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時は混沌の時代、人類が永き戦いの果に魔王に敗れ、魔族により支配され管理される世界となり数世紀。昨今魔族レヴナントによる人類への犯罪行為は社会問題となり頭を抱える政府。
「なんとかならないものかね?又被害者が出た。これで30人目まだ若い17歳だ」
議長は重苦しくため息をつく。
「軍も警察も注意喚起と法令による圧力や罰則をより強めていますが限界です」
議員は悲痛な現場の声を代弁する。
ここ半年で30人若い世代が強制的吸血で搬送される事件が多発していた。
レヴナントは生理現象の一つとして吸血衝動を持つ。これは負の生命力を維持する上で重要なことで吸血パックなどで代用されるのが、一般的で生き血を啜るのは両者の好意や同意確認が必要でありマナーだ。
「もう呼ぶしかありませんね。真祖を」
若い議員は提案する。魔族の黄金期を作った魔王・真祖を召喚しその支配の権能で圧力をかけ無法者を法のもと始末する。
魔王・真祖とは本来異界に存在しており、器を用意して精神と魂を召喚することで生まれる魔族の絶対の支配者である。
鮮血神殿
魔王を召喚する為に用意され、魔王と異界を繋ぐ門である。
会議から数カ月後議員たちにより、魔王召喚の儀式が発令され
今日実行される。国はちょっとしたお祭り騒ぎだ。
必要な媒介と魔力を揃えいよいよ召喚する。
異界ー現世ー
ゲームオタクでプログラマーでもある、水樹撫子は今日もオンラインゲーム、レヴナントロードをプレイしていた。人の血を啜るレヴナントとなり、反逆した魔族を狩るダークな世界観と乙女ゲームのような甘いイベントも多く、乙女に人気の作品だ。
サービス開始からはじめ今や上位ランカー、高難易度ミッションをこなすのが日課となっている。ゲーム内ではレベル550全ステータスUランクに加えボーナスポイント1万と上位者に相応しいえげつなステータスとなっている。
今日も苦労して高難易度の敵を撃破し、戦利品を眺めていると。
「魔王を呼ぶ声が聞こえます。ダイブしますか?ダイブすると二度と戻れません。」というシステム文が現れる。
「なにこれ?新イベント?物足りないと思ってたのが通じたのかしら?」
撫子はためらいもなくOKをクリックする。
再度の通告のあとで持ってゆくアイテムを選択しダイブボタンをクリックする。
眩い光が弾け、気を失い目が覚めると豪華な部屋の一室だった。
「ここはどこ?ファンタジー世界みたい。私どうなったんだっけ?」
痛みはないが動けない。まるで身体が作り変わっていくような感覚に恐怖を覚える。
窓から見える外は血のような夕焼けがひろがる。
「誰かいないの?」精一杯声を上げると喉に痛みが走る。
そして途端に乾きに襲われるのだ。
ここはどこで、自分はどうなるんだろうと不安が心を埋め尽くす。
何分たったのか?長い沈黙の時間はノックと共に現れたメイドにより終わりを迎える。
「真祖さま目が覚めましたか?お世話をさせていただくナーヴェと申します。」
柔らかな微笑みを浮かべ丁寧にお辞儀をするメイド。
メイドナーヴェは事細かく事態を説明した
凶行を繰り返す法令に従わない同胞。繰り返される悲劇。真祖の役目。
「なんとなく事情はわかったわ。でも私殺しなんて、」出来ないという言葉は続かなかった
ナーヴェの瞳がそれを許さなかった。
「これは魔族の尊厳に関わる大問題なのです!お優しいのは良いですが凶行を繰り返す同胞は次第に理性を失います。更正されれば良し、出来なければ死を。不老不死のレヴナントにとって唯一死を与えられるあなた様は救いなのです!どうか御身よご決意を!」
撫子は思い出した、ゲーム内ではそういう設定もあったと、何度も何度も死に帰り、絶望し心を病んでゆく反逆の魔族達はプレイヤーが与える終焉を乞い願い待っているのだ、唯一の安らぎを。
撃破されたレヴナントの魂は真祖に力を与え浄化され異界に還り、再び命として芽吹く。
これは死がないレヴナントにとって救いでレヴナントに襲われた人間からみても救いなのだ。これは現実だ、ゲームの世界に転移したのだと気づくのに時間はかからなかった。
1ヶ月が経ち、真祖の器との定着も完全なものとなり、身体も自由に動かせる。
美味しい料理に、ナーヴェによる献身的な看護で体調は良好。
ナーヴェは撫子のステータスを確認し身分証明書を手渡す
「なにこれ?名前 ティアナ・ドロッセル?レベル1」
どうやら異世界に転移したことでレベル1に戻りすべてのステータスがGランクとなり
ボーナスポイントも0になっているようだ。
「5年分のプレイデーター引き継ぎじゃないの?」落胆する撫子改めティアナ。
「ドロッセル家に伝わる秘伝の迷宮に潜ればレベルアップなんてすぐできますし、ロードオブメイガスという魔書も御座います。この魔書は世界のあらゆる魔術や魔法を行使出来る神話級のアーティファクトです。」
「それに御身には魔剣デュランダルがありますし、戦闘スキルも優秀で扱いやすいモノが揃ってます!先ずは基礎レベルを上げてランクAを目指しましょう!」
ナーヴェは明るい声で励ましてくれるが、ショックは大きいものだ。
ここに魔王・真祖は誕生した。オール最低値に戻ったステータスを見て落胆する
金髪碧眼の美少女でスタイルも抜群になったことよりも、5年分育て上げたデーターがゼロになったことに驚き嘆きの涙を流している。
最弱となった真祖の討伐の旅はまだまだ遠い。
彼女がロードオブメイガスと畏れられ、
魔族の絶対者とし世界を支配するのはまだ先のお話である。
第一話真祖誕生終わり