テラーノベル
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第二ゲームを終えたメバル、カキ、マサカゲ、ミステー、アオノの五人は、長い通路の先にある鉄扉の前へたどり着いていた。
扉には、これまでの施設にあったものとは違う、不気味な装飾が施されている。
白と黒の正方形が、無数のマス目となって扉全体を覆っていた。
「この模様、ゲーム盤みたいだね」
メバルが扉に触れる。
指先が触れた瞬間、扉の中央に赤い線が走った。
ゴウン、と低い音が響く。
鉄扉が左右に開き、その先に広大な空間が現れた。
床、壁、天井。
すべてが白と黒の巨大なマス目で構成されている。
部屋の中央には、一本の太い柱が立っていた。その柱の上には、巨大な立方体が吊り下げられている。
一辺が人の背丈を超える、巨大なサイコロだった。
六つの面には、一から六までの数字が刻まれている。
しかし、目の部分はただの点ではない。
赤い光が、血管のように内部で明滅していた。
「でかいサイコロだな!」
カキが駆け寄る。
「これ、鉱石じゃないよな?」
「カキちゃん、何でも採掘対象にしないでよ!」
メバルが止めるより早く、カキがサイコロの支柱へ手を伸ばした。
その瞬間、床から細い金属棒が飛び出す。
カキは反射的に後ろへ跳んだ。
金属棒が、さっきまで手を伸ばしていた場所を貫く。
「うおっ! 危ねえ!」
「だから勝手に触らないでって言ったでしょ!」
「触る前に攻撃してくるとは思わないだろ!」
アオノは床に開いた穴を確認した。
「接触防止用の自動迎撃装置。サイコロそのものへの干渉は禁止されていると考えたほうがいい」
「つまり、見るだけなら安全?」
ミステーが尋ねる。
「現時点では」
ミステーは巨大サイコロをじっと見上げた。
「見られている気がする」
「サイコロに目はないよ、ミステーちゃん」
「六つある」
「その目じゃない!」
そのとき、部屋全体に機械音声が響き渡った。
『第三ゲームを開始します』
五人の腕輪が一斉に点灯する。
『ゲーム名――鬼畜サイコロの世界』
メバルが頭上を見上げた。
「名前からして、絶対にろくでもないゲームだよね」
『参加者は盤面上のチェックポイントを通過し、最奥のゴールを目指してください』
床に赤い円が浮かび上がった。
赤い円は、五人のいる場所から数十メートル先まで、複数のルートに沿って配置されている。
『各チェックポイントへ進入するたび、中央のサイコロが一度だけ振られます』
巨大サイコロがゆっくりと回転を始めた。
内部から、金属部品がかみ合う音が響く。
『出目に応じて、その区画のルールが変化します』
「先に全部説明してくれないかな!」
メバルが声を張り上げた。
『ルールは、出目が決定したあとに表示されます』
「後出しじゃんけんじゃん!」
マサカゲが盤面を見回す。
「チェックポイントは全部で五つ。つまり、五回ごとにルールが変わる可能性が高い」
「最初から難易度が高すぎないか?」
カキが腕輪を確認する。
「しかも、罰則について何も説明されてないぞ」
『ルール違反を確認した場合、腕輪が参加者の身体機能を制限します』
五人の腕輪から、同時に警告音が鳴った。
『なお、ゲーム中に行動不能となった場合、救済はありません』
メバルの表情から笑顔が消える。
「……つまり、動けなくなったら終わりってこと?」
『そのとおりです』
「そこは否定してよ!」
最初の赤い円が点滅した。
『第一チェックポイントへ進んでください』
五人は慎重に歩き始めた。
一マス。
二マス。
三マス。
床のマスは、踏んだ瞬間にわずかに沈み込んだ。
カキが足を止める。
「今、床が動いたぞ」
「一定の荷重を検知している。沈むだけなら、罠ではない可能性が高い」
アオノが淡々と答える。
「可能性が高いって、確定じゃないのか?」
「確定させる方法はある」
「何だ?」
「誰かが先に踏む」
「それ、俺にやらせる気だろ!」
マサカゲが手を上げた。
「全員、歩幅を合わせろ。勝手に動くと、仕掛けが作動するかもしれない」
「了解!」
カキが返事をした直後、先頭の床が突然せり上がった。
白いマスが壁のように立ち上がり、五人の間を分断する。
「カキちゃん!」
「大丈夫だ! こっちは動ける!」
カキが壁の向こうから叫ぶ。
マサカゲが盤面を確認した。
「壁は一定時間で下がる。無理に越えるな。次のマスが作動する可能性がある」
巨大サイコロの回転が止まった。
表示された数字は、三。
空中に赤い文字が浮かぶ。
『三の目――誰かが嘘をつく』
「嘘?」
メバルが腕輪を見る。
『チェックポイントを通過するまでの間、参加者のうち一人は嘘をつき続けなければなりません』
カキが壁の向こうから叫ぶ。
「嘘をつかなかったらどうなるんだ?」
『全員に罰則』
「だったら、誰かが嘘をつくしかないな」
マサカゲが考え込む。
「問題は、誰を嘘つき役にするかだ」
メバルがすぐにミステーを指差した。
「ミステーちゃん!」
「なぜ僕?」
「いつも不思議なことを言ってるから、嘘をついても見分けにくそう!」
「僕は嘘をついたことがない」
「その発言がもう怪しいんだよ!」
ミステーは真面目な顔で考えた。
「では、僕が嘘をつく」
「本当に?」
メバルが聞き返す。
「嘘だ」
「早い! もう始まってる!」
腕輪が赤く点滅した。
『嘘つき役を確認』
分断していた壁が下がり、五人は再び合流した。
「ミステー、行動を予測されないようにしろ」
マサカゲが指示する。
「嘘をつく必要があるなら、曖昧な発言を避けろ。全員が判断を誤る」
「分かった。僕は右へ進む」
ミステーは左へ進んだ。
「いきなり逆!」
メバルが叫ぶ。
『嘘の成立を確認』
巨大サイコロが再び回転を始めた。
『追加条件を提示します』
「追加?」
アオノが顔を上げる。
『嘘つき役が、他の参加者全員から嘘だと見抜かれた場合、出目を再決定します』
メバルがミステーを見る。
「じゃあ、ミステーちゃんの言葉を全部信じる必要があるってこと?」
「僕は右へ進む」
「左へ行ったよね?」
「僕は右へ進んだ」
「それはもう、現実をねじ曲げてない?」
ミステーが真顔で答える。
「右とは、心の方向だ」
「そんなルールないよ!」
五人が四つ目のマスへ進んだところで、巨大サイコロが停止した。
表示された数字は、六。
部屋の照明が赤く染まる。
『六の目――全員が敵』
五人の腕輪が、低い警告音を鳴らした。
『制限時間、五分』
「全員が敵って……私たち五人が?」
『参加者は、他の参加者を敵と認識してください』
「認識って言われても、仲間は仲間でしょ!」
『制限時間内に、敵対行動を成立させてください』
床の奥が開き、黒い防護装置がせり上がった。
五人の間に、透明な壁が展開される。
それぞれの周囲に、赤い円形の範囲が表示された。
『敵対行動を実行しなかった場合、全員に罰則』
マサカゲが拳を握る。
「攻撃するしかない。だが、相手を傷つける必要はないはずだ」
「本当に? このゲーム、そんなに親切かな?」
メバルが銃を構えた。
しかし、銃口は誰にも向けず、床へ下げている。
『敵対行動を確認できません』
「まだ始まってないだけ!」
直後、カキが防護壁を飛び越え、メバルへ突進した。
「メバルちゃん、悪い!」
「カキちゃん、ちょっと待って!」
カキの拳がメバルの肩へ迫る。
メバルは身をひねって避け、銃のグリップでカキの腕を受け流した。
「痛くないようにするからね!」
「こっちも本気でいくぞ!」
カキが床を蹴り、再び距離を詰める。
メバルは後退しながら、空いた床へ向けて発砲した。
銃声が広間に響く。
弾丸は床の装甲に弾かれ、赤い光がカキの腕輪に走った。
『敵対行動を確認』
「よし、一人分!」
「一人分って言い方、怖いよ!」
反対側では、ミステーがマサカゲへ向かって歩いていた。
「マサカゲ、僕は今から攻撃する」
「宣言するな!」
「敵対行動を成立させるために必要だ」
「分かっている!」
ミステーが警棒を振り下ろす。
マサカゲは身を引き、警棒を受け止めた。衝撃を逃がすために手首を返し、そのままミステーの腕を押し下げる。
「ミステー、攻撃は軽くしろ!」
「加減している」
「その割には床がへこんでいるぞ!」
警棒が当たった床のマスが、大きく陥没していた。
「加減の基準がおかしい!」
一方、アオノは戦闘に加わらず、盤面の端にある制御装置へ向かっていた。
赤い光の流れを目で追い、装置の側面に手を伸ばす。
『協力行動を検知』
『敵対行動が不足しています』
腕輪が一斉に点滅した。
メバルとカキの動きが止まる。
「まずい! 敵対行動が足りないって!」
「アオノ、装置を止められるか?」
「可能。ただし、今は無理」
「どうして?」
「ミステーとマサカゲの攻撃判定が、まだ一人分として処理されていない」
マサカゲがミステーを押し返す。
「どういう意味だ?」
「攻撃が軽すぎる。装置は、相手が敵だと判断した動作を要求している」
「つまり、本気で攻撃しろってこと?」
メバルが叫んだ。
「こんなときにKさんがいたらなぁ……」
その言葉に、全員の動きが一瞬止まった。
K-Tがいれば、誰よりも早く状況を整理し、誰よりも先に危険へ飛び込んでいた。
そして、どれだけ無茶な攻撃を受けても、きっと短く言う。
――問題ない。
メバルは拳を握り直した。
「……でも、今は私たちしかいない」
カキが笑った。
「そうだな! Kさんがいないなら、俺たちでやるしかない!」
マサカゲがミステーへ向き直る。
「ミステー、次の攻撃は本気で来い。ただし、急所は避けろ」
「了解した」
「アオノ、装置の停止準備を」
「完了している」
「メバル、カキ。二人も同時に」
「分かった!」
「任せろ!」
五人は、それぞれ別の相手へ向かって走り出した。
カキがメバルの銃を狙って拳を振る。
メバルは腕を引き、空いた手でカキの胸元を押し返した。
マサカゲはミステーの警棒を受け止め、肩で押し込まれる。
ミステーは力を緩めず、マサカゲを数歩後退させた。
その瞬間、五人の腕輪が赤く点灯する。
『敵対行動、成立』
アオノが制御装置のスイッチを押した。
赤い照明が消える。
透明な壁も、床の赤い範囲も、すべて消滅した。
『敵対時間、残り四分十二秒』
「まだ終わってないの!?」
メバルが叫ぶ。
『敵対ルールは、出目が変更されるまで継続します』
巨大サイコロが再び回転を始めた。
マサカゲが息を整えながら、盤面の奥を見た。
「つまり、次の出目が出るまで、俺たちは敵同士のままだ」
カキが拳を構える。
「あと四分も、仲間と戦うのかよ!」
ミステーが静かに警棒を構えた。
「敵として、良い時間だ」
「ミステーちゃん、そんなに嬉しそうにしないで!」
サイコロの回転速度が上がる。
六つの数字が、すべて赤く点滅した。
やがて、空中に新たな文字が浮かび上がる。
『次の出目は、参加者の行動によって決定されます』
五人は互いに距離を取りながら、巨大サイコロを見上げた。
サイコロの内部で、何かがゆっくりと組み替えられている。
それは、五人の動きだけでなく、性格や判断までも読み取ろうとしているようだった。
そして、次の瞬間。
サイコロの一面に、数字ではない黒い模様が浮かび上がった。
コメント
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読了しました。第7話「鬼畜サイコロの世界」、めちゃくちゃ面白かったです。サイコロの出目でルールが変わる仕掛け、しかも「嘘をつき続ける」とか「全員が敵」とか心理戦を強要してくるあたり、このゲームマスターの嫌らしさが滲み出てますね。特にミステーがあっさり嘘つき役を引き受けて「右へ進む」と言って左へ行く流れは、彼の掴みどころのなさが光ってました。あと、K-Tさんの不在を感じさせる空白の時間が逆に五人を強く結びつけている描写にじんときました。最後に出た「数字ではない黒い模様」、何を示しているのか気になる…続きが待ち遠しいです。
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