第4話
夜の街は静かだった。
住宅街の街灯がまばらに灯っていて、
風が通るたび、木の葉がかすかに揺れる音だけが響いていた。
家への帰り道。
私はスマホを片手に、ゆっくりと歩いていた。
『今日の授業、マジ眠かった〜』
メッセージを送って、
画面をじっと見つめる。
すぐに既読がついた。
……でも、返事はこない。
「え、既読スルー!? ひどっ!」
思わず小声で文句を言って、
夜の静けさの中、自分の声が妙に響く。
“ピロン♪”
『お前が寝てただけだろ。』
「うわっ、見てたんかい!」
思わず笑ってしまう。
真っ暗な道の真ん中で、スマホの光だけが眩しい。
『てか、まだ起きてんの?』
『うん。宿題やってるフリして、チョコ食べてる。』
『フリて。やってねぇじゃん。』
『明日やるもん!』
『それ昨日も言ってた。』
「ぐぬぬ……相変わらずツッコミ鋭いなぁ。」
メッセージを打つ指が止まらない。
なんだか、話してるみたいに楽しい。
けど、ふと──
夜の冷たい風が首元をなでた瞬間、
スマホに新しい通知が届いた。
『夜道だろ?ちゃんと前見て歩け。』
画面の光に照らされて、
心の中まで少し温かくなった気がした。
「……なにそれ。」
思わず小さく笑う。
『え、心配してくれてる?』
『……バカが転んでニュースになるの面倒だし。』
『ひどっ!!』
『早く帰れ。おやすみ。』
既読。
それっきり、画面は静かになった。
でも、閉じる気にはなれない。
スマホの光を見つめたまま、
つぶやくように笑う。
「……なにそれ、ずるい。」
頬が少し熱い。
夜風が、心までくすぐっていった。
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