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ある雨の日のこと。一人の高校一年生、冲下光星(おきしたこうせい)は用事があっていつもは通らない道を自転車で通っていた。すると、道の脇に何かがあることに気がついた。大きめの置物かと思ったが、よくよく見て、スマホのライトで照らすと、それはぐたっと横たわった猫だった。その周りに何かが黒光りしていた。それをまたよく見ると、それはたくさんの血だった。きっと車にはねられたのだろう。動かないが、死んでもない。光星は部活で使う汗拭きタオルを出して、自転車から降り、駆け寄った。そしてタオルでくるんで抱き上げ、自転車の前のカゴに上着を敷いて、その上にタオルを巻いたまま横たえた。「絶対に助けるからな」そう言って自転車を漕ぎ出した。
「あら、光星。おかえりなさい」「おかえり〜」光星の母、光(ひかり)と、光星の父、光輝(こうき)が出迎えた。玄関にはカレーの匂いが漂っていた。「母さん!父さん!俺、猫を拾ったの」光星が言った。「頼む!世話だけはさせてくれ」「いいぞ。だが、うちの子たちに病気は移すなよ」光輝は言った。光も同意した。「光ノ助、光子!ままごとの鍋貸してくれ。」「兄ちゃん、たらいにお湯、入れてくれる?」「お母さん、綺麗な包帯と消毒液、ガーゼをそこのソファの近くにおいておいて。あと毛布も!」「お父さんは動物たちをクレートに入れて」テキパキと指示を出して光が用意してくれた毛布の上に猫をそっと置いてタオルを広げた。「嘘…」「こんなにひどかったんだ」家族が驚きの声を上げるのも無理はなかった。猫は全身血まみれで、息絶え絶えだったのだ。手伝いに来た兄弟もびっくりしていた。「よし。やるぞ」
「光子、これにお湯を入れてきて」「わかった」光星は光子(ひかりこ)におもちゃの鍋2つをわたした。「兄さん。この布に水、つけてきて」「おっけ」兄の光次郎(こうじろう)布をたくさん。そして自分は、キッチンペーパーで、注意深く傷口をふいていった。傷口にキッチンペーパーが触れるたび、わずかに子猫はピクッと体を動かした。そう。車にはねられたのは子猫だった。そして治療をすぐ済ませ、動物病院へ急行した。
結果は、猫風邪のかかりかけ。薬を2日ほど服用すれば収まるとのことだ。そし左後足を骨折、右前足は骨折はしていないがひどい打撲をしていた。そして失明してしまっていた。
それから1ヶ月後、きくらげと名付けられた子猫は今や立派な三毛猫だった。性別はメス。生まれて九ヶ月ぐらいだろう。きくらげはのんびりと日光浴をしていた。光の当たり具合で、綺麗な花緑青や絹鼠色になったりする。「きくらげ、おいで!」命の恩人の光星がしゃらしゃらと音がする猫じゃらしを降って誘った。ハッときくらげは顔をあげて日光浴をしていたソファから飛び降りた。目が見えない分、かすかな音にも反応する。きくらげは家族だが、誰の愛猫かと言ったら光星だ。光星も光次郎も思春期だと言うのに自室のドアを外してきくらげが通りやすいようにする。
しばらく寝たきりだったのが、今は楽しそうに遊ぶし、要介助でも口からちゃんと食べられる。獣医さんも驚く回復ぶりだ。
「すごいね。よくここまで回復したね」みんなはきくらげを褒める。
そしてその数年後、光ノ助の兄で光星の弟が猫を見つけるのだった