「はぁ……本来この説明は一日で終わるはずだったんだけど、だーれーかーさーんが暴れるせいでこぉんなに長く説明しなきゃいけなくなっちゃったねー!!」
「happy様を困らせて下さりありがとうございます!!」「なんなの君……」
「いや、知らないっすけど……」
「何が知らないっすけどだ!!昨日は君が短剣振り回してるのを制圧するので説明できなかったんだよ!!」
「へぇー」「他人事だと思ってない?君のせいだよ?」
「……もしかして、昨日話したことも覚えてない?」
「覚えてなくはなくはないっすね」「どっち?」「覚えてない」
「何マジで……。まぁ、君に覚えててもらわなきゃまずいから、説明はしなきゃいけないんだけど。だる」
「ーーあのね。まずここは飛行船。この船内で、君はとある実験の参加者に選ばれた」
(目が見えるようになる……その代わりがこれか。昨日から拘束されてる時点で、薄々勘付いてはいたがーー)
「怪しい裏稼業に巻き込まれたんすね」
「そんなとこ。で、その実験の内容で、君には特殊能力が渡されている」
「特殊能力?漫画みたいなってことすか?輝煌グループならありえなくもなさそうっすけど」
「……は?」
happyの声色が変わった。
……そう言えば、あの時に聞いたことは知らない体で話しないといけないんだっけ。
さもないと、俺は機密情報を普通に知っている奴になってしまうし。
本来なら、目の前に立つ白髪の男がhappyという名前を付けられていることも、知らない筈だったわけだ。
今となっては遅いが。
「なんで輝煌グループのこと知ってんの?お前……本当にただの参加者か?」
「……ほら、そこにロゴがあるじゃないっすか。だから輝煌グループのあれなのかと思ったんすけど」
といって、その辺においてあるテレビを指さした。
今のテレビ業界的には、輝煌グループともう一つの企業で2分割されている。
賭けだったわけだが、まぁ実際輝煌グループの主催する実験なので自社製品だろうなと思った次第だ。
happyは、まだ不服そうだが、自分が変に取り乱してもまずいと気づいたのか、落ち着いて椅子に腰かけた。
「はぁ、まぁいいけど。……で、君の能力は”光を操り転送する能力”ね」
「なんすか、それ」
「説明し」「説明しよう!!」「は??」
「大台音端の能力、光を操り転送する能力とは、文字通り光を操り転送する能力だ!!」
「blossom、(放送禁止用語)」「ひっ、酷いよhappy様!!俺が最近お風呂までついて行ってるからかな……」「そうでしかない」
「えっと、光を操るっていうのは流石に分かるでしょ?問題は後半だよね。転送するっていうのは、要はテレポート。自分を飛ばしたり、他人を飛ばしたりできるよ」
「なんでしたっけ、あのドラ〇エの……」「君よくそんな口聞けるね……ルー〇のこと?」「あ、それっすね」
「でね、君以外にも参加者は居て、そいつらにも順次能力が配られる予定なの。ただ、君にはみんなより先に能力を渡した。僕たちに協力してもらうために」
「嫌っすけど……」「拘束してる時点で拒否権はないっていい加減気付けないかな?」
「まぁ、後々拘束は解かなくちゃいけなくてさ、その時から反逆されても困るから、ちょっと姑息な手を使おうと思って」
「姑息なhappy様……これはわからせ」「(放送禁止用語)」「今日なんか酷い!!」
「なんすか、姑息な手っていうのは。人質でも取ってるんすか?」
「それもいいよね。でも君には効かないでしょ?」
「僕には主様がいるじゃないっすか」
「自虐のつもり?本当は大して主様を追ってないんでしょ」
「……!」
彼が言った、「本当は主様を追ってない」というのは正直図星だった。
主様は偽物だから、その偽物を追うだなんていう探偵ごっこを自称していた。
僕の大好きな主様を乗っ取った偽物が許せないと。
しかし、本当は、
本当は主様のことが憎かった。
俺の両親は、主様に、天神白兎に殺されている。
「こっちも色々調べてるんだよ。君が一番仲間に引き入れられそうだと思ってたからね」
「君の両親が亡くなってるのも知ってるし。短期間で色々起こってるやつって、既に何かが壊れてるやつが多いから」
「……喋んないの?そっか。妨害が無くてすっごい楽だわー!!」「happy様が生き生きしてる姿を合法で見れるだと??」
「ま、こんなのまだ序章だよ。君には主様関連が効かないって言うことを説明しただけ。こんなんでダメージ受けてたらほんとに死んじゃうよ」
「じゃああれしちゃいます?やっちゃいます?」「さっさとやって。時間押してる」「冷たいなぁもう」
blossomが俺をするりと避け、俺の背後にあった扉をすり抜ける。
その最中にもhappyは俺に何かを話しているが、あの親が死んだ光景が脳裏によぎって、話が頭に入ってこない。
首を切られて亡くなっていた両親。
苦痛にゆがむこともなく、驚いたような表情もせず、まるで日常の一部のように、ごく当然なことのように胴体以下がなくなっていた。
出血量も最低限というかほぼなく、胴体と頭を縫い付ければ動き出しそうなくらい外傷がなかった。
いっそのこと、ぐちゃぐちゃな死体だった方が良かったのに。
「ボタン押しときました!どぞー」
「おっけ、じゃあ説明する。……実はね、能力には代償があるの。ゲームだったらMPが減る、HPが減るとか。それと同じように、能力にデメリットがあるんだよね。その代償は当然君にもある。それがこいつ」
そう言うと、happyは部屋中央にあるテレビに、一人のケースに入れられた男を映し出した。
栗色の毛に、白衣を纏っているその男に、俺は見覚えしかなかった。
「坂巻さん……?」
「坂巻って名前だっけ?」「そうですよhappy様!」
「坂巻ね、僕らはemptyって呼んでる。元はこの飛行船内で行われてる実験の担当者だったんだけど、とある事件があってね。今はまぁ……色々あって、元の彼じゃなくなってる」
「それってどういう……」
「僕も詳しい事は分かんないんだけど、坂巻の脳みそをちょっと弄って……具体的に言えば神経の一部を除いてAIに接続させたらしい。それで、今までの記憶を全部消してほぼ完全なロボットにしたって」
「要は、今までの坂巻透を完全に殺して、新しくemptyっていうロボットにしたってことですね!」
絶望。
ただその二文字が、俺の頭に巣食っていた。
坂巻さんは、俺の視力を回復させてくれた張本人だ。
ある病院の医者と言われ、特に金もとらずに視力を回復させるなんて言うもんだから、かなり怪しんでいたが、
実際彼の人格というか性格というか……あの感じが、なんとなく嘘とは思えなくて、気づいたらその病院に居た。
俺もさっさと視力を戻して天神に復讐する気でいたから、それも少なからず影響していただろう。
手術が終わった後も、定期的に天神邸に訪ねてきてくれて、よく色々なことを話していた。
俺にとっては、初めての友達だったと言える。
親が亡くなった後だったこともあって、自然と親の姿を彼に重ねていた。
そんなこともあってか、俺が天神を心底恨んでいるといった話をした時も、引いたりすることなく聞いてくれて、あんな重い話を話せるのも彼以外いなかったから、今思えばかなり依存状態だったかもしれない。
しかし、そんな彼はもういないという。
あの日、天神邸に訪ねてきた愛想のよい医者はもういないのだ。
一方的に依存できるような、天使のような、神のような、あの人はもういない。
そう言えば、彼はあの時こんなことを言っていた気がする。
「実は、君の視力を回復するのに少し規則を破ってしまった。でも、規則違反なんて日常茶飯事だから大丈夫だ。それに、君は何も気にしなくていい」と。
「emptyが君の代償の何に関係しているかって言うと……って、聞いてる?お目目を合わせてお話を聞こうって、小学校で習わなかったかな?」
「人外は小学校通ってませんよ」「あ、そうじゃん。ごめん」
「坂巻さんは……もしかして、俺のせいで……」
「まぁそうだね。でも本望だったんじゃないの?なんか、困ってる人を助けたいとかなんとか言ってたし」
「……」
「でね、君の代償なんだけど。君の代償は、”5回能力を使用すると別人と入れ替わる”ことだ」
「別人と……入れ替わる……?」
「君が能力を5回使用したとする。そしたら、君は強制的に気絶する。それだけじゃない、君の体は一時的に消えるんだ」
「それと同時に、今まで君の体があった位置に、別人の体が転送される。そして、別人は意識を取り戻す」
「その別人って」「勿論、emptyですね」「嘘だ……」
「逆に、その別人……emptyが能力を5回使用したら、emptyは気絶して体を一時的に消される。そして、emptyが元居た位置に君の体が戻って、君は意識を取り戻す。こんな感じ」
「じゃあ、能力を5回使用したら、しばらくの間死んでるみたいな状態になるっていう認識でいいっすか」
「めちゃ分かりやすいじゃん。happy様から乗り換えるかも」「え?いや……え?」「冗談ですよーww」「死ね」
「……てか、能力で協力してほしいんすよね」
「そう。君には坂巻をあんなんにした罪があるでしょ、それに主様の事を憎んでるとかいう従者失格情報をこっちは握ってるんだけど。一択じゃない?」
「ひゅー、happy様のこういう顔もイイ……っ!!責めたいし責められたいよぉ……!」「今日暴走しすぎでしょ」
「邪魔入っちゃったけど、もう一択でしょ。一応聞くけど、協力してくれるよね」
「……何すればいいんすか」
「えっと、これから始まる実験には複数の参加者が居るって話はしたよね。実験にはいくつか会場があって、そこに参加者たちを移動させなきゃなんだけど、移動中になんかあったら不味いから、会場にテレポートさせてほしい」
「どこに誰を飛ばすとかは指示するから。後、君の代償も活用する。代償でemptyに入れ替われるでしょ?emptyを使いたい時があるから、その時に指示されたら能力を5回使って」
「要は指示されたらそれ通りに動けってことですわ!!」
「……なるほど」
「指示は遠隔で送る。丁度君はウインドー族だしね」
「あと、これが一番重要なんだけど、この協力の話を絶対バレない様にして。もしバレちゃったら……永遠にemptyのままにしてやるから。君の言葉を借りたら、永遠に死んだままにしてやる」
「ぐちゃぐちゃにしてやるみたいなこと言わないでくださいよ」「シリアスを壊さないでくれない?」
「はぁ……分かったっすよ。嘘つくのは得意っす」
「じゃ、頼んだよ」「happy様を勝たせてあげてくださいね!!」
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