴様ッ何者だ!!」
「安心せい、怪しい者ではないからのォ♪」
障壁越しに、女はニヤリと不敵に口を歪ませ、目元を隠す帽子のつばを持ち上げた。
「「「皇帝陛下ぁッ!?!?」」」
驚きの声を上げる俺たち。
魔術師の正体は、我がグラリア帝国の若き女帝、その人だったからだ。
瞬間、民衆のざわめきがパタリと途絶えた。
――沈黙が支配する大聖堂。
な……なんで陛下がここに!?
しかも平民に化けてるってどういうことだよ!?!?
ってか我が家の騎士たち、陛下に槍を向けちまったぞ!
これ、相当ヤバいんじゃッ――
「お許しをォッ! まッ、まさか、陛下がおいでとは露知らずッ――」
沈黙を破ったのは、父の悲痛な叫びだった。
声を震わせつつも必死に深々と頭を下げて謝罪する姿に、俺も騎士たちも慌てて後に続く。
慈愛に満ちた笑みを崩すことなく、女帝は言葉を紡いだ。
「よいよい、頭を上げよ。余は寛大じゃからのぅ……主人の危機へと即座に備えるあたり、訓練の行き届いた良き騎士団ではないか。はっはっはっ!」
「有難きお言葉……温情深きご判断、誠に感謝申し上げます」
ホッとした様子の父。
どうやら罰は免れたらしい。
よかったぁあぁァ……!
「それよりベネディスターの次期当主、エルヴィンよ」
「――ひゃい!」
今度は俺のほうが陛下に声をかけられた。
あっぶねぇ、油断しきってたよ!
「お主のスキル……【粗探し】、じゃったかの?」
「そう、ですけど……」
「ちょいと発動させてみよ」
「え゛」
そういや陛下、さっきもそんなこと言ってたな……??
「……お……恐れながら陛下、私めの【粗探し】は我が国でも未知であり、効果が判明しておりません。陛下の御身に何かあっては――」
「いや、ありえんじゃろ」
さらっとツッコんでくる女帝。
「説明に『わかる』と書かれるのは、基本的に鑑定系のスキルじゃからな……ならば効果は『何らかの情報が判明する』のみ。“何か”など、起きるはずもなかろう!」
「あ、確かに……」
陛下の主張は、おそらく正しい。
神から授かるスキルには様々な種類があり、研究により細分化されている。
――使用者が意識した対象の欠陥が、自動で“わかる”。
この「わかる」との効果表記は、陛下の言うとおり鑑定系の特徴だ。
魔術系じゃないから暴風や爆発が起こったり、知らない僻地に転移させたりなんてのも無いわけで……うん、陛下を傷つける心配はないか。ってか無理!
でも万が一って可能性もあるしなぁ……。
「のぅエルヴィンよ、余は気になってしょうがないのじゃ。世の中のスキルはだいたい出尽くしておるし、何が起きるかわからん“未知のスキル”なんて、そうそう出会えるもんでもない……だからの、ちょろっと使って見せるぐらい……別にいいじゃろ? な?」
子どものように瞳を輝かせ、おねだりしてくる陛下。
一見すると無邪気だが、有無を言わさぬ“圧”ってやつが凄くてですねェ……――
「…………仰せのままに」
渋々ながら、俺は頷くことしかできなかった。
まぁ正直どんなスキルか興味もあったし……陛下のお墨付きとくりゃ、「検証する」以外の選択肢は無ぇよなァ!!!
再び、しーんと静まり返る大聖堂。
期待と好奇に満ちた皆の視線が、俺1人へと注がれる。
「――これは好機だぞ」
俺だけに聞こえる小声でささやいてくる父。
「もしお前の能力をアピールできれば、陛下から我がベネディスターへの信頼は、お前の代まで揺るがぬものとなるおとだろう。だが失敗すれば――わかっておるな?」
……言われなくても、分かってるさ。
スキル至上主義なこの国で、もし“ハズレスキル”なんてレッテルを貼られようもんなら、俺の未来は閉ざされる。
ましてや、さっき我がベネディスターは致命的な失態を犯したばかり。
陛下は口でこそ許してくれたけど、腹のうちなんてわからない。
要するに「自分は有能だ!」と今ここで見せつけるしか、俺に生きる道はないわけで……。
「……行きますッ!」
俺は、覚悟を決めた。
鑑定系スキルの使い方はよく知ってる。
父や家庭教師から、みっちりと領主教育を受け続けてきたからなっ!
“対象”へと“意識”を向けると。
脳内に無機質な声が響いた――
『――【粗探し】』
同時に現れたのは、複数のウィンドウ。
なるほど、対象1人に1つずつ対応してるのか!
書かれてる文字はっと――
・・・・・・・・・・
■名前
ザカリー
■欠陥
猫アレルギーの猫好きで、夜な夜な自作の猫の人形を抱きしめて寝ている。
・・・・・・・・・・
「嘘だろッ!? 大神官様ってネコちゃん人形抱いて寝てるの?」
「お主ッ、何故メルニャのことを知ってッ――あっ」
俺が口走った言葉につられて自爆した大神官が、白ヒゲを揺らして慌てる。
……え、事実?
その厳かなサンタクロースっぽい風貌で?
しかも人形に名前つけてんの!?
動揺した俺だが――
――次の瞬間、それどころじゃなくなった。
目の前のウィンドウに、衝撃的な秘密の数々が並んでいたからな。
「宰相がシークレットシューズ!? 身長低かったんだ!?」
「わ、私の正装は一分の狂いもないぞッ」
「デュボワ侯爵夫人は訛りを気にして……だからいつも無口だったんだ!?」
「あたしゃァ訛っでなんがァッッ――ひ、やっちまっだよ!」
「ダントン男爵の顔の傷跡、犬に引っかかれて出来たってマジ!? 戦場の勲章って言ってたのに」
「我が愛犬は魔物並みの気性でねぇ、毎日が戦場みたいなもんさ★」
「ぶふォっ!? カぺリ伯爵の愛人、7人もいるの!? 曜日替わりじゃん」
「どういう事かしらッ貴方ッ」
「誤解だ! その……あれだ、民の実態を知るための戦略的“視察”で――」
「だったら部下にやらせなさいッ!」
「んで、皇帝陛下はっ――」
彼女のウィンドウへと視線を送った瞬間。
俺は自分の目を疑った。
・・・・・・・・・・
■名前
██████
■欠陥
███████████████████████████████████
・・・・・・・・・・
「――なッ何だこれ!? 文字が……読めねぇぞ!?」
明らかな――異質。
他の貴族たちの鑑定結果とは全くもって別物。
意味不明に化けた真っ黒の表示。
それはまるで――
――知ってはならない“真実”を、塗りつぶしているかのように。
底知れぬ恐怖とともに、湧き上がったのは好奇心。
読めないんじゃない。|読ませないんだ。
いったいこの黒塗りの先には、どんな秘密が隠されてッ――
「エルヴィンッ!! その口を閉じろッ!」
父の怒号が響き、ようやく俺は我に返った。
――だが、時は遅し。
辺りを支配するは重い沈黙。
秘密を暴かれ、怒りで煮えたぎる貴族たち。
鋭い視線が無数に俺を突き刺してくる。
中でも恐ろしいのは――女帝。
“無表情”とは、まさにこのことだろう。
先までの好奇に輝く彼女と同一人物とは思えないほど、その顔からは全ての感情が消え去っていた。
うわァ……俺、“不愉快極まりない存在”ってやつじゃん……。
父は顔を真っ赤にし、俺の前に立った。
「陛下の御前だぞッ! 守るべき秩序と礼節を、いともたやすく踏みにじるとはッ……お前など勘当だッ!」
「お待ちください、勘当って――」
「恥を知れッ【粗探し】しかできぬ無能めッ!!!」
父は俺を殴り、殴り、ひたすら殴った。
厳しい怒りに染まった父の顔が揺れては徐々に霞んでいく。
待って、俺このままじゃ死んじゃうって!
「――父上ッ!」
必死に声を絞り出す。
はっと我に返ったらしい父は、目を細めて優しい顔を見せた。
「そうだったな……腐っても、お前は俺の息子だ……」
……よかったァ。
何とか……殺されずに済みそうだ……。
「……このままお前が生きておっても、生き恥を晒すのみ。今この瞬間こそ、貴族としての誇りを守る最後の機会……ならばいっそ殺してやるのが当主として、父としての務めであるな」
胸を撫でおろしたのも束の間。
直後、俺の耳に飛び込んできた父の言葉、それは到底信じ難いものだった。
「え……な、なに言ってるんですか、父上? 俺のスキルだってもっと検証すれば、有効な活用方法だって見つかるかも――」
「せめてもの情けだ。一思いにあの世へ送ってやろう」
俺の言葉に耳を傾けることなく、父は静かに剣を抜いた。
その切っ先が振り下ろされる直前、かろうじて俺は身を捻る。
だが避けきれず、白い刃が頬をかすめた。
「ヒッ――」
反射的に身を起こした俺は、一目散に逃げ出したのだった。
それから俺は、ただひたすらに駆けていく。
悲鳴を上げる身体に鞭打って、大聖堂から遠ざかるべく全力疾走し――
「――ッ!?」
次の瞬間、俺は石につまづいていた。
そのまま足がもつれ、無様に倒れ込んでしまう。
「だめだ、早く逃げなきゃッ……うっ」
ゴボッ……
俺は、目を疑った。
立ち上がろうとしたところ、口から血が垂れてきたのだ。
「何だよこれ……ってか全身が血まみれじゃねぇか!」
……そういや俺。
父上に、殴られまくってたんだっけ。
意識した途端、ようやく気づいた。
俺の全身がとうに限界を迎えていたことに。
「痛ェ……たぶん骨も、内臓もやられてんな」
こんなにダメージ受けても人間って意外と走れるのか。
“火事場の馬鹿力”ってやつ?
だけど、もう、ダメかもしれねぇ……。
……俺、まだ15歳だぞ。
せっかくスキルも手に入れて、これからって時に――なんで全部、諦めなきゃなんねぇんだよッ!
ゴトゴト……
地面越しに響いてくるのは、聞きなじみのある“音”。
これ、何の音だったかな……。
徐々に大きくなる振動。
遠のきそうだった意識が再び現実へと引き戻される。
いつの間にか皇都の外まで逃げていたらしい。
真上に昇る太陽。
広い草原を横切るまっすぐな街道。
向こうから駆けてくるのは、1台の荷馬車。
「……そうか、馬車の音だ」
その“対象”を意識した瞬間。
脳内に“声”が響き、目前にウィンドウが表示される。
『――【粗探し】』
・・・・・・・・・・
■名称
ロームウッド商団の荷馬車
■欠陥
前輪の車軸が劣化しており、走り続けると脱輪する。
・・・・・・・・・・
「だ、脱輪ッ!?」
いやヤバいだろッ!!!
馬車の御者はのんびりした顔で座っている。
ありゃ絶対気づいてねぇぞッ!
考えるより先に体が動いた。
馬車の進路をふさぐように道へと飛び出す。
「――止まれェッ!」
「ひゃッ!」
驚いた御者が、グッと手綱を引く。
駆けていた馬たちは多少バランスを崩すも、どうにか停止できたらしい。
「おいどうした!?」
「盗賊かッ?」
すぐに荷馬車から飛び出してくる人々。
いかにも商人な服装が多いあたり、鑑定文にあった『ロームウッド商団』とやらで間違いないだろう。
「――って、あなた! 傷だらけじゃないですかっ!」
1人で駆け寄ってきたのは、刺繍入りローブを羽織った旅人風の少女。
走った拍子にフードがずれて、つややかな長い銀髪が陽にきらめいた。
その大きな瞳は、心配そうに俺をまっすぐ見つめている。
いわゆる整った顔立ちというやつだ。
俺と同い年ぐらいか――
いや、それどころじゃなかったわー、俺。
(※絶賛死にかけ中)
俺は苦しい息を整えつつ、必死に言葉を絞り出す。
「その馬車……脱輪するぞッ」
「脱、輪? え??」
「しゃ……車輪の軸が、劣化してやがる……」
商人らしき男も話に割り込んでくる。
「は? そんなわけねぇだろ! うちの馬車はな、昨日寄った街で点検したばかりなんだぞ!」
「いいから調べろ……前輪の、車軸……だ――」
ここまで言い終えたところで、俺は意識を手放した。
歌が聞こえた。
古い祈りを思わせる厳かな旋律。
それでいて春の陽射しのように暖かく、どこか懐かしい少女の声。
初めてのはずなのに、妙に頭の中に染み込んでくる不思議な歌声にひたるうち、ふと思い出す。
「…………そういや、俺、前世――『デバッガー』だったわ」
――これは、
前世で“不運体質なデバッガー”だった俺が、
このスキル至上主義な異世界にはびこる“欠陥”を発見し、
そして修正するまでの日々を記録した物語である。
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